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4.初めての調合

オブジェクトリーディングスキルを意識しながら発動すると、

頭のなかで自動再生される映画──いやVRを見ているような感覚だ。


その中心に映るのは、輝くような蜂蜜色の髪と同じ色の瞳に、彫の深い顔立ち。

年は40代あたりだろうか。年を重ねた魅力も持ち合わせた怜悧な美貌は、まるで海外の映画俳優のようだ。


──どうやら彼が、この家の元の持ち主にして伝説の錬金術師グリム。


亡くなったのは250歳を過ぎたころと聞いていたので、ヨボヨボのおじいちゃんを想像していたのに、イメージと違い、かなり若々しさがある。

そして一見する限り、モノたちが含みのある物言いをするような感じではない。謎が少し深まった。


その彼がサヤの目の前にある錬金術の作業台──錬金台の前に立っている。

“モノ”に宿った記憶を映し出すホログラム映像のような感じなので、実際にはいないのだが、リアルに彼の動作がよく見える。


ただ薬草をすり潰したり混ぜたりの作業であるのに、その流れるような慣れた動作は美しい手際だ。

時折、手元が光るのは錬金スキルを使っているようだ。


数十分も経たないうちに、彼の手元には栄養剤ができあがる。

そこでスッと彼の映像は消えていった。



『どう? とりあえず手順は分かったよね?』

『手順が分かったら、実践あるのみ! だよ』

『案ずるより産むが易しってね。基本の基本だからボク達がサポートするよ』


「うん、わかった。やってみる」


さっきの映像の彼と同じように錬金台の前に立つ。

まずは黄色い実がなっている月空草をすり潰す、だったと思う。

一度見ただけじゃ、ちょっと不安だ。


(もう一度……彼の手元だけ見れないかな)


そう思った瞬間、サヤの視界──手元の上ぐらいに、小さなテレビ画面のようなものが映し出され、先ほどのグリムの作業している手元だけが動画のように見えた。


「えっ!? 何コレ……これもオブジェクトリーディングのスキルなの…?」


『ん? ああ、別にスキルで見れるボク達の記憶はスキル持ち本人の好きな形で見れるものなんだよ』

『そうそう、こんな感じで見たいな~って思えば大体そんな感じに見えるらしいよ』


「すご……便利ね」


何はともあれ、これで作り方の手順に問題はなくなった。

早速、同じ作業を繰り返すように、彼の手元にある──こちらの錬金台にもおいてある薬草を一房もってすり鉢で潰し始める。



「あれ、すり鉢が温かい?」


『この薬草は温めなからすり潰さないと、効用が充分発揮されないんだ』

『普通は錬金術師本人が魔力を調節しながら作業するけど、サヤはまだ加減分からないだろうからボクが魔力吸い取って調節してるよ!』


「なるほど」


たしかに映像で見ただけでは、すり鉢が温かくなっているなんて分からなかった。

これから栄養剤以外も作っていくことになるのに、モノ達のサポートは欠かせないだろう。

それでもどのぐらいの魔力を込めればいいのか、サヤは把握するため、その吸い取られていく魔力に意識を集中させる。

魔力なんてよく分からなかったが、釜を継承してからは不思議とそういったものが感覚的に理解できるようになった。モノ達がいうには魔無しが魔力を持つと、生まれながらに魔力を持っている者よりもそういった感覚が鋭くなるらしい。



『コレ草は錬金の「ドライ」スキルで乾燥させて』

『ストップ! まだ乾燥が足りないように見えるけど、サヤはグリムよりもまだスキルレベルが低いから今スキルを止めて。しばらくすると余波の熱で丁度良いぐらいになるよ』

『もっと力を入れて! ぐっと押し込むように潰さないと上手く葉の汁気が飛ばないからね』





グリムの動画を見てモノ達の指導を聞きながら、ついに栄養剤は完成した。



薬草を刻んだりすり潰したり煮込んだりしただけで、ほぼ料理と変わらない手順だったが初の錬金術アイテムである。


サヤにはなんだか輝いてみえた。

ぐう~、とちょうど空腹を主張するお腹も限界に近かったのでさっそく、飲んでみることに。



──だが、ビンを傾け、あおったところで……サヤの身体はぴたりと止まった。


不幸にも止まってしまったので、この世界でも存在する重力の法則により、栄養剤はサヤの口へ次々と流れてくる。

サヤはそれをなんとか……なんとか全て飲み干した。



『どう? どう? すごいでしょ。すごいでしょ!』

『これ1本だけで一日分の栄養がすべて取れるんだよ! しかも一回飲んだだけでその日は空腹なんて感じないんだよ!』

『不味いのが普通の栄養剤でもグリムのレシピは不味くないって評判だったんだよ~』


「…………………」


片手で口を押えながら、サヤはしばらくの間、モノ達に返答することができなかった。錬金台に手をついて、喉元をどろりと抜ける感覚が過ぎ去るのを、ただひたすらに待った。


たった数秒が、こんなにも長く感じるのは初めてだった。


それが収まってきたところで、「けほっ」と一つ咳をしてなんとかコメントを絞り出す。



「………………うん、すごい。……すごいね」


語彙力が死んでいた。もうそれ以外にコメントが出来なかったのだ。


さすがは伝説の錬金術師が愛用した栄養剤。

栄養剤というのはものすごく不味いのが常識と聞いていたが、グリムレシピはそのマズさを見事更地にしてみせている。


何というか……口の中でエグ味と臭みと誤魔化すための甘みが、互いに殺し合う蟲毒を繰り広げた末に味がなくなったような余韻だけが鼻に響く感覚がした。

味の説明をしている自分でも訳がわからない。



「………うぅっ、まだ余韻が鼻に、……鼻になんかくる。元の不味さを味の暴力で更地にする圧倒的な何かが襲って……。飲み続けたら悟りヒラけそう……」


ちなみにこんな味でも信じられないことに効用はちゃんと発揮されていた。本当に一日経っても空腹感もなく、身体も軽くて疲労を感じなかったが……。



──サヤは早急になんとかせねばと、この日、決意を新たにした。


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