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剣と魔法と守護獣の学園  作者: 映月久羽
1章 入学試験編
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「なるほどね、面接試験に向かう途中で『蜘蛛鳥』に襲われてここまで追い詰められたって訳か」

 灰嵜は自称『通りすがりの大魔法使い』に今までのことのあらましを伝えた。それを聞いた魔法使いはなにやら面白いことに関わってしまったというようにしきりに口元を曲げてニヤニヤしている。

「あの怪物、蜘蛛鳥っていうんですか。……というか、なんなんですかあれ? あんな生物今まで見たことないんですけど」

「んー、そのことは外部の者には秘密なんだけどね」

 いいか秘密とかめんどくさいし、と無責任なことを言って魔法使いは続ける。

「あれは魔力の結晶」

「魔力って……なんなのよ」

 今まで黙り込んでいた燈火がここにきて口を開く。

「ああそこから説明しなきゃいけないのか。めんどくさいなあ」

 魔法使いは灰嵜の背中に手を宛てると蜘蛛鳥にやられた傷痕を撫でるかのように触れる。そこから漏れた淡い緑色の光はたちまち灰嵜の傷を塞いでいった。

「これが魔力による力。つまり魔法ってことね」

「凄いけど説明になってないのよ。結局その魔法の元となる魔力はどういうものなのよ」

 突如痛みとともに消えていった傷痕にいたく感動する灰嵜とは対照的に、燈火は勤めて冷静に分析を続ける。

「んーと。要するにこの地域一帯にはその魔法を生み出す魔力が至る所に漂っているの。あの蜘蛛鳥はその魔力が何らかの方向性を持って具現化した異能の怪物。それが魔力の結晶と言うこと。わかった?」

「そんなこと急に言われても」

 理解できるわけがなかった。

 今まで平凡の中の平凡で生きてきた灰嵜が突如目の前に現れた非凡に『ああそうなんだ』と、なにごともなく対処できるわけがない。

 魔力、魔法、怪物。そんな物はお伽話だけの世界だ。少なくとも現実に現れていい代物ではない。

「その魔法っていうの私にも使えるの?」

 だがそんな非凡にもすまし顔でガンガン追求出来るのが燈火である。今日初めて会う人物だが、灰嵜はこの少女がどのような人物か大体わかってきた。

「出来るわよ」

 大魔法使い様は嘘をつく様子もなく平然とした面持ちで頷いた。

 灰嵜はこれから魔法使いのもとで二人修業するというファンタジー的展開が待っているのかとおもったが、

「特にお嬢さん。貴女は今すぐにでもね」

 どうやら修業展開が待っているのは灰嵜だけのようだ。

「ホント? さっきの治癒からあの化け物を倒す魔法も何から何まで使えるの」

「いんや。それは無理」

 またもやばっさりと言い放つ大魔法使い。しかしどういうことなのだろうか。確かにこの人は燈火に魔法を使えるといった。しかし何から何までは無理だといった。

「どういうことなのよ」

「もともと魔法というのは(この世界の人間)には使いこなせない力なの。ここに流れてる魔力が単四電池だとしたらあなたたちは単三電池で動く機械。ほら、これじゃどう考えても動きっこないでしょ」

「じゃあなんで使えるって言ったんですか」

「それはその魔制石が関係してるわ」

 大魔法使いが指し示したのは灰嵜と燈火の首に掛かっている白と黒のペンダント。それを大魔法使い様は魔制石と呼んだ。

「それはね。簡単に言っちゃえば周囲の魔力を人間が扱える形式に変換して貯蔵出来る石なの。けどその貯蔵された魔力を所有者が(吸収)できるかは別問題。魔力に適性がない者はその力を一ミリたりとも身体へと(吸収)することは出来ないの」

「吸収って……あ!」

 吸収といえば、燈火のペンダントが光っていた時にあのたぬき男も言っていたことと同じだ。つまり燈火の身体には人間が扱える魔力が十分に補給されていることになる。

「私が言ってる使えないというのは数多の魔法をってこと。変換した魔力は人間に対応する代わりに一つの魔法のみしか発動できなくなるの」

「つまりあなたもさっき俺に使った治癒魔法しか使えないということですか?」

「ふふ……それはどうでしょうね」

 灰嵜の問いに適当に笑ってごまかす女性。一方で燈火は必死に口を噛み締めて念じていた。

「全然魔法なんて使えないのよ」

 数分経っても変化は見られず、ため息をついて燈火は疑いの目を大魔法使いに向ける。

「魔力回路が繋がるのは何らかのきっかけが必要だからね。まあ大体は気を静めて自分の身体を動かす要領でやれば――」

 ボウ! と炎の燃え上がる音が大魔法使いの言葉を遮る。

 灰嵜が燈火の方へと視線を戻せば彼女の人差し指の先端からはバスケットボール大の炎塊がゆらゆらと燃えていた。

「すげえな燈火……飲み込み早いとかそういうレベルじゃねえぞ」

「本当。けど君はダメダメね。まず魔力の吸収すら始まってないもの」

「マジっすか。なら俺は魔法を使えないということ……」

「もちろん。それに面接試験を受けても落ちるのは必至ね。ここ、駒ヶ原学園は一帯に広がる魔力を使いこなせる人材しか入学させないもの」

 灰嵜は少し残念そうな顔をするものの、それも仕方がないと思えた。この世は才能が全てだ。たとえ魔法という訳の分からないものでも一つの才能であることには違いない。そして灰嵜にはそれがなかった。

 だが燈火は違う。自分とは違い魔法を自在に操ることができる。ならば自分に出来ることは才ある者を送り出すことだけだ。

「いこうぜ燈火」

「え……」

 炎で服を乾かした燈火の手を掴むと洞窟から出る。

「俺があの蜘蛛鳥とか言うのを引き付けるからその隙にお前は逃げろ。今から走っていけばなんとか受験会場に間に合うだろうよ」

「けど、それじゃああんたが!」

「あの人の話を聞いてただろ? 俺は面接試験にいっても不合格は決まってる。なら行っても意味がないんだ」

 水辺にいた蜘蛛鳥はこちらの存在に気づくと、奇声を上げながら六本の足でこちらに迫ってくる。

「早く行け!」

 灰嵜も木の棒を掴んで蜘蛛鳥に突っ込んでいった。

 蜘蛛鳥の二つの口からはジャリ状の氷塊がマシンガンのように吐き出されてくる。射出速度はウォーターカッターの時とは劣るがそれでも一〇〇キロは越していた。

「くっ……」

 灰嵜は身を反らしながら被害を最低限に抑えて突進を続ける。氷塊が身体をかすめる度に肉を食いちぎっていくかのような錯覚を覚え、身体から血が滲んでいった。

 自分は何をやっているのか。意識が朦朧とする中灰嵜は考える。こんなに頑張ったところで自分は合格することは出来ない。それに魔法だって使えない。

 死ぬかもしれないというのになぜ自分は燈火のためにここまでするのだろうか。

「……うぐっ」

 蜘蛛鳥の懐に回り込んだ。灰嵜は氷塊が届かない場所に目星を付けると木の棒を思いっきし突き立てる。一発に限らず何度も何度も。

 しかしその攻撃はまるで歯が立たない。見た目はただの羽毛のなのにその一本一本の繊維が鋼のごとく強く結合しているのだ。

 二つの顔がぎろりと灰嵜の方を向いた。人間が自分の血を吸う蚊を潰すような動作で、槍のように鋭いくちばしを走らせる。

「馬鹿ね。魔力の結晶は魔力を伴う攻撃でないと傷を与えることは出来ないのよ。魔法が使えない貴方じゃ勝ち目はないわ」

 灰嵜の耳元に大魔法使いの声が聞こえてきた。自分がいくら木の棒で殴ってもダメージにならないことを意味するそれは、灰嵜に絶望を与える。

 二本のくちばしがさらに速度を上げて灰嵜の心臓目掛けて突き進む。もはや回避するのは不可能。絶体絶命の危機に目をつぐんだその時――


「なら、魔力を伴った攻撃ならこの化け物を焼鳥に出来るんでしょう?」


 灰嵜に向けられたくちばしがぴたりと止まった。

 瞬間。悲鳴じみた発狂がくちばしの先から吐き出される。

 灰嵜は耳を塞ぎながら蜘蛛鳥を見ると、その身体を包み込むように紅の炎が燃え盛っていた。

「ほんと何カッコつけて死のうとしてんのよ。なさけないったらありゃしない」

「燈火……なんでお前」

 まだここにいる、と言う前に炎を鎮火した蜘蛛鳥が怒りと身体を燈火の方へと向けて突進していった。

「よう。命拾いしたな少年」

 気がつけば後ろに立っていた大魔法使いがニヤリと笑いながら灰嵜に声を掛けてきた。

 けれど今は構ってる隙はない。あの蜘蛛鳥の狙いは燈火だ。燈火は魔法が使えるとはいえ、身体的にはそこら辺の女子高生と何らかわりはないのだ。蜘蛛鳥お前にどれだけやれるかはわからない。

「どいてください。あいつこのままじゃ」

 自分の進行方向に立ち塞がる大魔法使いに一言言って燈火の方へ向かおうとする。が、立ち上がった身体がガクンと痙攣すると、金縛りに掛かったようにその場から動けなくなった。

 これもこの大魔法使いの魔法なのだろうか、と唯一動く瞳をその者へと走らせる。

「ちょい待ち少年。確かにあの子は魔法を使えるといってもまだまだ未熟なポーンクラスだ。けどなお前が行ったところでなんの解決にもならんぞ? むしろ足を引っ張るだけかもしれん」

「けど、あいつには面接試験が……俺なんかよりそっちを優先させるべきなのに」

「うむ。少年はまったくもって女心というものを理解してないわね」

「どういうことですか?」

「彼女は面接試験よりも君を助けることを選んだ。これが何を示すかわかるかしら?」

「わかりません」

「答えを求めるのが早過ぎよ。……まあいいわ。要するに彼女は君と一緒に合格したいの。一人じゃなく君とね」

「えっ、ど、どういうことですか。あいつそんなこと一言も」

「だから女心を理解してないと言っているのよ。おそらく彼女にとって君が初めてだったんでしょう。そうやって普通に接してくれる人間は、ね」

 灰嵜はグッと息を呑む。

 確かに自分は燈火を一人の人間として接しようとしてきた。親が誰であろうと関係ない。ただ同じ学園に通う仲間として仲良くなりたいと思っていた。

「君は、君と一緒に居たいと思っている健気な少女を自分の考えだけで追い払うのかい?」

 違うだろ、と大魔法使いは笑う。

 その通りだ。灰嵜は自分の考えばっかで燈火のことなんてちっとも考えてなかった。ただ自分の自己満足に燈火を付き合わせようとしていただけなのだ。

 大魔法使いは何かを決心したように目付きの変わった灰嵜を確認すると、金縛りを解いて最後の忠告を下す。

「覚悟は決まったようだな。そういえばひとつ言い忘れていたが――」



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