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第1話 ヒロイン、死す……?

某動画の雑談より生まれた話です。


「少人数で、捜索隊を編成してください。生徒たちを不安にさせてはなりませんから、このことは決して口外なさりませんよう。……大事なこの学園の生徒です。どうか、無事に連れ帰ってください」

「はっ!」


 学園の専属である護衛兵たちが、学園の教師である男に、さっと敬礼をして去っていく。その背中を見送った男は、自らの足元に視線を落とし、目を眇めた。

 その足元には、二人の少女が、無残な姿で転がっている。


「……一応、ね」


 男がぽそぽそと呪文を唱えると、ふわりと、光の粒子が男と少女たちの周囲を漂い始める。それらが彼らの輪郭を隅々まで覆いつくすと、収縮した光に飲み込まれ、彼らの姿は消えた。

 彼らのいなくなった森は、静寂を取り戻す。

 しかしそれは、少々不気味な静けさだった。



「……それは、本当ですか?」

「はい。私たち教師がついていながら……申し訳ございません、ヴィクトリオ殿下」


 ヴィクトリオ殿下、と呼ばれた男子生徒は、少し眉根を寄せ、思案するように腕を組む。それは彼が、幼い頃からする、不安な心を隠す時の癖だった。

 今日は、モルゲンロート王立魔法魔術学園の、学期末試験。一年生は、学園からほど近いところにある森で、魔物を狩る実技試験の真っ最中だった。

 内容は単純明快だ。なるべく強い魔物を、多く狩ってくること。魔物の種類と数でポイントがつけられ、試験の合否が判定される。

 強い、とはいっても、この森は子供でも出歩ける程度の森で、人を殺せるほど強い魔物はいない。よって、各々好きに散らばって狩りをしていた。

 しかし、その試験中。二人の少女の死体が見つかった。おそらく魔物に噛み殺されたのであろう身体は、かろうじて人物が特定できるほどの損傷。異常だった。


「責任を糾明しても仕方がありません。今はとにかく、他の生徒たちの安全が最優先です。試験は中止し、生徒たちを学舎内に避難させて……」

「そのことなんですが。試験はこのまま、続けさせていただけませんか?」

「なに?」


 生徒は、この国の王族しか持たないとされる紅玉の瞳で、ぎろりと教師を睨みつける。その目に教師はたじろくが、一度唾を飲み込むと、言葉を続けた。


「おそらくですが、他の生徒に危険はありません。むやみに不安を煽るより、このまま試験を続行し、二人の死に関しては伏せ、後日詳しく調べるということで」

「貴様……何を言っているのか、わかっているのか? 私の婚約者と、有望な生徒が一人、命を落としたんだぞ。その上で、そのようなことをほざくからには、相応の考えあってのことだろうな?」

「……既に森中を探しましたが、そのような危険な魔物は見つかりませんでした。試験前にも調べておりますが、報告はありません。ですから、もしかすると、魔物の仕業にみせかけた、何者かによるものかもしれません」

「根拠は?」

「不自然な、足跡らしきものを発見しました。それと、死体にも少々違和感が」

「つまり、何が言いたい」

「死んだように見せかけ、何者かに連れ去られたか。あるいは、自ら失踪した、ということです」


 死んだように見せかけた。つまり、まだ二人は生きているかもしれない。

 その可能性に落ち着きを取り戻したのか、男子生徒は一度深く息を吐いた。


「捜索はしているのですか?」

「学園専属の兵士たちで捜索隊を編成し、派遣させました。騎士団の魔導士部隊にも応援を要請しております」

「そうですか。……先ほどのことが事実だとして。生徒たちに隠すのは何のためです」

「あの死体の、完成度の高さ……少々心当たりがあるのです。場合によっては、国家機密に関わるやもしれません。漏洩の可能性は、僅かでも消しておきたいのです」

「……わかりました。セルナ先生に任せましょう」

「ありがとうございます」


 二人の少女の、偽物の死体。その本人たちの行方。

 人々はまだ知らない。

 少女二人がこれから引き起こす、世界を巻き込んだ大騒動を。



「うまくいったんかな?」

「わからん。それより、これからのことじゃね?」

「とりあえず、こっからずっと西に行って、モマンって街についたら、そっから船で隣のプルミエって国に行って、冒険者ギルドに入る、と」

「あー、やっと異世界転生、って感じ! 三ヶ月、長かったあー!」

「俺もうブーツ履きたくない……かかと高い靴やだ……」

「わかるー」


 なにやら、晴れ晴れとした表情の少女たちが、凄まじい速さで森を駆け抜けていく。彼女たちが蹴った地面は、小さく深くえぐれ、起こした風は、青々とした木の葉を散らす。

 思いきり、何かが通りました、と言わんばかりの痕跡が残っているが、まさかこれが、可憐で華奢な少女たちの残したものだとは、誰も想像しないだろう。


 少女たちは走る。新たな人生に相応しい、新たな地を目指して。


書き進めていくうちに、想像していた展開からはだいぶ変わってました。笑える小説にしたかったはずなのに……。

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