第17話 彼の褒美
「お前に褒美をやろう」
翌日、彼はそのように言ってきました。
「……褒美、でございますか?」
「そうだ。昨夜は、とても楽しめたからな」
彼は、ニタニタと笑いながら私を見ます。
一方的に私を罰して、その褒美を与えようとするなど、全く意味が分かりません。
「ありがとうございます、ご主人様」
私は、形だけの感謝を伝えました。
この男の褒美とは、どのようなものでしょう?
ひょっとしたら、もう1回お尻を叩くことが褒美だ、などと言い出すのではないでしょうか?
私は、そのような可能性すら検討しました。
「お前を、ミーシャの姉にしてやろう」
彼は、そう言いました。
私には、その意味が分かりませんでした。
彼は、私がミーシャに姉として接することを、既に容認しています。
なのに、それが褒美とは、どういうことでしょうか?
「俺が、ミーシャに、お前の妹となるように命じてやる。そうすれば、お前は、ミーシャにとって大切な人間になるはずだ。すると、ミーシャはお前を慕うようになる」
「そのようなことが……できるのですか!?」
「当然だろう? 俺が、コレクションの中から妻を選んだ際に、他のコレクションが妻を嫌ったら、面倒なことになるではないか」
彼は、自慢げな態度で言いました。
この男は、何年も先まで、徹底的に彼女達を支配するつもりなのです。
本当に、最低最悪の男です。
「御主人様は、とても賢い御方でございます」
私は、本心を押し殺して彼をおだてました。
「そうだろう?」
彼は、私の口先だけの言葉を素直に受け取って、満足そうです。
そのタイミングを狙って、私は言いました。
「ですが、御主人様。この際ですので、他のコレクションの皆さんも、私の妹にしていただけませんでしょうか?」
「……何だと?」
彼は、一気に警戒心を強くしたようです。
しかし、私は引き下がりませんでした。
「御主人様。女は、他の女と、自然に群れるものでございます。私も、より多くの女の子と戯れたいのです」
「そのようにして、俺を排除するつもりか!」
「滅相もございません。私の、心の健やかさを考えてのことでございます」
「ふざけるな! 何のために、俺の女達が、他者を嫌うようにしたと思っているんだ! コレクションの女達が、そこらの女と同じように振る舞えば、男を排除しようと企むことは明らかではないか!」
彼は憤りました。
自分が、疎外感に耐えられるはずがないと思っているようです。
本当に、どこまで器の小さい男なのでしょう?
「御主人様。貴方様がお創りになられた人格は、意図に反して、嫉妬する心を持っていたはずです」
「それがどうした?」
「でしたら、ミーシャ達に、女同士で群れたいという欲求がないとは断言できません」
「……」
「人は、自然な状態にいるべきです。女は、仲の良い女がいなければ、生きていくことができません」
本当はそんなこともないのでしょうが、私はあえて誇張して話しました。
とにかく、少女達と仲良くする権利が欲しかったからです。
一番の目的は、彼女達に、彼から離反するように促すことです。
しかし、それだけではありません。
正直にいえば、私自身が、周囲の女の子達に嫌われている環境に耐えられない、ということもありました。
しかし、そのことよりも。
今すぐに彼女達と仲良くしたい理由は、切実なものです。
彼は少女達に、お手洗いに行きたくなったら、すぐに申し出るように命じています。
そのため、催した女の子は、彼にその旨を伝えるのですが……その様子は、とても不憫でした。
彼女達は、モジモジしながら前を押さえて、恥ずかしそうに彼に伝えます。
すると、彼が彼女達をからかったり、迷惑そうな反応をしたりするので、少女達は辛そうな顔をするのでした。
彼は、あまりにもデリカシーがなさすぎます。
私を経由して彼に伝えれば、彼女達の精神的な苦痛を和らげることが出来ると考えたのです。
「……いいだろう。ただし……お前が、他のコレクションに、他者と親しくすることを命じないのであれば、だ。そのようなことをすれば……尻を叩くだけでは済まないぞ?」
「感謝致します」
「それと……全員に、お前が姉だと伝えれば、混乱を招く。お前の役割は、それぞれで異なるものにさせてもらうから、そのつもりでいろ」
「かしこまりました」
これで、少女達と親しくなることができます。
彼が命じることによって、彼女達に強制することは不本意でしたが……やむを得ないことでした。




