第48話 少女達の能力
私は、少女達の態度について考えます。
女の子達の中で、マリーは、私に対して一番懐いてくれました。
それは、あの子が一番幼いからだと思っていましたが……ひょっとしたら、マリーに本物のお姉さんがいたために、無意識に姉を求めたからだったのかもしれません。
そこまで考えて、私は、私の主人である男の話を思い出しました。
どうしてルナさんは、マリーのことを忘れなかったのでしょうか?
あの男が新たな魂を入れると、その人物は、皆から忘れられてしまうはずなのですが……?
そういえば、カイザードもミーシャのことを忘れていません。
あの男の話は、嘘だったのでしょうか……?
しかし、そうだとしたら、マリー以外の少女達の家族も、大騒ぎをしているはずです。
そうであるならば、カイザードが独自に動かなくても、警備隊は少女達を取り戻すために動いたのではないでしょうか?
カイザードについては、私のことを覚えているから、その妹であるミーシャのことも覚えている、ということなのでしょうか……?
考えても、答えは出ませんでした。
首を捻りたい気分なのは、カイザードも同じであるようでした。
「……どうにも分からないな。深淵の魔女というのは何者なんだい?」
カイザードは、深淵の魔女の話を聞いたことがないようです。
私達の話に付いて来られず、戸惑っている様子でした。
「それは……人類が増長した時に災いをもたらすと言われている存在よ」
「何だって? そいつは、どうしてそんなことをするんだ?」
「それは……」
私は、その疑問に答えることができませんでした。
そんなことは、深淵の魔女に直接尋ねなければ、分かるはずがないのです。
「それに、そんな魔女が本当にいたとしても、小さな女の子を誘拐することが、人類の災いというのは……いや、気を悪くしないでくれ。もちろん、君やルナが辛いことは分かっているんだ。でも……そんな恐ろしい奴が本当にいるなら、街を破壊するような、大規模な災害を引き起こすんじゃないか?」
カイザードの疑問はもっともです。
彼の仲間も、私の言葉を信じていない様子でした。
「……深淵の魔女の話は、信じてくれなくてもいいの。でも、ミーシャも、マリーも……他の女の子達だって、信じられない力を持っているわ。ゴーラス高原を、魔物を駆除しながら突破したほどの力があるのよ!」
「何だって……!?」
カイザードが動揺します。
他のメンバーも、顔を見合せて、私の話に困惑している様子でした。
「それに、ミーシャは、10人以上の盗賊を一瞬で葬り去ってしまったわ。いくら警備隊でも、とても正面から挑んで勝てる相手じゃないのよ!」
私が必死に訴えると、カイザードはしばらくの間考え込んで、1回頷きました。
「……どうやら、僕達が考えていたよりも、事態は深刻なようだ。とにかく、早く隊の上層部に報告しないと……」
「馬鹿め。そんなことをさせるものか」
「!」
皆が、声のした方を向きました。
そこにいたのは、私の主人である男と、彼に人格を与えられた少女達です。
「そんな……どうやって、ここに!?」
私は、ルナさんと一緒に、かなりの距離を移動しました。
私達の声が、この男に聞こえるはずがないのです。
「セーラの能力を使った。お前の匂いを追わせたんだ」
「!」
匂いを……追った!?
セーラは「ペット」にされていますが、そのような能力があることは初耳でした。
そういえば……レミは、魔法の他にも、気配に敏感であるという能力を有しています。
レミ以外の少女にも、何らかの能力があることは、想定しておくべきでした。
「だが……アッシュがいたはずだ! お前達……あいつをどうした!?」
カイザードが叫ぶと、私の主人である男は、鬱陶しそうな顔をしました。
「それは、近くにいた見張りか? あいつなら、ミーシャが一瞬で始末したぞ?」
「……!」
「こちらの能力を、ろくに把握していないとは……どうやら、スピーシャに接触するのが早すぎたようだな?」
彼は、そう言って笑いました。
私は、レベッカがいた町で、誰かに見られていたことを思い出します。
あれは、カイザードの仲間だったのでしょう。
あまり近くで観察すれば、レミに察知されてしまうので、私達の情報を充分に得られなかったのかもしれません。
私が少女達の能力を把握しておかなかったことについて、激しく後悔しました。




