第23話 お腹の痛み
あと少し、というタイミングで。
唐突に、彼はドロシーを解放しました。
彼女は、自分の身体を抱くようにしながら、その場から走り去って行きます。
「……スピーシャか?」
彼が、こちらを向いて、そう言いました。
気付かれては仕方がありません。
私は、彼の前に姿を現します。
「御主人様。あの子に何をしたんですか?」
私は、怒りを押し殺しながら言いました。
「何をしても、俺の勝手だろう?」
彼は、悪びれる様子もなく言いました。
「それは違います! ドロシーにも、他の子にも、元の人格がありました! 親しい人達だって、この世界に存在していて、皆のことを心配しているはずです!」
「俺に説教をするな。あいつらに、お前を追い出すように命じてやってもいいんだぞ? 帰る家もなく、女1人で放り出されて、どうやって生きていくつもりだ?」
「どのような脅しにも、私は屈しません!」
「……ふん」
彼は、私に歩み寄ってきます。
私を殴るつもりでしょうか?
それとも、殺してしまうつもりでしょうか?
いいえ、ドロシーの代わりに、私を捌け口にするつもりかもしれません。
あるいは、先日と同様か、もっと酷い罰を与えるかもしれません。
私は、感情を封印しました。
自分が酷いことをされるのであれば、構いません。
他の少女達が惨たらしいことをされるよりは、遥かにマシです。
彼が、私の目の前に来ました。
そして、嗜虐的な笑みを浮かべて、私の顎を持ち上げます。
「お前は、俺の邪魔をした。一番盛り上がる時に、水を差したんだ。その罪は、その身体で償ってもらおう」
「……どうぞ、ご自由に」
私は、淡々と応じます。
彼は、獲物を狩るような勢いで、私の後ろに回り込みました。
後ろから抱きしめられます。
胸を触られるかと思いましたが、彼は、左腕で私の身体を抱きながら、右手で私のお腹を押しました。
妙な性癖ですが、そういう趣味の男性もいる、ということでしょう。
私は、なされるがまま、時が過ぎるのを待ちました。
それは、突然のことでした。
下腹部に、嫌な痛みが走ります。
考えられる限り、最悪ではないかと思えるようなタイミングでした。
何日も、こんなことはなかったのに……どうして、今?
想定していたなかった事態に、封印していた感情が呼び起こされてしまいます。
この状況……どうすれば良いのでしょう?
迷っている間にも、彼は私の腹部を指で押し、お腹はどんどん苦しくなってきます。
まさか……!
私は、信じられない気持ちで、後ろに立っている男を見ました。
「どうした?」
彼は、ニヤニヤと笑いながら言いました。
私が急に慌て始めた理由が、分かっているようです。
全身から血の気が引いていきました。
「御主人様……あの……」
「何だ?」
「……少々、1人になるための、お時間を頂けないでしょうか?」
「駄目だ。俺は、お前の身体で楽しんでいる最中だからな」
「ですが……その……急に催してしまいまして……」
私は、羞恥に耐えながら言いました。
この状況では、もはや、彼に僅かでも良心があることを願うしかありません。
「だろうな。そうなるように、指で刺激してやったんだ」
「……!」
「どうせ、旅に出てから、1回も出していないんだろう? 女は溜まりやすいらしいからな」
「お、お願いします! 人目に付かない場所で……どうか……!」
「安心しろ。さすがに、目の前で出させる趣味はない。だが……ドロシーが羞恥に悶えるところを見損ねたのは腹立たしいな」
「申し訳ございませんでした! 何卒……ご容赦を!」
「さて、どうしてやろうか?」
焦らされて、たまらず彼の腕から逃れようとします。
しかし、私の身体を抱いている腕に力を込められ、逃れられないことを悟りました。
「うっ……」
苦悶する私に、彼は興奮した様子です。
これは……殺意に身を委ねて、妹達を道連れに、彼を殺そうとした私への天罰なのでしょうか?
私が覚悟を決めるのと同時に、彼が言いました。
「二度と邪魔をするな。でないと……次は、目の前でぶちまけさせるからな?」
「分かりました! どうか……どうか……!」
必死に懇願すると、彼は私を解放しました。
お腹を押さえながら、急いで彼から離れます。
本当に……危ないところでした。
後でよく考えると、彼がドロシーや他の少女に、酷いことをしていないという証拠はないのですが……さすがに、今回の報復には耐えられません。
私は、敗北感を噛みしめました。