第18話 私の妹達
彼は、最初にミーシャを呼びました。
ミーシャは、彼に構ってもらえて、とても嬉しそうです。
大変不快でしたが、彼の気が変わってはいけないので、態度に出さないように気を付けました。
彼は、ミーシャの頭を撫でながら言いました。
「ミーシャ。この女は、今からお前の姉だ。これからは、お姉様と呼んで慕え」
「……かしこまりました、御主人様」
ミーシャは、少しだけ困惑した様子でしたが、主人の命令に従いました。
私の妹は……ついに、私の元へ戻ってきたのです!
「ミーシャ!」
私は、ミーシャを抱きしめました。
「……今後、よろしくお願い致します、お姉様」
ミーシャは、つい先程まで他人であり、嫌っていた女が姉になったことに、戸惑っている様子でした。
今のミーシャは、私の本当の妹ではありません。
私の呼び方も、変わってしまいました。
しかし、身体も声も、ミーシャと全く同じです。
私は、ミーシャの銀色の髪を撫でました。
私と同じ色の、綺麗でサラサラな髪です。
機会があれば、以前と同じように、私が櫛で梳いてあげたい。
そう思いながら、私は涙を流しました。
「お前は大袈裟な女だな……」
彼は、呆れた様子で言いました。
しかし、私は幸福感で満たされていたので、そんなことは気になりませんでした。
「ミーシャ、お前はあっちに行っていろ。レミ、こっちへ来い」
彼は、余韻を損なうタイミングでミーシャを追い払い、赤い髪の少女を呼び寄せました。
文句を言いたい気分でしたが、その前にレミがやって来ます。
「何ですか、師匠?」
レミは、嬉しそうな顔をしながら言いました。
普段の様子と違って、元気一杯、といった様子です。
「この女は、今からお前の姉弟子だ。よって、お前にとっては、実の姉同然、ということになる。これからは、姉さん、と呼んで慕え」
「……分かりました、師匠」
レミは、ミーシャ以上に困惑した様子でした。
唐突に、先程まで嫌っていた他人が、自分の姉弟子になってしまったのです。
「これからよろしくね、レミ」
「……はい、姉さん」
レミは、恥ずかしそうにしながら、私と握手しました。
とても可愛いです。私は、思わずレミを抱きしめてしまいました。
「……ね、姉さん!?」
レミは、私の行為に、ビックリしてしまったようでした。
この子は、少女達の中では年齢が上の方であるように見えますが、体格は小柄です。
まだ子供なのですから、もっと甘えさせてあげたいと思いました。
「……ほう。こういうのも、悪くないな……」
彼は、何故か私達の様子を気に入ったようでしたが、私は意識しないように努めました。
「よし、レミはあっちに行っていろ。セーラ、来い」
彼に呼ばれても、セーラは何も言いませんでした。
無言のまま彼に近寄り、小首を傾げます。
私は、不思議に思って、彼に尋ねました。
「御主人様。セーラは、どのような立場なのでしょうか?」
「こいつは、俺の『ペット』だ」
「!」
私は、驚いてセーラを見ました。
ミーシャの「奴隷」も、相当酷いと思いましたが……彼女は、もはや人間扱いされていません。
そんな役割を押し付けられた彼女は、飼い主を見る時の子犬のような目で、彼を見つめているのでした。
「セーラ、よく聞け。こいつは、俺が気に入って、可愛がっている女だ。今から、この女もお前の飼い主になる。だが……こいつも、俺にとってはペットのようなものだからな。お前の姉だとでも思って、好きなだけ、じゃれついてやれ」
彼がそう言うと、セーラは不思議そうに首を傾げて、私をじっと見ました。
私は、どうするべきか迷いました。
彼女のことを、動物のように扱うことは、あまりにも人としての尊厳を踏みにじっています。
しかし、彼女の偽りの魂は、彼の「ペット」として振る舞っているため、すぐに人間に戻してあげるのは難しいでしょう。
「セーラ。私のことは、本当の姉だと思って良いのですよ?」
私がそう言って手を広げると、セーラは嬉しそうに、私に飛び付いてきました。
彼女は、私のことを姉ではなく、飼い主の1人だと認識しているのでしょうか?
だとしたら、早く彼女を人間に戻してあげたいと思いました。




