表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/82

第76話 疑惑の屋敷

「この孤児院では、子供を引き取った人に対して養育料は渡していますか?」


 ルナさんの質問を聞いて、私は驚いてしまいました。


「えっ? 子供を引き取ると、お金が貰えるのですか?」


 私が発した質問に、院長は頷きました。


「はい。ですが、養育料は子供の生活の準備や、数ヶ月分の生活費としてお渡しするお金です。ゴードンさんからは、何十年も前からご支援いただいていたので、通常の金額に少し上乗せしてお渡ししておりましたが」

「そうですか……」


 ルナさんは、何かを考え込むような顔をしました。

 しかし、その後は無難な会話だけをして、私達と孤児院を後にしました。



「スピーシャ。私は、ゴードンという人物のことについて聞き込みをする。お前は、マリー達を連れて宿に戻れ。くれぐれも、私がいない時に、街の中心にある家に忍び込んだりするなよ?」

「当たり前ではないですか……」


 言われなくても、昼間に、住宅街にある家に忍び込んだりしません。

 決して自意識過剰なわけではなく、私はそれなりに目立つのです。


 もちろん、マニに取り憑かれた子供のことは心配です。

 早く助けてあげたいのですが……。


「あの家の様子を見に行くのもやめておけ。子供からマニを剥がす時の成り行きによっては、警備隊に追われるリスクもあるからな」

「……分かりました」


 私の心情など、この人はお見通しのようです……。

 ルナさんは、自分を見上げるマリーを抱き締めてから、私達と別れました。



 私は、子供達を連れて、わざと路地に踏み込みました。

 目的は、魔力の補充です。


 案の定、1分も経たないうちに、私に声をかけてきた集団がいました。


「お嬢さん、こんな所に入ってきたら危ねえですよぉ?」

「こりゃあ、俺達が守ってやらないとなぁ」


 4人の男が、私に声をかけてきました。

 大きな街には、このような輩が必ず住み着いています。

 私が住んでいた街にも、決して近寄ってはならないエリアがありました。


「申し訳ありません。せっかくですが、私には、この子達がおりますので」


 そう言って、私は頭を下げました。

 これで引き下がるのであれば、この人達は悪人ではないかもしれません。


「ん? あんた、こんなに子供を連れてたのか?」

「構わねえって。ガキなんて、そこらで遊ばせておけばいいだろ?」


 そう言って、男の1人が私に近寄ってきました。

 他の男達も、その男を止める様子はありません。


「セーラ、止めて」


 私は、相手に怪我を負わせないように指示を出します。

 セーラは魔法の壁を作り、男を弾き飛ばしました。


「いってぇ!」

「このアマ、何しやがる!」

「落ち着いてください。私には、貴方達と争うつもりなどありません」

「うるせえ! お前ら! ガキは始末して、女は剥いてヤッちまうぞ!」


 男達は、刃物を取り出しました。

 私は、あえて全ての感情を消して、子供達に命令しました。


「貴方達。この男達を、なるべく時間をかけて始末して」



 血の海になった現場から、私達は立ち去りました。


 ドロシーの魔力が勿体ないので、掃除はしませんでした。

 ルナさんから聞いたのですが、ゴロツキのような男達が惨殺されても、街の警備隊は真剣に捜査などしません。

 通りすがりの私が、犯人として捕らえられるリスクはほとんどないでしょう。


 このような方法による魔力の補充は、ほとんど抵抗なく行えるようになりました。

 必要なことなので、特に躊躇する理由はありません。


 ですが……私は、人として大切なものを、徐々に失っているのではないかと不安になることもあります。


 そんなことを考えた時に、「妹」であるナナは、いつも心配そうな顔で私を見上げます。

 そして、私は心優しい「妹」の頭を撫でてあげるのでした。



 夕方になって、ルナさんが宿に戻ってきました。


 マリーは、嬉しそうにルナさんに抱き着きます。

 そんなマリーを撫でてから、ルナさんは何かに気付いた様子でこちらを睨みました。


「お前は、この子達に何をさせた?」

「面倒な男性に絡まれてしまっただけです」

「……」


 ルナさんはため息を吐きました。

 おそらく、その程度のことではなかったと察しているのでしょう。


「……まあいい。どうやら、ゴードンというのは、マニがいる、あの屋敷の主人らしい」

「そうなのですか?」


 あの屋敷は、裕福な家庭のものとは思えません。

 そして、そんな屋敷の主人が20人以上の子供を引き取った、というのは違和感があります。


「時間がなかったから、詳しい事情を知っている人物には会えなかったが、ゴードンには妻がいて、子供はおらず、大勢の使用人を雇っていたようだ。だが、使用人は全員解雇されたと言われている。どうやら事業に失敗して、今では困窮しているようだ」

「それなのに、大勢の子供を引き取っているのですか?」

「そうだ。ゴードン夫妻に子供がいないということは、引き取った子供達の中に、マニが取り憑いた子供がいるのだろう」

「どうして、困窮している人が、次々と子供を引き取るのでしょうか?」

「おそらく、子供を引き取った時に受け取れる養育料が目的だろう」

「……ですが、たとえ増額されていても、1年も経てば使い切ってしまう程度の金額なのでしょう? すぐに、赤字になってしまうではありませんか」

「ああ。つまり、まともに世話をするつもりがないのに、目先の金のために引き取っているということだ」

「……!」

「マニが取り憑いた子供がいることからも、引き取られた子供達は、相当な精神的苦痛を受けていると考えて間違いないだろう。一刻も早く助け出さなければ危険な状況だ」


 さすがのルナさんも、気分が悪そうな顔をして言いました。

 マリーが、心配そうな表情を浮かべます。


 ろくに世話をするつもりがないのに、20人以上の子供を引き取るなんて……信じられません。

 そんな人に引き取られた子供は、今でも無事なのでしょうか?


 まさか……。


 良くないことを考えそうになって、私は頭を振りました。

 私のことを心配した様子で、ナナが近寄ってきます。


 ナナを安心させようとして笑いかけようとしましたが、上手にできている自信はありませんでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ