第43話 初めてのキス
私達は、馬車を押して川を渡りました。
浅い部分を選んだこともあり、難なく渡り終えます。
念のため、馬車に損傷個所がないかを調べましたが、特に問題はないようでした。
私は、馬車を一生懸命に押してくれたナナに対して、感謝を伝えました。
「ナナ。貴方は、こういう時にも頼りになるわね。ありがとう」
「そ、そう……?」
ナナは、いつもと違って、照れた様子で顔を逸らしました。
どうやら、少しだけ、私のことを認める気になってくれたようです。
そのきっかけが、私が裸を見せたことだとしたら、少し複雑な気分になりますが……。
その日は、何事もなく終わりました。
しかし、事件は、その次の日の夜に起こりました。
その夜、私は突然、何者かによって口を塞がれたのです。
目を覚ました私は、反射的に、全力で抵抗しようとしました。
しかし、私はすぐに動きを止めました。
それは、私の上に覆いかぶさっているのが、彼だと気付いたからです。
彼は、女性が嫌がっている様子に興奮する、という性癖を持っています。
あまり暴れると、力任せに行為に及ばれてしまうかもしれません。
私の力では彼を押し退けられないので、今は大人しくするべきだと判断しました。
「どうした? ひょっとして、俺のことを待っていたのか?」
彼は、私が大人しくなったことについて、都合よく解釈したようです。
今になって考えると、彼は今日の昼間、私の方をじっと睨んでいました。
その時は、ただ気持ち悪いと思っただけでしたが……彼は、ずっと夜のことを考えていたのでしょう。
昨日、全裸を見せたことが、彼の欲望に影響しているに違いありません。
彼が私の口から手をどけたので、私は懇願しました。
「御主人様……今夜は、ご容赦いただけないでしょうか?」
「何を言っている! 夜まで待ったんだ。これ以上待つことなどできるか!」
「ですが……女には、男性に身体を委ねられない期間が存在します」
私がそう言うと、彼はその意味が分かったらしく、動揺した様子を見せました。
「……昨日の水浴びの時には、そんな様子はなかったはずだぞ?」
「その後からです。お願いですから、この期間が終わってからにしていただけませんか……?」
「……嘘ではないだろうな?」
「本当です。信じてください」
彼は、私の顔をじっと見つめました。
私は、彼のことを見つめ返します。
しばらくして、彼は、私が本当のことを言っていると悟ったらしく、ため息を吐きました。
ひょっとしたら私の身体は、彼の欲望を察知し、こうなることを予見して、身を守ろうとしたのかもしれません。
あまりのタイミングの良さに、そんなことを考えてしまいました。
いえ、これは、神様のご意志によるものに違いありません。
私は、心の中で、神に感謝しました。
「……できるようになったら、必ず俺に伝えろ。黙っていたら……尻を叩くだけでは済まさないからな?」
「はい……」
彼は、いきなり私にキスをしました。
それから、私の身体を乱暴に触ります。
私は、全ての感情を封印して、彼が離れるのを待ちました。
彼が離れた後で、私は嗚咽を漏らしそうになりました。
こんな男に……唇を奪われるなんて……!
そして、彼は私に、生理が終わったら申し出るように、と命じました。
さすがに、期間を正確に当てることはできないでしょうが……10日以上も引き延ばしたりすれば、絶対にバレてしまいます。
凌辱されて、さらに屈辱的なお仕置きまで受けるのは、到底耐えられることではありません。
いずれは、こうなることは分かっていましたが……。
私は、いっそのこと、身体を汚される前に死んでしまいたくなりました。
しかし、私が死んだら、彼は代わりに、まだ幼い少女達を餌食にするでしょう。
それだけは、決してあってはならないことです。
私は、朝まで眠ることができませんでした。




