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「お、お疲れ様でした」
「うむ」
「あ、次代、御苦労ー」
「……」
「無視かよ。湯上りに一杯、どうだ?」
澄彦さんが盃を差し出して、玉彦も手を伸ばしたけれど動きを止めて首を横に振った。
もの言いたげに片眉を上げた澄彦さんは盃をお盆に戻すと私に下げるように言って気怠そうに立ち上がる。
そうして大きく伸びをし欠伸をして、おやすみーと後ろ手を振って座敷を出て行ってしまった。
玉彦と私は何となくお互いに顔を見合わせて、言葉を交わさず無言で母屋へと戻る。
「これから何するー? ゆっくり休んでおく?」
珍しく畳にうつ伏せに寝そべる玉彦の背に跨り座り、背中に流れる綺麗な黒髪を手綱のように両手で軽く引く。
されるがままになっていた玉彦は何かを思いついたように起き上がり、私は呆気なく背中から落とされた。
「風呂へ行く」
「さっき入ったじゃないの」
「……風呂へ行く」
玉彦はそう言って座椅子に掛けていたタオルを手にするとさっさと部屋から出て行く。
それじゃあ私も一緒にと思って追い掛ければ、ばったりと廊下で多門と遭遇した。
玉彦と多門は目で会話すると、がっくりと肩を落とす。
「あら、多門。どうしたの?」
彼の部屋は私たちの部屋と反対方向なので、こちら側に来るのは裏門の玄関かお風呂に用事がある時だけだ。
そこまで考えてお風呂?と思った矢先、玉彦が振り返りもせず私に言う。
「多門と風呂へ入る。比和子は来なくとも良い」
「え、多門と?」
「うむ。それと俺は今夜から私室の方で休む」
「へ?」
「しばらく俺と多門には関わるな」
「えええ……」
バスタオルと着替えを抱え、呆然と立ちすくむ私を置いて、玉彦と多門はこそこそと何かを囁き合いながら廊下の角を曲がっていった。
俺と多門に関わるなって一体どういうことなのよ。
二人で仲良くお風呂とか。
こそこそしちゃって。
一緒にお役目に出て、同じ被害に遭って何かおかしな友情でも今さら目覚めてしまったんだろうか。
モヤモヤした気分で台所に顔を出すと、豹馬くんと須藤くんが何をするでもなく二人でテレビを観ていた。
私に気が付いても特に二人は反応を見せずにいるので、そのまま定位置の椅子に座る。
「玉様は? 寝てんの?」
ダイニングテーブルに顎を乗っけて顔を顰めると、豹馬くんは須藤くんを見た。
「もしかして、お風呂?」
「何でわかったの!? 多門とお風呂に行っちゃったのよ」
須藤くんは曖昧に笑って冷蔵庫の前まで行くと、ブラックの缶コーヒーを手に取り椅子に戻る。
「冷やさないと、だからかな。緋郎も今頃水風呂に浸かってるよ」
須藤くんがそう言うと、豹馬くんが微妙な顔をして頷いた。
朝にお屋敷に担ぎ込まれた緋郎くんは、数日の間、御門森の宗祐さん預かりとなり現在は御門森のお屋敷にいる。
本当は正武家屋敷の離れで面倒を見るのがセオリーだけれど、ここだと緋郎くんの親御さんが気軽にお見舞いに来られないのでそういうことになったらしい。ちなみに和臣くんは帰宅を許され、今は学校のはずだ。




