初日
「理事長挨拶。」
進行がそう言うと、金髪に赤目の少女が壇上へ上がった。
「どうも。理事長のスーモス=セェーニエです。」
スーモスが語り出すのと同時に、アプリス含む新入生は彼女の迫力に圧倒される。
「(《三英傑》災害のスーモス。世界に三人しかいない英傑級の一人。彼女が戦地に赴けば、毎回、地図を書き直さなければいけない。という逸話がある。これは事実。現にこの前の戦争で、三英傑の二人が対峙し、対決を行った際に、地図が書き直されたのは、まだ記憶に新しい。)」
アプリスはスーモスの話が終わったことに気づくと、考え事を止め、壇上を向いた。
「新入生代表。フィア=ウェンディオさん。」
「はい。」
アプリスは横目でオレンジ色の髪を靡かせるフィアを見る。
「(なんだ!?あの化け物は。学生であの魔力。英雄級だろ。)」
アプリスは驚愕を隠しながら、フィアを目で追う。
「暖かな春の訪れとともに、私たちはエフティヒア魔術学校の入学式を迎えることとなりました。本日はこのような立派な入学式を行っていただき大変感謝しています。ところで、突然ですが、皆さんの中には勇者を目指している方がいると思います。」
壇上に立ったフィアは突然魔力を解放した。
「私はこのように、天性の力を持って産まれた者として、力なき者を助けるために、この力を使いたいと思い、勇者を目指しております。皆さんに負けぬよう、精一杯の努力を私はしたいと思います。その為には、この学校が最適だと考え、入学を志しました。栄えあるエフティヒア魔術学校に入学でき、とても光栄です。」
フィアは一礼すると魔力を抑え、壇上を下りた。その美しい心に感動し、一度全員が動きを停止させたが、その数秒後大きな拍手が起こる。
「流石です。フィア様!」
女子生徒の歓声が上がる。
「(当然です。何故なら私は、天才ですからね。)」
フィアはそう言いたいのをグッと我慢し、天使の微笑みで自分の席に戻る。
「(何あれ怖い。あんな透き通った白い魔力見たことないぞ。)」
フィアの魔力を見て怯えるアプリスであった。
「──新入生退場。」
進行は新入生が会場から出たことを確認する。
「在校生はこの後速やかに教室へ戻ってください。繰り返します──」
進行は無表情でそう繰り返した。
「やぁ。諸君。私がこの一年A組の担任。ソリボス=クリュスタッロスだよ。気軽にソリボス先生と呼んでくれたまえ。よろしく!」
ソリボスが声を高くして自己紹介をする。
「それじゃあ、名乗って貰おうかな。」
自己紹介が始まった。
「では私から。フィア=ウェンディオです。よろしくお願いします。属性は火、水、風、土、光、闇の六つです。」
フィアが自己紹介を終えると歓声が上がる。
「六大属性使い(エレメンター)!?初めて見た。」
「流石です。」
歓声はソリボスが手を叩いたと同時に止んだ。
「じゃあ、ウェンディオ君から後ろに自己紹介してくれたまえ。」
ソリボスの指示により、自己紹介は円滑に進んだ。特殊な生徒のみを挙げるとするなら、黒い髪に黒い瞳の少年、スダラス=エレロ。
「スダラス=エレロと言います。属性は風と土の風土使い(アネモスゲーラ)です。よろしくお願いします。」
青い髪に赤い瞳の少女、ヒューリ=デール。
「ヒューリ=デールと言います。属性は火と水の火水使い(フォティアネル)です。よろしくお願いします。」
そして、白い髪に白い瞳の少年、アプリス=アバリシア。
「アプリス=アバリシアです。属性は火、水、風、土、光、闇です。よろしく。」
教室を包んだのは、フィアに向けられた様な歓声ではなく、驚愕だった。
「え。今なんて言った。」
「つまりフィア様と同じ、六大属性使い(エレメンター)?」
生徒の動揺が広がる。
「皆落ち着きたまえ。私から説明しよう。彼ら二人は、同じく六大属性使い(エレメンター)だ。合格者についてはこちら側も、ある程度調べさせてもらったよ。ウェンディオ君は、勿論、ウェンディオ公爵家の息女。そして、アバリシア君は、三年前の武術大会で、ウェンディオ君を負かして優勝してるからね。」
「は!?」
ソリボスの爆弾発言に混乱する生徒の中、フィアは美しいを顔を崩さず黙り、アプリスは、
「ああ。あの時の。(魔力量も質も違いすぎて気づかなかった。あの、ただの才能があっただけの少女が、努力を重ね、立派な剣士になったようだ。あの時は勝てたが今ならボロ負けだろう。)」
今の今まで、覚えていなかったようだ。その時、
「アプリスさん。お久しぶりですね。」
やっとフィアが口を開く。
「あの時の私とは違います。努力を重ね、私はただの天才から、剣士へと昇華しました。元の才能と努力により、貴方を超えたつもりです。」
フィアは目を瞑って語る。
「そうだな。今のお前と戦った場合。俺に勝算は無い。(俺の努力は結局は凡人の物だ。天才の努力に追い付くことは不可能。その天才である彼女に、俺は確実に負ける。)」
「一度は貴方に負けた者です。貴方の評価に慢心するつもりはありません。戦ってみないと、そんな見込みを判断できるとは私は思いません。(あのアプリスに、勝算が無いと言わせるのが私の悲願。まずは叶いました。後は、戦って勝つのみ。ですが。)」
フィアは考える。本当に勝てるのかどうかを。未だに、アプリスに何故負けたのか理解していない。気づいていたら負けていた。これは、アプリスが戦った、第三試験官も明言している。それを知るのはアプリスのみ。ただ一つ分かることは、
「(今の私に、)」
負ける要素はない。勝てるかは分からないが、負ける事はない。断言できる。だから、
「(一ヶ月後のエフティヒア魔術学校の魔剣術大会。魔術師から剣士まで、全ての生徒が参加する大会。一年生部門での優勝してみせる。ブロックが別れれば、決勝で当たるのは確実にアプリス。貴方に勝って、あの時の屈辱を晴らしてみせます。)」
フィアは目を輝かせて、膝の上で拳をつくる。
「(一ヶ月後の大会で、この学校の天才にどれだけ戦えるか試す。勝算がなくとも。)」
アプリスも同じく机の上で拳をつくり、
「(負けた訳ではない。)」
覚悟を決めた。