第63話 視線の先
魔女がいなくなってから、改めて、これからのことを考えました。
あの男がミーシャを殺したことを、許すつもりはありません。
ですが、あのような男に力を与えた、諸悪の根源である魔女に協力するなど、冗談ではありません。
私は、魔女に教えられた言葉を、生涯口にしないと決意しました。
しかし、問題があります。
あの男は、魔力を無計画に使い続けて、枯渇するかもしれない状態なのです。
魔力が尽きれば、彼は死んでしまうので、私を利用して補おうとするでしょう。
しかし、彼の魔力の源を知ってしまった私のことを苦しめても、魔力を補うことはできません。
焦った彼が、少女達に過剰な虐待を行うおそれがあることは、否定できませんでした。
どうすれば、魔女の思惑に乗らず、少女達を守ることができるのか……?
考えて、私は答えを出しました。
私が部屋に入ると、彼は意外そうな顔をしました。
「……逃げなかったのか? そんなに、俺に抱かれたかったとはな」
「御主人様、お願いがございます」
「何だ? 言ってみろ」
「当面の間、旅は中断して、どこかに定住しませんか?」
「……何?」
彼は怪訝な顔をしました。
私は話を続けます。
「既に、御主人様が魂を入れた少女は7人になりました。彼女達が成長すれば、身体が大きくなって、馬車の荷台は手狭になっていくでしょう。そろそろ、女の子を集めるのは限界ではないでしょうか?」
「そんなことか……。狭くなったら、もっと大きな馬車を買えばいい」
「ですが、馬車を大きくしたら、扱いが大変になります。それに、馬車を買い替えるためのお金を、簡単に用意することができますか? 人数が増えれば、今よりも生活費が必要になりますよ?」
「金の心配なら必要ない。あいつらを使えば、稼ぐ方法はいくらでもある」
「まさか……身体を売らせたりは……」
「するはずがないだろう!?」
「……申し訳ありません」
「俺の女を、他の男に抱かせるはずがない」
「……」
この男の独占欲が強いことを喜ぶべきなのかは、迷うところです。
ですが、とりあえず、妹達が売春をせずに済むことについては安心できました。
「問題は、お金だけではありません。御主人様は、あの子達に、なるべく魔法を使わせないようになさっていますね? それは、魔力が尽きてしまうからではありませんか?」
「!」
彼は、私の言葉に、激しく反応しました。
やはり、これは、他人に知られたくないことだったようです。
「御主人様の能力が、いかに人智を超越したものであっても、魔力を消費しないとは思えません。そして……御主人様が魂を与えたことを考えると、ひょっとして、魔力を与えているのも御主人様なのでは……?」
「お前は、余計なことを考えるな!」
彼は、激昂して叫びました。
やはり、自分の命に関わることについては、私に知られたくないのでしょう。
「……それはともかく、7人もの少女達が、これから大人になっていくのです。当分の間は、これ以上、人数を増やす必要はないでしょう?」
「コレクションは、増やすことに意味がある。俺は、集めることをやめるつもりはない」
これからも、コレクションに加えるために、少女を殺すのですか……?
そう言いたくなりましたが、私は言葉を飲み込みました。
私が魔女と接触したことは、なるべく隠した方が良いでしょう。
この男は、魔力が尽きれば死んでしまうのに、欲望を抑えられずに乱用して、枯渇しかかっているのです。
もしも、私が少女達に、彼の魔力の源が『苦しみ』であると教えてしまえば、彼は魔力を補えずに死んでしまうでしょう。
私が、彼の明確な弱点を知っている。その事実を知られてしまえば、この男は警戒して、私を抹殺しようとするかもしれません。
仮に、この男を殺すのであれば、少女達への暴露は、こっそりと行う必要があります。
私は、はっきりと、自分の中の殺意を自覚しながら彼を見ました。




