第37話 最悪の役割
「……」
目を開いたレベッカは、怯えた様子で、彼から離れるような仕草をしました。
「どうした? お前は、今日から俺のオモチャだ。これから、たっぷりと世話をしてやるんだから、きちんと挨拶するべきだろう?」
そう言って、彼は嗜虐的な笑みを浮かべました。
本当に、この男は……人の姿をしているだけで、正体は悪魔なのではないでしょうか?
ミーシャの「奴隷」も、セーラの「ペット」も酷いですが、彼がレベッカに与えた役割は最悪です。
人を、物扱いして良いはずがありません。
「……お、おはようございます……」
レベッカは、怯えた様子で言いました。
目に涙を浮かべている姿が、とても哀れです。
彼は、レベッカの左頬を無造作に摘まみました。
「お前は少しやつれているな。もう少し、触る価値のある身体になれ」
「……す、すいません……」
彼は、満足そうに頷きながら、レベッカの右頬も摘まんで、両側に引っ張りました。
「おやめください、御主人様!」
怒りを圧し殺しながら、私は叫びました。
すると、彼はとても迷惑そうな顔をしました。
「まったく。お前は、いつも俺の邪魔をするな」
「当然ではないですか! 女の子を虐めるのは、おやめください!」
「冗談じゃない。こいつは、俺のオモチャとして生まれ変わったんだ。どうしようと、俺の勝手だ」
「貴方には……良心がないのですか!?」
「馬鹿らしい。そんなものがあったら、何だというんだ?」
彼は、呆れた様子で言い放ちました。
私は、思わずレベッカを抱きしめます。
「この子に……酷いことをしないでください!」
「……お前が今やっていることは、酷いことではないのか?」
「えっ……?」
見ると、レベッカは、酷く怯えた様子です。
まるで、私に抱き締められることを、嫌がっている様子でした。
少し考えて、ようやく理由に思い至ります。
彼のコレクションになった少女達は、他のコレクションのことも含めて、他人のことを嫌っています。
嫌いな相手に抱き締められたりすれば、苦痛に感じるのは当然でしょう。
「ごめんなさい、レベッカ!」
私は、慌てて飛び退きました。
レベッカは、涙を浮かべて後ずさります。
「お前は面白い女だな。いつもその調子なら、俺も退屈しないで済むんだが」
彼は、笑いながら言いました。
私がレベッカを虐めてしまったことが、そんなに楽しいのでしょうか?
「……御主人様。レベッカも、私の妹にしていただけませんか?」
「それではつまらないだろう? しばらくの間、レベッカのことは、俺が1人で面倒を見る」
「ですが……それでは、レベッカの身体がもちません!」
「……お前は、本当に口うるさい女だな。機会があれば、レベッカのことも、お前の妹にしてやる。だから、しばらく黙っていろ」
「……」
これ以上言っても、彼の機嫌を損ねて、事態が悪化するかもしれません。
私は、命じられるままに、黙るしかありませんでした。
「……誰だ!?」
突然、レミが声を発しました。
「どうした?」
「そこにある家の陰に、誰かがいたようです」
その言葉を聞いて、少女達と彼は、警戒心を高めたようでした。
しかし、その場所には誰もいないようです。
レミの勘違いか、それとも……。
「……レベッカのご家族でしょうか?」
「それだったら、逃げたりはしないだろう。早く出発するぞ。これ以上、誰かに見咎められる前に、この街を去る」
そう言って、彼は歩き出しました。
私達も、その後に付いて行きます。
先ほど、誰に見られていたのか、気になりました。
しかし、私はすぐに、別のことを考え始めてしまいます。
突然娘がいなくなって、レベッカの両親は、どれほど悲しむことでしょう?
それを思うと、私はとても悲しくなりました。
レベッカだけでなく、ミーシャ以外の少女達には、それぞれの家族がいるはずです。
その方々が、今どんな気持ちで暮らしているのかと思うと、私は泣きそうになりました。