表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

第1話「The starting point of Love」


2月19日午後4時。クラス委員長の号令と同時に、僕は教室を飛び出した。廊下へ出て隣の棟へ向かおうとすると…ちょっと待って…と、教室から声がした。


「帰りの準備早いって…」


声の正体は舞崎まいざき けい。夜空のように黒い瞳に、センター分けした髪、それにスラっとした体型。そして何より、イケメンだ。クラスの女子からの人気もすごい。正直羨ましい。容姿だけなら、僕と似つかない。

けいは幼稚園のときからずっと一緒で、今も同じ吹奏楽部に属している。


「だって早く吹きたいんだもん。急ごうぜ」


僕はテンション高めに言った。


「おう、今日って、合奏あったしな。がんばろ」


そういえば、合奏があったな。ホームルームが終わって、部活に行けるという喜びゆえ、忘れていた。


それというのも、楽器が吹ける、というだけが理由ではない。僕、宮瀬みやせ 大和やまとは、好きな人がいた。僕は今、その人と毎日部活をするのを楽しみにしている。だから、待ちきれずに教室を即座に飛び出したという訳だ。


僕ら二人は早歩きで部活動場所である音楽室へと向かった。音楽室へ向かう途中、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。


「ちょ、待ってよ」


その声の正体は石野宮いしのみや 亮太りょうた、僕らと同じ吹奏楽部のメンバーだった。亮太は長身で声優みたいなかっこいい声をしている。出会ったのは中学に入ってからだから、まだ付き合いは短い。


「二人とも教室出るの早いって…」

「いや、俺じゃなくて、早いのは大和だよ!」

「はぁ、大和なんか最近、行くの早くね?」


亮太が不思議そうに聞いた。


「えー、だってさー、早く行って楽器の準備したいじゃん!今日合奏もあるしさ」

「そうだけど、まだ俺のクラス、帰りのホームルーム終わって1分ぐらいしか経ってないんやぞ。そんな早く教室出れるかよー」


僕とけいは1年B組で同じクラスだが、亮太は1年A組。違うクラスなので、ホームルームが終わる時間が若干違う。


「とりあえず、楽器を早く吹きたいのは俺も同じだから急ごうぜ。」


けいが言った。それを聞き、亮太もそうだなと、納得の表情をして廊下を歩き始めた。そして三人は音楽室へ着いた。まだ誰も来ておらず、自分達が最初に到着したことに気づいた。僕は横開きの扉を開けて中に入った。


「今日も一番乗りやな」

「とっとと楽器だしましょーや!」


そう言うとけいと亮太は、音楽室に隣接していて音楽室内から入ることができる音楽準備室に入っていった。自分も二人を追って準備室に入ろうとしたその時。


「こんにちは!!って誰もいないし…」


明るい声が聞こえた。


僕はその声の正体を分かった上で…こんにちは…と挨拶を返した。


「あっ、やっほー大和! てか、部室くるの早くね??」

「あはは、早く楽器吹きたくて…」

「なるほど…部活熱心やね」


穏やかな表情に明るい笑顔で、髪は茶色くポニーテール、身長は僕と変わらないぐらいだけど小さく見える。彼女は僕と同じく吹奏楽部1年の土屋つちや なるだ。

成は小学5年生の時に転校してきて、それから今まで一緒の学校にいる。成とは仲が良い友達だと思っているが、それ以上の関係を持ちたいとは思っていない。


「まだ、大和しかきてないん?」

「いや、えっと、けいと亮太がいるよ。音楽準備室に…」


それを伝えると、成は準備室に入っていった。僕はもう一度準備室に向かおうとした。が、またも声が聞こえた。


「こんにちは!…あれ…? 誰もいない?」


僕は思わずピアノの影に隠れてしまった。心臓の鼓動が早くなって、体温も高くなってゆく。

なぜ僕がこんなにも緊張しているのか。それはもちろん、その声の正体である彼女こそが僕の好きな相手だからだ。彼女の名前は井折いおり 叶芽かなめ。僕と同じ1年生。身長は僕より少し低く、髪はショートカット、透き通るような純白の肌に、夜空を駆ける彗星のように綺麗なハイライトのかかった黒い瞳。僕は彼女が好きだ。


僕が叶芽と初めて出会ったのは中学の入学式の日。桜の散る窓の外を眺めながら教室の席に座っていると、廊下を歩く彼女の姿が僕の目に入ってきた。ただ、こちらの教室に入って来なかったので、クラスは違うようだった。初めて見たときは、…あっ、あの子かわいいな…ぐらいにしか思わずに、その日は会話すらしなかった。

そして、入学して一週間が経ったある日初めて彼女と会話した。その日は部活動の見学会があり、僕は放課後、気になっていた吹奏楽部への見学に行こうとしていた。


「えーと、音楽室って、どこだ? けいもおらんくなったし、どうしょっかな……」


と、独り言を廊下で呟いていると。


「あのーすみません。」

「あっ、はい?」


彼女が僕に話しかけてきた。


「もしかして、吹奏楽部の見学に行こうとしてます?」

「あっ…はい……」

「よかったら一緒に行きませんか? まだ友達とかいなくて、一人で行くのも心細いし…」

「あっ、あ、えーと、別にいいよ、じゃなくて、いいですよ…」


僕はちょっと驚いたが、音楽室まで連れて行ってくれるというので、一緒に行くことにした。


「私1年A組の井折 叶芽と言います。よろしくお願いします。」

「えと、僕は、1年B組の宮瀬 大和です。よろしく。」

「宮瀬くんは、何か楽器をされてるんですか?」

「いや、何も経験ないんだ。でも、楽器するの楽しそうだから…」

「そうなんですね。」

「えーと、井折さんは楽器経験あるの?」

「はい、私姉が吹奏楽部なので、クラリネットをしています。」


と、初めての僕達の会話は、互いを知るところから始まった。最初は、ちょっとタイプかも…ぐらいにしか思ってなかったけど、彼女と過ごしていくうちに、僕はどんどん彼女のことを好きになっていった。そして現在、1年生の3学期。僕は彼女と付き合いたいと思うほど、叶芽のことが好きになっていた。緊張してピアノの裏に隠れる程。

体が勝手に動いてしまった。こんなとこに隠れていることがバレたら、変人と思われてしまう…どうしよう…僕。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ