5.アイテムランクとレベル
生活するにはお金が必要だ。
栄養剤だけで生きていくという固い決意があれば、お金がなくても生きていけるが、サヤには無理だった。
あの味を毎日耐え続けるだけの精神力がサヤにはなかった。
……かの伝説の錬金術師の精神力は伊達じゃなかった。
栄養剤だけで暮らしていくなど彼は仙人にも等しい精神力を持った僧侶のような御仁だろう。
あの栄養剤で悟りを開いたと言われたらサヤは即座に納得できる。
あいにくサヤにはそんな修行僧みたいな生活は送れない。
美味しいご飯が食べれる毎日、プライスレス。
サヤは錬金術でアイテムを作り、それでお金を稼ぐことを決めた。
せめて食材を買えるだけのお金がほしいし、生活用品だってもっと必要だ。
『それじゃあ、まずは傷薬とポーションからだね!』
『どこで売ってもいらないって言われることがないから』
『失敗も少ないしね~』
「ところで、傷薬とポーションって何が違うの?」
ゲーマーであるサヤには、ポーション=回復薬のイメージがあるが、同じ回復アイテムである傷薬と厳密に何が違うのかよく分からなかった。
『用途が違う、かな』
『傷薬は主に外傷に効用を発揮して、ポーションは外傷はもちろん、打ち身とか内傷にも効いたりするし、ものによっては毒にも有効だよ』
「それじゃあ、傷薬よりもポーションの方が上な感じなの?」
『そうでもないよ~』
『傷薬は外傷に特化しているから、適切に処置をすればポーションを飲んだり傷にぶっかけるよりも、傷薬を塗ったほうが効用ある場合もあるよ』
なるほど。外傷なら傷薬、それ以外ならポーションと覚えておこう。
『サヤの錬金レベルは……まだ3だから、下級ポーションから始めよっか』
『下級ポーションならアイテムレベル自体が低いから、低レベルでも成功率が高いんだよ』
「アイテムレベル…?」
アイテムレベル──そのアイテムを作るのに必要なレベルの基準というのがあるらしい。
アイテムの作成難易度に比例して高くなっていき、アイテムごとにそのレベルは異なる。
アイテムレベルに到達していなくても、きちんと手順を踏めば作れないこともないが、自分のレベルとアイテムレベルの開きがあまりに大きいと、失敗率が高くなり、成功してもアイテムランクが低くなってしまうことが多いらしい。
「それじゃあ、自分のレベルに適正なアイテムレベルのものを作ればいいのね」
『そうそう、じゃんじゃか作ってガンバロー!』
『ボク達がサポートするから心配しないで~』
『材料なら庭からいくらでも取れるから失敗しても大丈夫っ!』
『それじゃあ、早速ポーションからね!』
※※※
栄養剤のようにモノたちに教わりながら、30分ほどでポーションを完成させたサヤ。
しかし、ここで疑問が生まれる。
「これってどうやってアイテムを判別するの?」
出来上がった瓶の形や色は栄養剤とは違う。
だが、サヤはコレがポーションであるとは自身が作ったから分かるが、そうでなかったら分からないに違いない。
それとも、この世界の人間には常識的に分かるものなのだろうか。
『んん? ああ、アイテムの種類やランクは【鑑定】スキルがあれば判るよ』
「【鑑定】スキル?」
アイテムランク──それはアイテムの品質に置き換えられる。
ランクが高ければ高いほど、そのアイテムの品質は高い。品質はそのままアイテムの効用や効果と直結する。
つまり同じアイテムでもランクが高い方が高値で売り買いされる。
そのアイテムの種類とランクが分かる【鑑定】スキルは【オブジェクトリーディング】と同じく、職業スキルではなく先天性のスキルだ。
才能のあるものしか使えないスキルなので、サヤには【鑑定】スキルを取得することは不可能である。
だが、たとえ【鑑定】スキルがなくても、【鑑定】できる魔道具は存在する。
グリムが使っていた【鑑定】アイテムのモノを使用して、早速鑑定してみる。
『鑑定は……Cランクだね』
「Cランクかぁ……」
Cランクはアイテムとして流通、商取引ができる最低ランクだ。
Dランク以下は売れないことはないが、正規の基準価格より大きく下がる。アイテムとして多少効果はあってもどこかに欠陥があったり粗悪品になりかねないからだ。
たとえば、傷薬なら切り傷には効くが、擦り傷には効かないとか。なんか微妙な欠陥があることがあるらしい。たしかにそんなものなら正規の値段で取引されないのも頷ける。
サヤが作れたのはCランクなので、この世界での生活費を稼ぐという意味ではギリギリ及第点だが、初めてならこんなものだろう。むしろ失敗しなかっただけ良かったと思っておこう。
だが、これで売りに行っても大した値にはならないだろう、とモノ達が言う。
そして売り先の商業ギルドなどは、やはり最初から高ランクのアイテムを売却してくる錬金術師の方が、丁重に扱ってくれるらしい。
ならもう少し高ランクアイテムが作れるようになってからまとめて売りに行った方が効率も心象もいい。
今後を考えれば………たとえ、たとえ栄養剤生活が長引いてしまおうとも、高ランクアイテムも一緒に売却して売り幅を上げたい。
だが、悠長にしていると数か月は栄養剤生活である。
…………とてもではないが、サヤには耐えられない。
心の危機である。精神力との戦いだ。
『それならレベル上げしちゃえば?』
まずはどんなゲームでもレベル上げ。
元の世界でそれなりにゲームを嗜んでいたサヤにとっては常識だ。
錬金術師のレベル上げはともかくアイテムを作ること…っと思ったサヤだが、どうやらモンスターを倒しても錬金術師のレベルは上がるものらしい。
錬金術師は戦闘補助職といって、戦闘向きの職業ではない。
それどころか、ほぼ出来ないといっても過言ではない。
だから通常ならやらない手法だが、グリムは好んでその方法でレベルを上げていたらしい。
邪道でも世紀の大錬金術師がしていたのなら確かな方法なのだろう。
サヤは一にも二にもなく頷いてその手段を取った。
──この後、彼のレベル上げ法を聞いて、サヤが持っていたグリムの印象はガラリと変わる。