第8話 夜の時間
町からある程度離れた地点で、私達は夜営することになりました。
既に真夜中であり、皆が眠たそうです。
特に、御者をしている、ドロシーという黒髪の少女が限界を迎えていることは、これ以上進むのが危険であることを表していました。
少女達が、布に包まって地面に寝転がります。
これからは、これが普通になるのでしょう。
旅をすることの厳しさを教えられて、私はショックを受けました。
私とミーシャも、少女達の真似をしようとします。
しかし、その前に、私達は主人となった男に呼び止められました。
「待て。寝る前に、お前達の身体の状態を、確認させてもらおう」
「……私達の身体には、特に問題がないはずですが?」
とても嫌な予感がしました。
彼が、良くないことを考えているとしか思えなかったからです。
「お前達は、俺のコレクションになったんだぞ? 今、どんな状態なのか、詳しく調べる必要がある」
「……私の身体は、既に確認しましたよね?」
「俺は、自分のコレクションのことは、気が向いた時に愛でることにしている。眺めるだけでなく、触って楽しむ」
「……それが目的でしたら、そういうことをする相手は、私だけで充分ではないでしょうか?」
「お前は何を勘違いしているんだ? 俺は、コレクションの状態を確認すると言っているだろう? 当然、ミーシャも対象だ」
「そんな! ミーシャは……まだ子供なんですよ!?」
「関係ない。相手の年齢に関係なく、全員に対してやってきたことだからな」
「貴方は……何ということを!」
私が抗議すると、彼は不快そうに舌打ちしました。
「スピーシャ、お前は不良品だな。ミーシャ、お前は、俺に裸を見せたり、触られたりするのは嫌か?」
「……いいえ」
「そうか。そうだろうな。お前は俺の奴隷だからな」
そう言って、彼はゲラゲラと笑いました。
私の中に、ドス黒い感情が生まれます。
この男……まだ幼いミーシャに対して、何ということを!
妹の身の安全を守るためにも、この男は今すぐ抹殺しなければ……!
そこまで考えた時に、私の中の、冷静な私の声が聞こえました。
今、彼に襲いかかれば、ミーシャは彼を守ろうとするでしょう
そうなれば、私は殺されてしまうに違いありません。
私がいなくなれば、ミーシャを助けてあげられる者はいなくなります。
そうなれば、私の大切な妹は、彼の「奴隷」として生き続けることになるでしょう。
他の少女達も同様です。助けてあげられるのは、私だけなのです。
「……分かりました。どうぞ、ご自由に確認なさってください」
私がそのように言うと、彼は、不思議そうな顔をしました。
どうして私の態度が急に変わったのか、理解できないのでしょう。
「いいだろう。お前達の身体は、馬車の荷台で確認する。身に着けているものを全て脱いでから、仰向けに寝ろ。身体が汚れないように、寝るための布を広げて、その上に寝るといい」
「……かしこまりました」
私とミーシャは、馬車の荷台に戻ります。
すると、彼は魔法で明かりを生み出しました。
私は少しだけ驚きました。
新たな人格を創り出すという、人智を超越した魔法を使う彼が、私にも使えるような普通の魔法を使うとは……。
「さあ、早く脱げ。俺はさっさと寝たいんだ」
彼は、言葉とは裏腹に、興奮が抑えられない様子で言いました。
私は、感情を封印して服を脱ぎます。
淡々と裸になる私を見ながら、彼は不満そうな顔をしました。
全て脱いでしまってから、気になって、隣のミーシャを見ます。
意外なことに、ミーシャは、恥ずかしそうにしていました。
そして、下着を脱ぐのを躊躇している様子です。
「どうした、ミーシャ? 脱げないのか?」
彼が、面白がっているような口調で言いました。
恥ずかしがる少女を見て喜ぶなんて、何という男でしょう!
私の、封印した感情が呼び起こされました。
「い、いえ……」
ミーシャは、慌てた様子で下着を脱ぎ捨てました。
しかし、恥ずかしそうに身体を隠そうとします。
その様子を、彼は楽しそうに眺めました。
……信じられないほど気持ちの悪い男です。
私の中で高まった生理的な嫌悪感は、消すことができないものでした。