第6話 死の魔女(後編)
ちょっと間が空きました、すみません……!
帰り道。複雑そうな顔で紙を見るしえんさんに、苦笑してしまう。
「まあいいじゃん、チートには変わりないんだし」
「こうなったら魔法を極めるしかない……」
「訓練場所もできたしね」
収穫の多い一日だった。特に、心強い協力者を得られたのが嬉しい。
さっきまでの、魔女さんとのやりとりを思い出す。
*
しえんさんとお姉さんが向かい合って座る。鑑定するためには、お互いが了承している、という状況が必要らしい。この場合、体のどこかが触れていること、その状態で名乗りをあげること、だそうだ。
二人が握手をすると、輪郭を包むように、光の粒子が漂い始める。うわあ、ファンタジーっぽい、テンション上がる。
「えっと、シェリル・アッカーソンです」
「じゃ、鑑定するよ。すぐ終わるからね」
お姉さんが、空いているほうの手を、机の上にある紙にかざす。すると、紙に文字が、焼かれるように浮き上がってくる。日本の字ではないけど、今世の記憶のおかげで読める。この国の識字率が高くて助かった。
続いて俺も、同じように鑑定してもらい、紙を受け取ってしえんさんと見せあう。
名前:シェリル・アッカーソン
年齢:15
性別:女
種族:人間
Level:3
HP:30/30
MP:1990/2000
パラメーター:
STR 25(+30)
ATK 30(+30)
VIT 100(+30)
MND 900(+30)
DEX 1(+30)
AGI 1(+30)
INT 500(+30)
備考:
特殊スキル<神の祝福>
名前:ナディヤ・コールリッジ
年齢:15
性別:女
種族:人間
Level:5
HP:3000/3000
MP:20/20
パラメーター:
STR 300
ATK 800
VIT 500
MND 10
DEX 80
AGI 150
INT 10
備考:
特殊スキル<天使の歌声>
突っ込みたいところは色々あるが、一番に目が行ったのは。
「DEXとAGI……」
「1」
「え、俺呪われてんの?」
しえんさんには悪いが、お姉さんと一緒に、思いきり噴き出してしまった。
「それも変わってるけどね。他にもっと、注目すべきところがあるんじゃないのかな?」
しえんさんなら、MPと謎のパラメーター補正、特殊スキル。俺なら、HPと全体的なパラメーターの高さ、そして特殊スキルだろう。
お姉さんいわく、パラメーターというのは基本2桁で、どれも3桁を超えれば達人と呼ばれる域らしい。HPやMPも、4桁はごく稀。それを踏まえて俺たちのステータスを見ると、異常というほかない。明らかなチートだ。チート転生だ。
「やったじゃん、しえんさん! 冒険者なれるでしょ、これは!」
「いや、嬉しいけどさ……なんか……素直に喜べない……」
「貴女たち、冒険者になりたいの?」
「あ、実は……」
一瞬、どこまで話すか迷った。
しえんさんに視線で問いかけると、俺の考えてることが分かったみたいで、サムズアップしてくれた。任せた、という意味だろう。なので、全部話すことにした。
俺たちが転生者であること。バッドエンドフラグ(仮)のこと。国から出たいこと。冒険者になりたいこと。
まだお姉さんのことを信用しきれていない俺は、用心深く様子を窺いながら話した。お姉さんも、俺の心情には気づいているだろうに、最後まで態度を変えることなく、きちんと聞いてくれた。それにほっとすると同時に、余計に不安にもなる。読めない相手は怖い。こんな情報、話したところでどうにかなるとは思えないけど、一応警戒心は持っておきたい。
「なるほどね。じゃあ、協力者が必要なんじゃない?」
「例えば?」
「あたしとか?」
即座に、しえんさんと脳内クラウドで相談する。
(どうする? 協力してもらっちゃう?)
(怪しくね? ボッタだったりしたら、むしろマイナスだよね)
(でも今んとこ、この人以外に頼れそうな人っていないし。虎穴に入らずんばってやつじゃない?)
(こっちのが死亡フラグ臭いけど?)
(お姉さんの目的とか分かればなー)
(俺聞いてみようか?)
(やっこさんメンタルのHPも高いよね。俺無理だから頼む)
この間、僅か二秒。お姉さんに視線を戻す。
「お姉さんの目的は何ですか? お金ならないですよ」
「そんなのいらないわ。ただね、んー……」
初めて、少しだけ困ったような表情を見せるお姉さん。そして、苦笑した。
「占いの結果に関係してる、とだけ言っておこうかな」
「占い……」
「あたしね、占いと幻術が得意なの。森にかかってるのもあたしの幻術。あたしが招いた人以外は、入ってこれないようにってね」
話を逸らされた。これ以上は聞けなさそうだ。きちんとした情報は得られなかったけど、何かを対価に求められているわけではなさそうだ、ということが分かった。とりあえずは、それだけ分かればいいだろう。
迷ったが、頼りになりそうなのは確かなので、力を借りることにした。お姉さんは何故かほっとしたように笑って、よろしくね、と言った。
「そういえば、お姉さんの名前聞いてませんでしたよね」
「ごめんね、教えられない。長く生きてると、名前と魂はくっつきすぎるから、知られるとちょっとマズいの。だから好きに呼んで」
「じゃあ魔女さんでいいですか?」
「それでいいよ。二人のことはどう呼べばいい? 中身は男性なんだよね」
「俺はしえんで」
「じゃあ俺はやっこで」
「しえん君に、やっこ君ね」
この世界の人に、この名前で呼ばれるのはなんだかむず痒い。でも、悪い気はしない。
そうして、訓練場所の提供や、訓練の指導、その他の協力者を探してもらうことなど、いろいろ相談することができた。最後に、森へ瞬間転移できる、ペンダント型の魔道具を一つずつ貰って森を出た。
*
「そういや、やっこさんの特殊スキルって、どんなんなん?」
「歌うと動物が寄ってくる」
「え、プリンセスじゃん」
羨ましかろ? と笑った。これでも一応、ヒロインらしいんで。