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三人で固まっていたらじゃじゃりとあぜ道を走る音が聞こえて、私と那奈の前に高笑いと共に白い着物の澄彦さんが躍り出る。
「出たな! 不届き者め! このしょうぶっ……」
澄彦さんの名乗り口上は勢いよく彼に飛び蹴りをしたこれまたお役目帰りで白い着物の玉彦に遮られる。
「比和子に何をさせているのだ!」
横滑りしつつ着地した玉彦は私の二の腕を強く引き寄せた。
「なんという不埒な格好を……」
「不埒って……制服だけど」
「丈の短いものは穿くなと常日頃言っているはずだ」
「でも制服だけど」
「用もないのにその様な格好をするのはコスプレといって如何わしいものだと豹馬が言っていたぞ!」
豹馬くん、あの短時間で玉彦に何を吹き込んだんだか。
私たちが言い合いをしていると、これ幸いと変質者は前を閉め直して林の方へと駆け出した。
「追え!」
倒れ込んだままの澄彦さんが指示を飛ばすと、どこかに隠れていた稀人たちが暗がりから姿を現し駆けて行く。
「次代め……役目の邪魔をしたこと、覚えておけよ!」
澄彦さんは裾を払いつつ立ち上がり、蹴られた肩を痛そうに擦っている。
対する玉彦はプンスカして澄彦さんに詰め寄った。
「何が役目だ。あれは放っておくものだと『昔から』決められている。耄碌したか!」
「も、耄碌……! 貴様、この澄彦に」
「ふざけるのも大概にしろ。帰るぞ、比和子、鰉」
「えぇ~……でも変質者捕まえないと」
「そうだよ玉さま。うちらだって気になるじゃん」
私と那奈が声を揃えれば玉彦は素知らぬ顔をして口笛を吹く澄彦さんを一睨みして、私たちの肩に手を置いた。
「あれはな、変質者などではないのだ」
「えっ?」
「あっ。バラすなよー」
やっぱり。澄彦さんは正体を知っていたんだ。そして南天さんも知っていたに違いない。
でも須藤くんも多門も知らなかったっていうのはどうしてなんだろう。
程なくして両手に何かをぶら下げた須藤くんと多門を引き連れた南天さんが現れて、私たちの前に丸まった黒い塊四つをぽんと転がす。
那奈が懐中電灯で照らせば、まだ小さな狸と狐が二匹ずつ。
野生の獣とは違い、首元に赤い布が巻かれていた。
四匹は身体を寄せ合ってこちらを震えながら見上げている。
「本当に狐と狸って人を化かすんだ?」
那奈が呟いてしゃがみ込み、四匹に手を伸ばす。
しかし近寄ってくる気配は見せずに増々身体を寄せ合った。
怯える様子を見せるけれど、観念しているのか逃げる気配はない。
それもそのはずで七人の人間に囲まれ、おまけに狼のような風貌の黒駒が辺りをぐるぐると歩き回っているのだ。
逃げ出してもすぐに捕まってしまう。
ちなみに豹馬くんの姿はない。
たぶん玉彦を車から降ろしてそのままお屋敷へと帰ったのだろう。
ということは彼も真相を知っている可能性が高い。
「で、どうすんの、こいつら。黒駒に喰わせて良いの?」
物騒なことを言う多門の脛に蹴りをお見舞いした私は、玉彦の袖を引く。
実害はまだ出ていないし、このままお説教でもして解放で良いのでは?という視線を送れば、玉彦は腕組みをして顔を顰めた。
「『先生』は近くに居るのか」
「はっ?」
問いを聞き返した私を無視して玉彦の視線は狐たちに注がれており、一匹の狐が首を振った。
どうやら言葉は理解できるらしい。
「呼べるのか?」
再び首を振る狐は申し訳なさそうにきゅーんと啼いて俯く。
「昼間の失敗を取り戻そうと内密に乗り出してきたんだろう」
黙って見守っていた澄彦さんが玉彦の隣にしゃがみ込んで、項垂れた狸の首根っこを持ち上げる。
「しかし狙った相手が悪かった。そして狙った場所にいた人間がこれまた悪かった」
「私と多門、ですか?」
「普通なら追い駆けないだろう?」
希来里ちゃんは勇んで追い駆けたけれど。
「驚かすはずが逆に驚かされて、さぞ悔しかっただろう」
澄彦さんの手から解放された狸は再び仲間の元へと身を寄せる。
「澄彦さん」
いい加減に種明かしをしてください、と私が言えば那奈も隣で頷く。
すると澄彦さんは観念したように髪をガシガシと掻いてから座り込んだ。
そして四匹の塊を腕に囲むと自分の胡坐の上に置く。




