第12話 少女達の嫉妬心
時間をかけて気分を落ち着けてから、私は彼に質問しました。
「彼女達の本来の人格はマニによって破壊され、今は、御主人様が新たに創られた人格を保有しているのですよね?」
「そのことは、既に説明したはずだ」
「しかし、万が一……不幸にも、御主人様が病を患い、亡くなってしまう可能性だって……絶対にないとは、言い切れませんよね? そのような場合でも、ミーシャ達は、今のまま生きていくことが出来るのでしょうか?」
このような質問をすることは、彼を怒らせるリスクのあるものでした。
しかし、どうしても必要な質問です。
私の質問に対して、彼はニヤリと笑いながら言いました。
「そんなわけがないだろう? 俺のコレクションは、俺が死んだら存在価値のないものだ。だから、俺が死ねばこいつらの人格も消滅して、身体もすぐに死ぬ」
「……」
「残念だったな。俺を殺したら、ミーシャは死ぬことになる。後悔したくなければ、絶対に忘れないことだ」
「……はい。これで、私の命に代えても、御主人様をお守りする決意をすることが出来ました」
「俺のコレクションだというのに、その程度の覚悟すらなかったのか? 仕方のない女だな」
彼は、私のことを嘲笑いました。
それは、自身の勝利を確信したものです。
しかし、私はまだ、完全に負けたわけではありません。
ミーシャ達を救う方法は残されています。
「ちなみに、なのですが……御主人様が、何らかの理由によって、御自身を殺すようにミーシャ達へ命じた、と仮定した場合……その命令は、実行されてしまうのでしょうか?」
「そんなわけがないだろう? 俺が創造した人格は、明らかに俺に不利になる言動はしない。仮に俺が命じたとしても、だ。そうでなければ、迂闊に冗談も言えないだろう?」
「素晴らしいご配慮だと思います」
「その程度のことは当然だ」
そう言いながらも、彼は気分が良さそうでした。
彼にとって、明らかに不利になる命令には従わない、ということは……彼がミーシャ達に、自分の元を去るように命じたとしても、それが彼にとって不利であれば従わないということです。
では、彼にとって理想的な妻がいる状況であれば?
むしろ、少女達が邪魔になるような環境に、彼を追い込んだらどうでしょうか?
それは、完全とは言えないものの、検討する価値のある作戦であるように思えました。
問題は、彼にとっての理想の妻になれる者の心当たりが、私以外には存在しないことです。
この人でなしにとっての理想的な妻として、一生を終える……。
それは、到底耐え難いことでした。
それに、この作戦に成功したとしても。
彼に追い出された少女達が、その後どうするのか、という問題も生じてしまいます。
できることなら、他の作戦でミーシャ達を救いたいものです。
「御主人様は、ミーシャ達の人格を、熟慮してお創りになられたのですね」
「そうだ。だからこそ、全員が俺の理想の女になった。欠陥品はお前だけだ」
「ということは……この子達は、御主人様の予想を裏切るような言動はしないのでしょうか?」
「……いや、そうでもないぞ? 時々、俺が創った人格に、こんなところがあったのかと驚かされることがある。例えば、嫉妬心のようなものは、意図して加えたものではないのだが……」
彼は、少しだけ困った顔をしています。
それは、私にとって重大な情報でした。
人には、他者を妬ましく思う心があります。
彼は、自分が創り出した人格には、そのような醜い感情は必要ない、とでも思っていたのでしょう。
ですが……彼が創造した人格は、嫉妬心を有していたのです。
それは、彼のイメージした女が、そのような感情を有するものだったからではないでしょうか?
ここだ。そう直感しました。
彼が創り出した人格の、最大の隙は、彼の意図しなかった部分にあるはずです。
私は、それを利用する方法を、必ず見付けようと思いました。




