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第9話 神の祝福が祝福じゃなかった

久しぶりの更新ですみません…!

今回はいつもよりちょっと長めです!

更新していない間も、ブクマや評価ありがとうございます!とてもとても励みになります!


 今日は、とてもいい天気だ。日差しは柔らかいし、空を流れる雲や木の葉が、ほどよく影を作ってくれる。歩いていると少し暑いくらいの気温だが、時折吹く風が汗を拭ってくれる。

 小鳥たちのかわいい声も聞こえるし、空気もおいしいし、本当に気持ちがいい。

 気持ちがいい、が。


「静かだねー」

「ね、めっちゃ静か」

「軽食でも持ってくればよかったー」

「その辺でお昼寝したい」

「いいなー気持ちよさそう」

「ちょっと」

「なあにー魔女さん」

「気持ちはわかるけど、油断しすぎでしょ」

「だあってえ」

「魔物全然いないんだもん」


 契約を済ませて、早二十分。

 俺たちは、まだ一体も魔物に出会えていなかった。


「おっかしいなあ、こんだけ歩いて、魔物と会わないなんてことないのに。なんか変なこと……」


 あ、と何かに気づいたように、俺を見る魔女さん。え、なに、俺なんかやっちゃいました?


「しえん君、ちょっと手貸してくれる?」

「あ、はい」

「<オクレーレ>」


 魔女さんが、俺の手を軽く握って呪文を唱えると、ラップみたいな透明な膜が俺をぴったりと覆う。


「一時的に、しえん君の魔力を隠したよ」

「なんかあるんです?」

「魔物は、自分より明らかに強い魔力を感じると、寄ってこなくなるんだよね。多分、さっきの契約の時に溢れた魔力で、魔物たちが逃げちゃったんだろうねえ」

「お前のせいじゃん」

「え、ごめん、強くて」

「うーわ、イキってますわ」

「いいじゃん事実なんだから!」


 ついでに、と魔女さんが魔物寄せの香を焚いてくれた。俺には何の匂いもしないが、魔物にとってはそこそこ強い、良い匂いらしい。やっこさんは、少しだけ変な匂いがすると言って、魔女さんを驚かせた。通常、人間は感じないはずの匂いらしい。

 やっこさんが、ドヤ顔でこっちを見てくる。イラッ。

 自分の方がすごいとマウントを取り合いながら、魔物を捜索し始めてすぐ。

 やっこさんが、ぴたりと歩みを止めた。


「なんか、足音が聞こえるような……っていうか、近づいてきてる?」

「っ! <デーフェンシオ>!」

「うぇ!? なになに!?」


 魔女さんが、急に俺たちにバリアを張る。

 そのことに疑問を投げかける暇もなく、ズドォオン! と、巨大な何かが、俺たちに突進してきた。


「でか! 怖!」

「バイコーン? 何でこんなところに……」


 魔女さんが訝し気に観察している間も、バイコーンと呼ばれた魔物は、何度も攻撃を仕掛けてくる。頭の、鋭い角で抉ろうとしたり、人の顔よりでかい蹄で蹴ってきたり。

 魔女さんのバリアはびくともしないが、それでも、初めて間近に魔物を見た俺のメンタルには、大ダメージが入った。


「これ、どうしたら……」

「ああ、心配しなくても、貴方たちなら……って、しえん君!?」

「何っすか!?」

「ちょ、しえんさん! 何か、オーラみたいなの出てる!」

「え!? うわ、ほんとだ! え、え、何、どうしよう!?」

「魔力! 溢れてるから! 危ないから抑えて!」

「お、抑える!?」

「しえんさん! 余計増してるって!」


 あたふたしている内に、色んな魔物が寄ってきて。

 いつの間にか、取り囲まれて攻撃されていた。香の効果は絶大だった。


「まずいな……」


 バリアは全く揺らがない。でも、魔女さんは少し困ったように笑った。

 その言葉に、パニクりながらも反応した。まずい? 不利な状況なん?

 そこで意識が、自分の魔力を抑えることから、目の前の魔物たちを倒すことにシフトした。

 それが、決め手だった、らしい。


「アーーーーーーー!」


 唐突に、自分の中の魔力が、爆発するような感覚が襲った。耐え切れず、喉からも叫び声が迸る。痛いわけじゃない。でも、味わったことのないそれに混乱した。凄まじい勢いに驚いて目を瞑る。自分の中の何かが、急激に減っていくのが分かる。

 どうすることもできず、収まるのを待つしかなかった。

 少しして、力が自分の中に収束するような、萎んでいくような感じがして、目を開けた。


「あれ?」


 いない。さっきまで居たはずの魔物たちが、一匹も。いや、魔物どころか、木々も消し飛んでいる。

 自分を、中心に。


「これまた、派手にやったねー」

「しえんさーん、大丈夫―?」


 いつの間にか避難していたらしい二人が、少し離れた距離から駆け寄ってくる。呆然としつつも頷いた。だが。


「うっ!?」

「あ、頭が……!」


 唐突に、酷い頭痛と眩暈に襲われた。視界の端で、やっこさんまで同じように頭を抱えている。

 魔女さんは何ともないみたいだけど、ビックリしたように目を丸くして、俺たちを見ていた。


「だ、大丈夫?」

「何か、流れ込んでくるぅ……!」

「分からんけどぉ……! 具体的に言うと、レベルが二十くらい上がった気がするぅ……!」

「ホントに具体的だね?」

「何で俺もぉ……!?」

「うわ、すごいすごいすごい……!」


 眩暈と頭痛が収まってくると同時に、自分の中の魔力の高まりを感じた。これは間違いなくレベルアップだろ! とやっこさんを見る。すると、やっこさんも自分の体を見ながら、どこか驚いたような表情をしていた。

 急いで魔女さんに鑑定してもらうと、二人で鑑定書を見せ合う。


「うわ、俺めっちゃMP増えとる」

「俺HPガン上がりしたんだけど」


 さっきのあれは、やはりレベルアップだったようで。やっこさんは全体的にステータスが上がっていたが、中でもHPとATKがさらに化け物になっていた。

 俺はMPとMNDがさらに増えていたが、気になっていたDEXとAGIは変化なしだった。何で?

 俺が微妙な顔をしていると、魔女さんは俺の鑑定書を見て、眉間に皴を寄せた。そして、ちらりと俺を見ると、少し言いづらそうに話しだした。


「ちょっと、調べたんだけどね……」

「な、何すか」

「貴方の特殊スキルのこと」

「ああ、<神の祝福>ですか?」

「それ。だいぶ問題があるものでね」

「問題?」

「そう。本来なら、<神の祝福>は、素晴らしい特殊スキルなんだけど。貴方のそれは、厄介というか……」

「ちょ、怖いので、はっきりお願いできます?」

「……貴方を祝福しているのは、神は神でも、ロキ神みたいなんだよね」

「……ロキ神?」

「それって、あの、イタズラの神の?」

「そのロキ神だよ」

「……それホントに祝福?」

「一応ね」


 魔女さんが苦笑した。

 謎のパラメーター補正は<神の祝福>によるものだったらしいが、そもそもパラメーターに酷い偏りがあるもの、それのせいらしい。何だそれ。


「どうにかならないんすか?」

「特殊スキルは生まれ持ったものだから、どうにも。祝福なんか特にね。神の愛の証だから」

「愛? 実質呪いなんですけど?」

「効果はそうでも、祝福だから解呪は無理だよ。諦めて」

「ドンマイ、しえんさん」

「何でだよお!」


 俺が何したって言うんだ! あんまりだ!

 折角魔法も使えるようになって、レベルも上がったのに、衝撃の事実で台無しになってしまった気がする。


 若干気分は落ち込んだものの。無理矢理にでも切り替え、しばらく魔物狩りで戦闘に慣れる訓練をした。

 低級な魔法や、それぞれの魔物の特性、二人以上のパーティ時の立ち回りなんかも教えてもらった。

 そうして日も暮れ、帰るころにはすっかり充実感に満ちていた。超リアルなゲームで無双した感じ。疲れたけど、楽しさのほうが勝っていた。

 少し浮かれた気分で、魔女さんにお礼を言って別れる。

 だからだろうか。魔女さんの、含みのある視線に、俺は気づかなかった。


「ロキ神……イタズラの神。ずる賢い者。終わらせる者。そして、トリックスター。貴方たちは、この世界に何をもたらすのかな?」


 魔女さんの声も、俺の耳には届かなかった。


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