第25話 彼の嫉妬心
街に入り、私達は連れ立って、マニの保有者に会いに行きました。
しかし、私達が目立つからなのか、道の途中で、様々な商人から声をかけられてしまいます。
少女達は、見せられたアクセサリーなどが気になっている様子でした。
「いいか、お前達。俺は、この街では、何も買ってやらないからな? そんな金はないんだ」
彼はそう言って、少女達を白い目で見ました。
「ですが、御主人様。私とミーシャがお渡ししたお金があるはずです」
「それは、お前達の衣類を買うために使う予定だ。女には、俺のために着飾る義務がある」
「……この街で購入しては、駄目なのですか?」
「この街は、商人が多すぎるからな。まずは、食料などの物資を調達する。衣類を買うのは後回しだ」
彼は、アクセサリーに興味津々のナナとマリーの手を引っ張りました。
この男……女心に配慮することが出来ないようです。
しかし、彼が言うことも理解できます。
8人という大人数で旅をすれば、必要な食料も、かなりの量になるからです。
1人だけに何かを買い与えれば、他の女の子は反発するでしょう。
かといって、7人の女にアクセサリーを買ったりすれば、費用は相当な額となります。
彼が何も買いたくないと思うのも、無理のないことなのかもしれません。
「いたぞ。あいつが、マニに取り憑かれているガキだ」
彼がそう言って指差した相手を見ます。
それは、小さな男の子でした。
暗い表情で、荷物を運んでいます。
その少年の様子が、本当のミーシャが亡くなる前の姿と重なって見えてしまい、私は泣きそうになりました。
「チッ、男か。無駄足だったな。帰るぞ!」
彼は、すぐに引き返そうとしました。
「お待ちください! あの少年のことは助けないのですか!?」
私が抗議すると、彼は顔を顰めます。
「もう忘れたのか? 俺は、コレクションにする女以外は助けない、と言ったはずだ」
「ですが……! 目の前に、マニに取り憑かれた者がいるのに、見捨てるなど……!」
「スピーシャ」
彼は、怒った様子で、私の顎を乱暴に掴みました。
「お前は、俺以外の男のことなど、気にする必要はない」
「ですが、あの子は、まだ子供ではないですか!」
「ガキだろうが何だろうが、男は男だ」
彼は、冷たく言い放ちました。
この男……まだ10歳にもならないであろう少年に、嫉妬しているのでしょうか?
「お前は、本当に反抗的だな。まだ、躾が足りないようだ。昨日の夜のことを、もう忘れたのか?」
「……」
それを言われると、怯んでしまいます。
男性の前で醜態を晒して、正気でいられる自信がありません。
しかし……今は、保身を考えている場合ではないのです。
「御主人様……人の命がかかっております!」
「やれやれ。どうやら……俺の前でぶちまけてもいいらしいな?」
「それで、幼い子供の命が……助かるのでしたら……!」
「ふん。助けるわけがないだろう?」
「……そんな!」
「他人の心配をしている場合か? 謝るなら今のうちだぞ?」
「……」
「意地を張っても、俺の気が変わることはない。その程度のことは、お前にだって分かるはずだ。それに……俺に出来ることは、破壊された魂の代わりに、別の魂を入れることだけだぞ? つまり、仮に俺の気が変わったとしても、あのガキの運命は変わらない。そうだろう?」
「……申し訳ございませんでした」
「それでいい。本当なら、罰として、致命的なダメージを与えてやるところだ。だが……今回だけは、お前の度胸に免じて、尻を叩くだけで許してやろう。感謝するがいい」
「……ありがとうございます」
彼は、また私のお尻を、腫れ上がるまで叩くつもりなのでしょう。
そのことも憂鬱でしたが、まさに今、マニに食われている最中の少年を見捨てることは、本当に耐え難いことでした。




