第14話 私の憤り
気が付いた時、私は馬車の荷台で、仰向けに寝かされていました。
周囲では、御者をしているドロシーを除く5人の少女が、心配そうな顔で私のことを見ています。
「お兄ちゃん、スピーシャが目を覚ましたよ!」
ナナが、嬉しそうに声を上げます。
その瞬間、私は飛び起きるようにして、ミーシャを抱きしめました。
「……スピーシャ?」
ミーシャが、私のことを名前で呼びました。
それは、本当のミーシャであれば、あり得ないことです。
あの子は、私のことを「お姉ちゃん」と呼んでいたのですから……。
私は、色々な感情が溢れて、泣いてしまいました。
ミーシャは、そんな私の頭を、心配そうに撫でてくれます。
その理由が、たとえ、あの男が他のコレクションを心配するように定めたからだとしても……私は救われた気持ちになりました。
「あの程度のことで気を失うなんて、欠陥品のお前らしいな」
彼が、私のことを嘲笑いました。
この男は……私の妹に殺戮を行わせたことを、何とも思っていない様子です。
私は、思わず彼を睨みました。
自分が虐げられることは、まだ我慢できます。
しかし、妹を殺戮者にされることを、黙って見過ごすことはできません。
「何を怒っているんだ? 俺は、俺達の邪魔をした盗賊を、ミーシャに処分させただけだぞ?」
「ミーシャに、あれ程の力があるならば……相手を殺さずに捕らえることだって、出来たはずです!」
「お前は、本当に馬鹿な女だな。どうして、そんな面倒なことをする必要がある?」
「面倒……ですって!?」
「……スピーシャ、俺の傍に来い」
彼は、私の態度に怒りを覚えたようでした。
私は、彼の命令に従います。
ついに、私は処分されてしまうのでしょうか?
そうだとしても、ミーシャにだけは殺されたくないと思いました。
彼は、近寄った私の顎を、乱暴に掴みました。
「本来であれば、お前の顔を張り飛ばしているところだ。だが……お前だって、顔を傷付けられるのは嫌だろう? 今回だけは、特別に許してやろう」
「……」
「感謝の言葉はどうした!」
「……ありがとうございます」
「いいか? お前は、俺のコレクションであり『使用人』だ。主人である俺に対する反抗的な態度は許さない。よって、お前には、今夜たっぷりとお仕置きをしてやる。反抗的な女を調教することは、男の役割だからな。感謝するといい」
「……ありがとうございます」
彼は、ニヤニヤと笑いながら、私の頭を撫でました。
全身に鳥肌が立ちます。
これまで抑えようとしてきた彼への嫌悪感が、一気に噴き出してしまいました。
彼の頭の中では、私に対する、様々な惨たらしいお仕置きが駆け巡っていることでしょう。
その中の、実行可能なものを検討し、そこから、私を最も苦しめることができるものを選ぶに違いありません。
私の顔を傷付けたくないのは、私ではなく彼の方です。
おそらく、私を愛でるのに支障があるような罰は選ばないでしょう。
しかし、顔以外の部位が無傷で済むかは分かりません。
今夜、地獄のような時間を過ごすことを覚悟しました。




