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転生悪役令嬢は婚約破棄を喜ぶ

作者: そらいろはなび

乙女ゲームをしたことのない人間の書いたものなので色々間違っていると思います。

乙女ゲームを愛されていらっしゃる方々、色々すみません。





「皆の者、聞け! 私はアントナーク王国第2王子チャールズ・アントナークの名において、今日この場でヴィヴィアン・ケンドールとの婚約を破棄する! 理由は王家と縁戚になる者としてはあってはならない非道な行いの数々! そして同時に、メグ・キャンディス男爵令嬢との新たな婚約を宣言する!」


 ああ、この時が来ましたわ……!

 流石王族、と言える良く通る声で行われた婚約破棄宣言なるものは、会場内の隅々まで響き渡りました。当然でございましょう、会場は一瞬の静寂の(あと)、ざわめきに包まれました。

 そのざわめきが鎮まり始めると、再び声が響きました。


「ヴィヴィアン・ケンドール! 前に出よ! そして貴様の悪行を今ここでメグに詫びよ!」


 2回も呼び捨てにしやがりましたわ……!……いけない、堪えるのよ(わたくし)……!

 思わず出かけた舌打ちを何とか堪え、小さく深い呼吸を2回繰り返して気持ちを静めます。それから(わたくし)は先程まで話していたご令嬢にちらりと目を向けました。お相手も了承するように見返してくださり、更に小さく頷いてくれました。それを見てから、(わたくし)はついに訪れたこの時に、ゆっくりと声の主を振り返りました。


「ご機嫌よう、でん──」

「機嫌が良いわけなかろう! さっさと前に出ろ!」

「……畏まりました」


 ご挨拶申し上げ、カーテシーをしかけた(わたくし)をチャールズ殿下が遮ります。全く以てマナー違反ですけれど、相手はそれでも王族。下手に逆らうわけには参りません。憤りと呆れと溜息を噛み殺して、(わたくし)はいつの間にか花道のようにでき上がっていた人垣による道を通って、これまたいつの間にかそこだけぽっかりと開けていた、ホールの中に設けられた上座に当たる壇の前へと進みます。

 辿り着いた先では、(わたくし)を呼びつけた殿下は勿論、予想通りの方々がいらっしゃいました。殿下の他に、1人の可憐で愛らしいご容貌のご令嬢。それから見目麗しく、いずれ劣らぬ有力貴族のご令息の方々です。けれど残念なことに、皆様のその目は侮蔑に歪んでいて、その美しい見た目を少々損なっていますわ。さながら汚物でも見るかのように歪んでいます。ああ嫌だ。分かっていてもこういう視線に晒されるのは嫌なものなのですわね、初めて知りましたわ。知りたくもなかったですけど。


「さあ罪を認めて婚約破棄を受け入れ、メグに謝罪しろ!」


 (わたくし)を罪人と決めつけて怒鳴り散らす殿下には、腹立ちと呆れしか感じられません。けれど溜息は禁物ですわね、今のところ。変わりに少し項垂れておきましょうか。


「そう仰られましても……まず婚約破棄に関してですが、このことを陛下はご存知でいらっしゃいますか?」

「まだだ。貴様の悪行を裁いてメグの心を癒してからと思ったのでな」


 ……さっきから貴様貴様腹が立ちますわねこの糞王子……!──いえ、駄目よ、落ち着かなければ、迂闊に睨んだりしたら全てが台無しになりますわ、平常心平常心……! で、何でしたっけ、ああ、婚約破棄でしたわね。


「殿下……。(わたくし)との婚約を破棄なさりたいのであれば(わたくし)ではなく、まず陛下にお話しください。(わたくし)と殿下の婚約は王家と我が家との間の話、言うなれば王命です。(わたくし)の一存ではお返事致しかねます」

「煩い! ではさっさとメグに詫びよ!」


 ……婚約破棄の話はどこ行った糞王子。あら嫌だ、つい思考が滑りましたわ。まあ口に出さなかったのでセーフですわね。


「……(わたくし)、お詫びしなければならないことに心当たりがございませんが」

「白々しい! メグに対する数々の暴言や非道な行いに覚えがないとでも言うのか!」

「ございませんわね」

「……!」


 あら、殿下が驚かれていますわ。なぜでしょう? まさか否定されると思っていらっしゃらなかったとか? それは流石にありませんわよね。それでは間髪入れずに答えたことに驚いていらっしゃるとか? まあ、どちらでも構いませんが、皆様が失笑していらしてよ。


「そもそも(わたくし)、殿下の仰る方を存じ上げませんので」

「はあっ!?」

「はあ、と仰られましても。殿下の仰る方をご紹介頂いたことも、自己紹介して頂いたこともございませんので」

「なんっ……!?」


 あら、周りの皆様の失笑が大きくなりましたわ。まあ、王族としてどうなのかと思うお返事でしたから、致し方ありませんわね。

 それにしてもなぜ殿下はそんなに驚いていらっしゃるのでしょう。貴族間のルールとマナーを王族である殿下がご存知ないわけがありませんでしょうに。貴族の間では、初対面の場合、紹介者を挟んで紹介してもらう、と言うのがルールでありマナーです。そして互いに紹介してもらったのちに改めて互いに自己紹介しあって初めて知り合いと言えるようになるのです。それがなければたとえ顔を見知っていても知らないものとされます。どんな理由があろうとも。

 けれど流石鋼のメンタル。いえ、ただ鈍感なのでしょうか。殿下は周囲の失笑をものともせずに、高飛車にふんと鼻を鳴らして怒りに顔を歪められました。


「貴様が恐ろしくて名乗りたくもなかったのだろう」


 あ、語るに落ちましたわね。


「名乗りをしていないと言うのであれば、(わたくし)がその方を存じ上げなくとも当然ですわね」

「ぐっ……!……貴様はいつもそうだな……! ああ言えばこう言う……! 名前など知らずとも悪行は行えるわ!」


 そうだそうだ、と合いの手が入ります。殿下と共に壇上にいらっしゃる、所謂取り巻きと言うやつですわね、その皆様の声ですわ。それが合図だったのでしょうか。殿下と視線を交わした1人の麗しいご令息が前に進み出てきて、何やら巻き紙を広げます。


「貴女がこちらにいる──」


 あ、漸くご紹介頂けますのね。身体を少し後ろに捻って、殿下の腕にしがみついてその後ろに隠れるようにしているご令嬢を、手で示してくださったご令息は殿下より多少頭が回るようですわね。


「──メグ・キャンディス嬢に行った非道な行いの全てがここに記されています。しっかりと聞いて己の行いを省みなさい。1つ、メグ嬢に暴言を吐いた。1つ、メグ嬢に水をかけた。1つ、メグ嬢の教科書を隠した。1つ、メグ嬢の制服を破いた。1つ、メグ嬢のご両親の形見の品を盗んだ。1つ、メグ嬢を階段から突き落とし、殺害せんと画策した。以上、暴行罪、窃盗罪、殺人未遂罪。どれも極刑ものです」


 何気に上から目線でムカつきますわね、この方。そのドヤ顔も意味が分かりませんわ。


「どうだ! 思い出したか! これが貴様の悪行だ!」


 あ、ここにもいましたわ、馬鹿なドヤ顔が。


「思い出すも何も……(わたくし)、そのようなことをしておりませんわ」

「何を今更! メグが泣いていたのだぞ!」


 だから何ですか。論点はそこではないでしょうが。馬鹿ですか、馬鹿ですね。


「証拠もありますよ」


 あら、やはりこちらの方のほうがまだましですわね。


「証拠ですか?」

「ええ。メグ嬢の証言です」

「……」


 ……(わたくし)と会場の皆様の気持ちはきっと同じでしょう──こいつも駄目ですわ馬鹿ですわ。


「……被害者本人の証言だけ、でございますか?」

「あとは破れた制服、そしてメグ嬢の涙です」

「……」


 ……頭が痛いですわ。それとも(わたくし)がおかしいのかしら。


「……それでは証拠としては不十分ですわ」

「言い逃れですか。見苦しいですね」


 いや、おかしいでしょそれ。

 いくら王子が馬鹿でも絶対王政でも法はあるのですから。でなければ国として成り立ちませんでしょう。そして人を裁くのにはきちんとした証拠が必要なのは道理と言うもの。それもなしに裁くなど、暴君以外の何者でもありません。まあ絶対王政ですから証拠なしに裁くことも可能と言えば可能なのですけれど。そういう意味ではこれまでの歴史で、そんな愚王が存在しなかったのは幸いなのでしょう。現国王も賢王と言われていますし、王太子殿下も幸いなことに優秀な方ですし。

 でもこの目の前のお馬鹿集団には当てはまりませんわね。特に殿下は王太子殿下と同じご両親からお生まれですのに……この上なく残念ですわね。やはり人格形成は遺伝より環境なのでしょうか。……なんて、現実逃避もそろそろ終わりにしなければ。ああ、1人で逃げやがって狡いですわよあの悪友め。いえ(わたくし)が悪いのですわね。

 さて、愚痴もここまで。今度は(わたくし)の番ですわね。


「……そちらの皆様の言い分は理解致しましたわ」

「ならば謝ざ」

「殿下」


 本来なら不敬になりますが気にせず殿下の言葉を遮ります。陛下の正式な決定のない今、(わたくし)はまだ婚約者ですから、許されるのですわ。

 さて、悪友曰く「凍てつく目」で殿下を見遣ってからゆっくりと話を続けましょう。


「まだ(わたくし)の話の途中ですわ。きちんと最後までお聞きくださいませね」


 これまた悪友曰く「絶対零度の笑顔」で微笑みかけます。勿論目は笑っていませんとも。面白くありませんもの、ちっとも。


「罪状に対する確たる証拠も証言もなし。あるのは被害者の証言のみ。でしたら(わたくし)の証言のみでも勿論無罪が通りますわね。それが道理というものでしょう?」

「屁理屈を言うな!」

「どちらが理屈に合っていないのでしょうね、殿下? ですが殿下の仰りたいことは理解致しましたわ。ですからこのお話は一旦ここで()めておきましょう。今この場は卒園生の祝いの場。(いたずら)に騒ぎを長引かせては皆様の晴れの日が台無しになりますから」


 そう、今は卒園式後の卒園パーティが始まったばかりなのですわ。本来ならここで、在園生代表の生徒会長が挨拶をしてパーティの開演となる筈だったのですわ。それを殿下方が邪魔なさったお陰で、ご覧なさいませな、このパーティが初仕事になる現生徒会長が可哀想に驚いた表情で固まっているじゃありませんの。


「身に覚えがありませんが、殿下のご不興を買った(わたくし)がいては皆様も楽しめませんでしょうし、(わたくし)も今日のことを父に報告したいと思いますので、ここで失礼させて頂きますわ」


 (殿下)に口を挟ませず立て板に水の如く話せるのは王子妃教育の賜物でしょうか。教育成果の無駄遣いな気も致しますけれど。

 最後にカーテシーをして締め括り、踵を返して広間の大扉に向かいます。そこもまるでモーセの十戒のように人垣による道が開けていました。あら、失敗、この世界にモーセは存在していませんでしたわね、実際でも架空でも。まあ何にせよ、助かりましたわ。通り道に困りませんもの。では、殿下が正気に返る前にさっさと退出致しましょう。

 ……でもその前に。


「皆様。謂れのない罪を被せられたとは言え、晴れの舞台を少々壊したこと、お詫び申し上げます。(わたくし)は婚約破棄の件と冤罪を被せられたことの報告の為に退出致しますが、どうぞ皆様はパーティをお楽しみくださいませ。楽団の皆様、音楽を」


 扉の前で広間に向き直りその場の皆様にカーテシーを。冤罪をしっかり強調して印象づけておかなければ、我が家に被害が及びますからね。(わたくし)の言葉に、止まっていた音楽が華やかに流れ始めます。素晴らしい選曲ですわ。


「では、ご機嫌よう」


 さあ今度こそ退出ですわ。

 扉を抜けると両脇に立っていた衛兵に扉を閉めるように指示します。追ってこられても面倒ですからね。あら殿下の喚き声が。大扉が閉まればそれも鎮まります。さあ急いで屋敷に帰らなければ!





「乾杯!」

「乾杯。と言っても紅茶だけど」

「気分よ、気分。目出度いんだから良いんだって」


 ああ、素で話せるって楽で良いわあ。解放された感が半端ない。公爵令嬢ヴィヴィアン・ケンドールの実情がこんなだとは誰も思うまい、ふはは。

 あの卒園パーティから季節が巡って数ヶ月。あの婚約破棄騒動の(あと)からずっと領地に籠っていたけれど、久々に王都に戻ってきた。そこで現在あの卒園パーティの時に話していた、私の素を知る唯一の悪友──もとい、友人とお茶会中。紅茶の芳しい香りが鼻孔を擽る。


「ざまあ成功おめでとう!」

「ありがとう……と言っても、あまり素直には祝えないけど」


 顔を顰めて本音を漏らせば友人は笑い声を上げる。お陰様で私の顔はますます顰め面だ。


「良いじゃん。名誉回復できたんだから」


 確かに友人の言う通りではある。

 あの婚約破棄の(あと)、手薬煉を引いて待っていた両親と翌早朝に領地に向けて出発。そのまま家族で引き籠った。これに困ったのは国王である。何しろ父は宰相である。宰相が職務放棄で引き籠ったのだ。このままでは国政は成り立たなくなる。国家の中枢は大混乱に陥る。故に当然何事があったのか問い質される。そして分かったのが己の息子がやらかした愚挙。

 国王は当然大激怒。馬鹿息子に説教かましながら、父に戻ってくるよう使者を遣わすも、父は娘である私に対する侮辱を理由に頑として譲らず引き籠ったまま。

 その状態は国王直々の命による調査で私の冤罪が晴らされるまで続いた。しかし当然その間政局は滞りまくった。国王も頑張ったが、国を動かすのは激務。その上調査が重なったのだ。それを1人でなど到底無理がある。きっと寿命が縮んだに違いない。御愁傷様である。

 かくて国王は公の場で自らの息子とかの断罪劇に関わった者達を裁く結果となった。馬鹿王子は国を乱した罪人として王位継承権剥奪は勿論、王族から除籍。北の監獄行きとなった。取り巻き達はその家が被害を被った。全ての家が降爵及び領地の一部没収。当然本人達は家から廃嫡、除籍された。そして騒ぎの元凶である令嬢は、家は奪爵、領地没収。本人は国を乱した罪人として南の監獄行きとなった。ざまあみろである。こうして私の名誉は、王家と各家からの謝罪と損害賠償及び慰謝料の支払いにより回復され、自由の身となった。

 だがしかし。


「……それは確かにそうだけど、全員を1発くらい殴りたかった」


 この言を聞いて友人の令嬢は弾けるように大笑いした。


「……それにしても。あのヒロインちゃん、やっぱり転生者だったのかね?」


 転生者とは前世の記憶保持者のことを言う、とは目の前の友人に聞いた話である。ちなみに言うまでもないが、私も友人も転生者だ。おまけに腐れ縁である。私の死因は目の前のこいつだ。


「どうだろうねえ……」

「転生者じゃなきゃ説明つかないことが多かったじゃない」

「まあねえ」


 正直に言えば今更どうでもいい気もするが、友人は気になるらしい。

 説明がつかない、とは要するにかの騒ぎの元凶である令嬢の行動のことである。確かに未来を知っているかのような言動をしていた。

 この生まれ変わった世界が乙女ゲームなるものに酷似していると友人から聞いたのはもう随分と昔のこと。以来2人で協力して──主に協力させて──破滅の未来を防ぐべくして努力してきた。しかし残念ながら断罪劇なるものは起こってしまった。その冤罪の全てはヒロインちゃんことメグ・キャンディス()男爵令嬢による自作自演だったが。友人曰く、全ての罪は本来なら私によって行われる筈だった、らしい。


「何よ、気にならないの?」

「どうでもいいの」

「そんなこと言わないでさあ。確かめに行こうよ!」

「……そんなことより婚活させてよ」

「えー? そんなのいつ終わるか分からないじゃん! それより先に行こうって!」

「……()()()()?」

「あははははー!」


 ……こいつとも縁切ろうかな、1発殴ってから。


ゲーム要素皆無になってしまいました……。

文章を短く纏めるって難しいです。色々ごっそりカットしたけれど、話として通用する文章になっているのか……?

疑問は尽きませんが、書いてる本人は楽しかったです。


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― 新着の感想 ―
[一言] 国の運営を宰相という一個人に頼っていた因果応報ですね。 それはそうとして、少なくとも3名転生者がいる状況らしいですが、主人公の両親は良くこのざまぁ劇にうまく乗せる事が出来ましたね。 最初の…
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