6.伝説の錬金術師のレベル上げ ~実践は爆薬を添えて~
「伝説の錬金術師であるグリムのレベル上げを実践したい!」とモノたちにお願いして外に出たはいいが、サヤはすぐに後悔した。
ワクワクしながら、モンスターが生息するというエリアに足を運んだサヤに、衝撃の事実がもたらされる。
『グリムは「錬金術は爆発だー」って言いながらボムクランチ(爆弾)をモンスターに投げつけてレベル上げしてた』
「………………………はい?」
『普通ならアイテム投げつけてダメージ与えても経験値は入らないけど、自作アイテムなら経験値入るんだよね~』
『破壊力重視のボムクランチを大量に作っては、高ランクモンスターの巣穴に一斉に投げつけてレベル上げしてたから』
「……………」
『実を云うと剣とか魔法で戦うのってボクたちあんまり見たことないんだよね』
「……………」
……どうしよう。
まったく参考にならないどころか、どこからツッコんでいいのか分からない。
たしかに剣士なら剣を使って、魔法使いなら魔法を使ってレベル上げをするのは道理だ。
だからって錬金術師が爆弾使ってレベル上げって……。
それがこの世界の錬金術師の普通のレベル上げなんだろうか。
―― 錬金術師、超怖い。
現代社会ならお近づきになりたくない人種ナンバーワンだ。
わたしはヤバイ世界(職業:錬金術師)に足を踏み入れてしまったのでは……?
錬金術師歴3日にしてサヤは恐ろしくなった。同業者にはなるべく会わないことを願いたい。
「というより、それなら此処に来る前にそのボムクランチっていうのを作っておかないと詰むのでは…?」
『もう~何言ってるの、サヤってば。たくさん作ったじゃない』
『そうだよ~僕らが何の準備もさせずにサヤを危険なところへなんて行かせるわけないでしょ~』
「えっ? 爆弾作った覚えなんて全くないんですけど!?」
サヤにはそんな危険物を作らされた覚えは全くない。
しいて言えば、板チョコのような……。
「まさか……これって…?」
小さな紙に包まれた板チョコのような何かを見つめる。
某メーカーの12個だからダースのような長方形の一口サイズごとに区切りがある形状で、それぞれに錬金紋章がついている。
何も知らなかったら、高級チョコにも見える外観だ。
見た目だけは……。
思えば、何か鉱石っぽいものを削って大量に混ぜ込んでいた。
『そうそう、ソレソレ!』
『ぜんっぜん、爆弾に見えないでしょ~』
『ソコはグリムがこだわったんだよね。王城に入る時は流石に持ち物検査とかあるからさ~。護身用に持ってるだけなのに取られちゃうってんで』
『王城の検査にも引っかからない爆弾ができた時にはみんなで喜んだよね。苦労が実ったって!』
『なかなか上手くいかなくて研究中によくボヤを起こしてたもんね~。懐かしいな~』
『威力もこだわった甲斐あって、ワイバーンも倒せる火力があるんだよ!』
「…………」
そんな危険なものを作らされていたのか、私は。
しかも、それって私のレベルより明らかに高いアイテムじゃん。失敗の可能性もあったのに、なんでそんなお気楽なんだ、このモノ達は。
冒険の必需品だと今朝方作らされたアイテムが、かなりの危険物だと知りサヤは戦慄した。
そして開発したグリムに、努力する方向性が違うと誰もツッコまなかったんだろうか。
……ツッコまなかっただろうな。
みんなモノだし。軌道修正されない、ぼっち天才の悲しみ。
サヤは少しだけグリムに同情と、「ちょっとヤバイ人」認定をし始める。
『さっそく巣穴に投げ込んで、一発ボカンしようよ!』
軽いノリでワイバーンを一掃しようとするモノたちが、一番こわいかもしんない。
そんなことを思いながら、異世界生活4日目にしてS級モンスター相手にレベル上げをしていくサヤであった。