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6


 澄彦さんの母屋の台所は、玉彦の母屋と違って最新式のシステムキッチンではなく、ごくごく普通の台所だ。

 そこに私と御倉神、南天さんと、ちゃっかり須藤くんと多門が集まりテーブルについていた。

 目の前には焼きプリンと紅茶が出されて、すっかり三時のおやつタイムである。


「だからね御倉神。私は特に気にしちゃいない訳よ」


 スプーンで焼きプリンの縁をそっとなぞりながら隣の御倉神に語り掛ければ、彼は口を大きく開けて中にプリンが飛び込んでくるのを待っている。


「何やってんのよ。自分で食べなさいよ」


「つれない」


 肩を落として器用に箸でプリンを摘み上げる姿を見ると、笑いが込み上げてくる。

 御倉神はなぜかスプーンやフォークを嫌っていた。

 なのでプリンを食べる時にはいつも箸で食べづらそうにしていた。

 玉彦の台所にはそんな御倉神の為に木製の匙を用意していたけれど、ここでは御倉神は揚げしか食べない台所なので彼専用のものは用意されていなかった。


「しかし乙女。役目とやらに参じたいのではないのか」


「今回のは良いのよ。次のには多分参加させてくれるはずだからさ」


「ふむ。そうか」


 たったこれだけの会話で納得した御倉神は黙々とプリンを食べ続ける。

 最初からこうして話しておけば乱入なんてしなくても済んだのに。

 このあと玉彦からお説教を喰らうのだろうと考えながらプリンを口に運んでいると、多門が私を見ては視線を下に落とす。

 理由は解かっている。

 先ほどの浅田さんが持ち込んだ事案だ。

 被害者たちは『獣に喰われた』ような惨状で、どうしても私の両親と弟が犠牲になってしまった清藤の粛清に似ていたから。

 私と多門の間に蟠りは無くなった、と思っていた。

 彼が清藤の反乱に加担した訳ではない。

 けれど清藤の一族の一員でもあった多門は、私がどんなに言葉で語りかけても心の奥底では贖罪を抱えていた。

 そんな彼に私が出来ることといったら、鈍感を装って接することだった。


「なによ、多門。私のプリンはあげないわよ」


「いっ、いらないよ。そうじゃなくてさ……」


 俯いて口籠った多門に空気の読めない御倉神が絡む。


「わたしの揚げもやらぬぞ」


「いらねーよ! てゆーか今ここに揚げなんかないだろ!」


「おぬし。先達てわたしの揚げをうどんに使ったであろう。忘れぬぞ」


「あれはお前のじゃなくて人間のだっ!」


 御倉神のズレた会話のお陰で暗い雰囲気が何となく払われて、須藤くんが頬杖をついてブラックコーヒーを啜る。

 須藤くんは甘いものは特に好きではないらしく、たまにスイーツ部の活動に顔を出すけどあまり食べない。


「まぁまぁ二人とも。そんなにいがみ合わなくても。上守さんも笑ってないで止めなよ。で、あれ、どうなんですかね。受けると思いますか? 南天さん」


「さぁ、どうでしょう。私たちは当主のご意向に沿うだけですから」


 シンクに立ったまま腰掛けた南天さんは私と御倉神を見てふわりと笑う。


「それにしても御倉神さまは比和子さんがいたくお気に入りのようですね」


「普通神様ってこんなに居ないですよねぇ」


 私が呆れて隣の御倉神を見れば、既にプリンを食べ終えてうつらうつらと舟を漕ぎ始めていた。

 お腹を満たして眠くなるって子供みたいだ。

 というか、神様って眠たくなるのかと不思議に思う。


「御倉神。あっちに帰って縁側でお昼寝しよっか?」


「……うむ」


 目を擦りつつ椅子を離れた御倉神の手を引いて、私は三人に母屋へと戻ると告げて台所を後にする。


 私の身体に流れる神守の血は、こうして神様のおりをする力を秘めている。


 でもさ、って私は思う訳よ。

 御倉神のお守りって、いつもお話して食事して、たまにお屋敷の敷地内を散歩する。

 一度だけお酒の御供をしたけど、大したことはしていない。

 それに未だに私がお守りをしたのは御倉神と、玉彦の守護を担う金山彦神だけ。

 しかも金山彦神に至っては、逆に私が話を聞いてもらって慰められたという本末転倒な為体だ。

 本来の神守の眼はこうした神様を視ることが出来るようにある力だけど、私の場合は違うことに使い過ぎている。

 これからは正武家の為にも他の神様を持成すようにしなくてはならない。

 今年こそは神守の者として正しい活躍が出来ると良いんだけど。



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