第61話 私の結論
私は、以前、彼に対して指摘したことがあります。
あの男に支配されている少女が多すぎるのではないか、と。
その後も、マニに取り憑かれた子供を、何人も見てきましたが……それは、やはり異常なことだったのでしょう。
私の身体は、怒りで震えました。
やはり、私はあの男に騙されていたのです。
彼が、自らの欲望のために、マニを呼び寄せたのだとすれば……ミーシャ達は、あの男の犠牲者に他なりません。
「分かっただろう? この辺りに、大量のマニが存在しているのは、あの男のせいだ。そのために、7人もの少女が命を落とした。気の毒なことだな」
「……心にもないことを仰らないでください。確かに、あの男のことは許せません。ですが、彼はマニを集めただけで、増やしたわけではないのでしょう? もしも、あの男がマニを呼び寄せなければ、遠く離れた場所で、私の知らない子供が犠牲になっていたはずです」
「そんな理由で、あの男を許すというのか?」
「あの男の行為が原因で亡くなった少女達は、本当に気の毒だと思います。妹が……ミーシャが、あんな男の欲望が原因で死んだことは、到底許せることではありません。ですが……代わりに誰かが死ねば良かったとは思いません」
「そうか。だが……あの男が、自分が好む容姿の少女に対して、故意にマニを取り憑かせたとすれば、どうだ?」
「……!?」
そんなことをすれば、それは、もはやマニを用いた殺人でしょう。
しかし……ミーシャやレベッカが亡くなった時の、彼の喜び方を考えれば、充分にあり得ることだと思えます。
「彼は……本当に、そのようなことを……?」
「ああ、やった。まず、自分のコレクションに加える価値のない子供から、人を殺せる段階にまで育ったマニを剥がして確保し、それをナナという少女に取り憑かせた」
「……!」
では、本当のナナは……あの男に殺されたのです!
私の全身から、血の気が引いていくのを感じました。
「そして、あの男は、同じことを、お前の妹に対しても行った」
「!?」
私の脳は、魔女の言葉を理解することを、拒絶しました。
そして、少し遅れて。
ショックのあまり、私は絶叫していました。
「……」
「そろそろ落ち着いたか?」
しばらく経って、魔女は、心配する様子もなく言いました。
「……はい」
私は、無理をしながら、そう言いました。
落ち着いたというよりは、消耗しきったという方が正しい状態だと思います。
「ついでに教えてやろう。あのレベッカという少女だが、すぐにマニを剥がしてやれば、助けることは可能だった。あの男は、あえて夜まで待つことで、あの少女をわざと死なせた。セーラという少女の場合は、1日以上待っている。ドロシーという少女の時には、3日も待っていたはずだ」
「……これ以上は聞きたくありません!」
私は、耳を塞ぎたくなりました。
人間に……そのような酷いことができると、思いたくありませんでした。
あの男は、マニを駆除していました。
その行為は、たとえ最低な目的のためだったとしても、他者を救うことに役立っていると思っていたのです。
何よりも、少女達を殺しているのはマニであり、彼ではない。そのように考えていました。
しかし、それは違いました。
彼は、マニを凶器として使い、ナナとミーシャを殺したのです!
それだけでも、私が彼を八つ裂きにする理由としては充分でしょう。
見殺しにされた少女達のためにも、私はあの男を、どのような手段を用いてでも抹殺すると心に誓いました。
「ようやく、覚悟が決まったようだな?」
そう言って、魔女はニヤリと笑います。
悪事が成功した時のような、醜悪な笑顔でした。
その顔を見た時、私の中の、冷静な私が言いました。
『魔女の企みに乗っては駄目!』
そして、私は口に出していました。
「お断りします」




