第16話 お尻の痛み
彼は私に、立ち上がるように促しました。
私はそれに従いながら、ようやくスカートを元に戻すことができました。
彼は、後ろから私の両肩を掴んできます。
私の正面に立たないのは……まさか、私が彼の局部を潰してしまおうと考えたことに、気付かれたのでしょうか?
「本来であれば、もっと痛め付けてやるところだ。だが、肌を傷付けられるのは、お前だって嫌だろう? 今回は、これで許してやる」
そう言いながら、彼は私の肩を撫でます。
そして、フフッと笑いました。
自分の慈悲深さに感心した、とでも言いたげです。
改めて、この男を殺してやりたくなりました。
「これに懲りたら、二度と反抗的な態度は取らないことだ。お前だって、俺に大事にされたいだろう?」
彼はそう言いながら、今度は私の頭を撫でます。
大切な髪に、泥を塗られているような気分でした。
「……折角だ。この後も、お前に楽しませてもらおう。今夜は、俺の隣に寝るといい」
唐突に、彼はそう言いました。
「かしこまりました」
そのように答えてから、彼の言葉の意味に気付きます。
とてもショックでした。
彼は、予想よりも遥かに早く、私のことを慰み物にしたくなったようです。
阻止する方法は、彼の局部を攻撃する以外に、思い浮かびませんでしたが……非力な私では、致命的な打撃となるか分かりません。
失敗すれば、逆上した彼に殺されてしまうでしょう。
私は、無力感に苛まれました。
彼に支配された状態が長く続けば、いずれ彼がそのような気分になることは、覚悟していました。
しかし、少女に囲まれて喜んでいるような男であれば、私を抱くまでに、かなりの時間が必要だと思っていたのです。
この男……私の裸を見て、触ったことで、大人の女性との行為についても、実行できるという自信を持ってしまったのかもしれません。
完全に私の読みが甘かった、ということなのでしょう。
必死に抗うか、ということについて検討し、メリットとリスクを比較します。
自分の貞操や命がかかっていることであり、簡単に答えは出せません。
私は、なるべくゆっくりと動き、彼の隣に、仰向けに寝ようとしました。
そして……痛みに耐えられず、すぐに身体を横にします。
私の腫れたお尻では、布にくるまって地面に寝ることができなかったのです。
「おい、大丈夫か?」
彼が、心配そうに声をかけてきます。
「……御主人様。お尻が痛みますので、今夜はご容赦いただけないでしょうか?」
私は、心を込めて懇願しました。
まだ彼には伝えていませんが、私は回復魔法を使えます。
それを使えば、痛みを取り除くことができるのですが……これで見逃してもらえるのであれば、とりあえず今夜は無事で済む、と思いました。
「……そうか」
彼は、残念そうに言いました。
そして、あっさりと引き下がります。
冷静に考えれば、不思議なことのように思えました。
彼は、女性を苦しめて、楽しんでいたのです。
もっと重大な負傷であればともかく、お尻が腫れている程度のことで、私を抱くのを諦めるとは……。
ほぼ間違いなく、彼には女性を抱いた経験がありません。
そのことは、彼の言動や態度を見ていれば分かります。
私を抱こうとしたのは、完全に勢いによるものでしょう。
それを妨害するような出来事があると、勢いを維持することは不可能なのかもしれない、と思いました。
しかし、1回そのような気分になった、ということは、今後も同様のことがある、ということです。
私は、いずれ凌辱されてしまうでしょう。それは明日かもしれません。
覚悟はしているつもりでしたが……実際にこうなってしまうと、何とかして逃れる術はないか、と考えてしまいました。




