偽物の薔薇と記憶の中で
いつの時代にもいる、好奇心が人一倍旺盛な少女がこの町にいた。その少女の名前を藍といった。
いつもの学校の帰り道、知らない人たちが変な話をしていた。だめなことだとは思いつつ藍は聞き耳を立てた。
「昔こんな噂あったよな。」
「あぁ、そういえばありましたね。二丁目のあの公園の話でしょう?人が何人もいなくなったっていう…」
なんだか怖くなり藍はその場をすぐ立ち去った。
しかし、家に帰ってからなぜかその怖いはずの話に藍の好奇心が勝り、思う間に支度していた。公園まで足が勝手に動いた。
少し歩いた道中で同じくらいの背の少年に会った。どこかで見たことがあった気がしたが藍は思い出せなかった。
「君、名前はなんて言うの?」
「私は藍。君は?」
「○○。藍もこれから公園に行くんだろ?なら一緒に行こうよ。」
なぜか藍の行動が見透かされていて、少年の名前が聞こえなかった。そしてフワッとした声に体が勝手に動いていた。
空が赤く、辺りは静かだった。通じ合っているかのように二人は何も話すことなく公園まで一緒に歩いた。いつの間に辿り着いたのか、少年は歩みを止めた。藍は突然目に入ってきたものに思わず口に手を当てて、息をのんだ。
「なに…ここ…」
そこにはたくさんの薔薇が狂い咲いていて、その香りに目眩がした。藍は震えながらも公園に入り、花を知っていたからこそ不思議に感じた。
「今の季節って薔薇は咲かないのに…なんで…?」
今にも雪が降りそうな気温の中、少年は笑顔で、
「僕の記憶の中だからね…」
藍は首を傾げた。
「でもさっき学校から帰ってきて…ここまで…あれ、なんで来たんだっけ…」
藍はこの状況に混乱し、なんとか自分を落ち着けようと深く呼吸をした。そしてその時感じた薔薇の匂いになんだか惹かれた。
「この薔薇、とっても素敵ね。」
匂いに酔ったように藍は薔薇を顔の近くまで寄せた。その瞬間、棘が生きたように動いて藍を急に襲った。
「ぁぐっ…」
棘は、声を上げる間に首を貫通するほど刺さっていた。グワンと世界が歪んだ感じに藍はその場に倒れた。なんとか動いた手を少年に伸ばして必死に助けを求めた。しかし少年は藍を見てただ笑っていた。
「…い…藍!起きて。」
藍は微かな声と何かの匂いに気づき、目を開けた。
「もういつまで寝ているの?」
藍は知っているはずの人の声と共に、揺すり起された。
「あの…」
「なに?そんなかしこまった言い方して。」
「あなた、誰…ですか…」