第58話 選択の理由
私は、ずっと抱えていた恨みを、目の前の魔女にぶつけました。
「どうして、あんな男に……あのような力を与えたのですか? あのような人でなしから、都合よく支配するための、仮初めの人格を与えられて……本当のミーシャも、他の子達も……あまりにも気の毒ではないですか!」
「私は、力の源を与えただけだ。それを、あの男が、あんな形で用いることは想定外だった」
「えっ……?」
「私が与えたのは、分かりやすく言えば、どのような能力でも得られる能力だった」
「どのような能力でも……!?」
「そうだ。それを、あの男が、人類を苦しめるための能力として活用することを期待したのだが……まさか、私が与えた力を、あのような形で使うとは。私の見る目がなかったということだろう」
「……あの男が、大規模な破壊活動など、するはずがないでしょう? 彼が小悪党であることは、少し観察していれば、すぐに分かることだと思うのですが……」
私は、呆れながら言いました。
すると、意外なことに、魔女は頷きました。
「そうだ。あいつが小悪党だからこそ、私はあの男を選んだ」
「……意味が分かりません。貴方は、人類に恐怖を与えたかったのでしょう?」
「私は、恐怖を与えたいだけだ。殺戮を望んでいるわけではない」
「……それはそれで、陰湿ですね」
「あの力は、使い方によっては、人類に回復不能な打撃を与えることも可能だ。そうしない者を選んだことは、妥当だと思っている」
「……」
そもそも、そんな危険な力を、悪人に与えないでほしいのですが……。
そう思いましたが、これは言っても無駄なことなので、私は言葉にしませんでした。
「……ならば、人類を苦しめるための能力を、ご自分で考えて、与えれば良かったのではないですか?」
「その方法による、人類への介入は禁じられている」
「……そうであれば、半端な介入をすることも禁じていただきたかったと思います」
「この世界とは違って、一切の介入が禁じられた世界も存在している」
「!?」
「このことについては、詳しく話すことができない。いずれにしても、お前とは関係のないことだ」
「……」
魔女は、とんでもないことを、当然のことのような口調で言いました。
それが本当なら……人間というのは、まるで神様のおもちゃです。
一体、私達は、何のために存在しているのでしょうか……?
「話を戻す。仮に、単純な破壊のための能力を、攻撃的な性格の人間に与えたとすれば、わずかな期間しか活動できないだろう。欲求を抑えられず、魔法を乱用して、魔力を使い切る可能性が高いからな」
「……魔力? 貴方が与える能力でも、魔力が必要なのですか?」
「当然だ。魔力を消費せずに、魔法を使うことなどできない。あの男は、支配した娘達に対して、なるべく魔法を使わせないようにしているだろう? あれは、魔力が枯渇することを避けるためだ」
確かに、彼は、少女達の魔法を抑制的に使わせています。
それは、少女達の魔力に上限があるからなのでしょう。
「……それにしても、一体、どうして彼を選んだのですか? 小悪党ならば、他にもいたはずです」
「理由はいくつかある。あの男は、自分よりも弱い相手には攻撃的になり、強い者には媚びへつらう。人に知られない状況であれば、平然と悪事を行う。そして、他人が苦しむ様子を見ることを、心から喜ぶ。だが、最低限の計算高さは持っている。同じような性格の人間の中から、たまたま選び出したのが、あの男だった」
「……」
よりによって、そんな人間に力を与えるとは……。
私はため息を吐きました。
「……?」
ふと思います。
彼は、何故……どのような能力でも得られる能力を用いて、あんな能力を手に入れたのでしょうか?
「あの……彼が手に入れた能力は、本当に、どのような能力でも手に入れられる能力だったのですか?」
「そうだ。ただし、事実上は制約が多いことも確かだ」
「……」
だとすると……どのような能力は手に入れることができないのか、確認する必要があります。
私は魔女を睨みましたが、魔女は動揺した様子を見せませんでした。




