第11話 マニの犠牲者
私は、彼にコレクションを自慢させようと思いました。
何かを収集する者は、自分が集めた物を自慢したがるはずだからです。
今は、少しでも情報を手に入れなければなりません。
「御主人様のコレクションは、可愛らしい女の子ばかりですね」
私がそう言うと、彼は嬉しそうな顔をしました。
「そうだろう? 俺のコレクションに相応しい、美しい娘ばかりを選んだのだからな」
彼は、それぞれの価値を再確認するように、周囲の女の子達の頭を次々と撫でました。
汚い手で彼女達に触れるな。
その言葉を、私は飲み込みます。
「……ですが、子供の魂を食らうマニは、大変珍しい魔物だと聞いたことがございます。そのマニによって魂を奪われた少女が、これほど多く存在することが解せません」
「何だ、そんなことを気にしているのか? 簡単なことだ。マニは、巷で言われているほど珍しい魔物ではない」
「……そうなのですか?」
「ああ。マニに食われて死んだ子供の大半は、謎の突然死として扱われる。むしろ、魔物が原因だと思われる方が珍しい、というわけだ」
「……」
胸が痛みました。
ミーシャや他の5人の少女達のように、精神を破壊されてしまった子供が、この世には数多く存在するのです。
「御主人様は、旅をしながら、マニに取り憑かれた子供がいないか、探しておられるのですね?」
「そうではない。俺は、全世界のマニがどこに潜んでいるのかを、把握することができる」
「!」
それは……驚くべき能力です。
一体、この男は、どうしてそのような能力を保有しているのでしょうか?
私の反応を見て、彼は得意げな様子です。
「だから俺は、常に、自分から一番近い場所にいるマニを目指して旅を続けているんだ。マニに精神を食われているのが、俺のコレクションに相応しい女であれば、マニを駆除して新たな人格を入れてやる」
「……では、マニに取り憑かれたのが男の子だった場合は、どうなさるのですか?」
「男だったら何もしない。次へ行く」
「そんな……!」
「当然だろう? 俺は、コレクションを増やすために旅をしているんだ。男や、不細工な女に興味などない」
そう言って、彼はゲラゲラと笑いました。
「あんまりです! 子供が魂を破壊されて、命を落とすのを……黙って見過ごすなんて!」
私は、全身全霊を込めて抗議しました。
しかし、彼は鼻で笑いました。
「いかにも、お前のような、つまらない女が言いそうなことだ。本当にくだらない」
「貴方には……人の心がないのですか!?」
「あるぞ? 芸術品を集めて鑑賞するのは、人間だけだろう?」
彼がそう言ってゲラゲラと笑ったので、私の目からは涙が溢れました。
そんな私を見て、彼は満足そうな様子です。
「良かったな、ミーシャが美しい女で。そうでなければ、お前の妹は原因不明のまま死んで、今頃は土に埋められていただろう」
「貴方は……美しくなければ、生きている価値がないと仰るのですね?」
「当然だ」
彼は、平然と言い放ちました。
いつものような、私を泣かせるための言葉ではないでしょう。
それこそが、彼の本心なのです。
この人でなしを、生かしておいてはならない。
必ず、この手で葬り去らねば!
そう考えた時に、私の中の「冷静な私」が指摘しました。
彼は、自らの欲望のためとはいえ、マニを駆除しているのです。
その行為は、結果として被害を抑え、世の中のために役立っていると言えるでしょう。
こんな人でなしに、存在価値がある……。
その事実を、この場にいるミーシャ達が証明しているのです。
私は、自分の気持ちが、整理できなくなりました。
「どうした? もう泣かないのか? つまらないな……」
彼は、不満そうに言いました。
この男と同じ能力が私にもあれば、もっと有益に活用することができるというのに……!
そのようなことを思ってしまいました。




