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3.伝説の錬金術師の庭


グリムの家──今は私の住んでいる家の裏手には庭、というか薬草園のようなものがある。


そこには錬金術に使う、世界各地のさまざまな薬草が取り揃えられている。グリムがこの世を去った今も変わらず、専用の魔道具たちが手入れと管理をし続けているので、グリムが使用していた当時と同じく綺麗に保たれていた。



「すごい……綺麗。こんなの植物園でも見たことない」


一面に広がる不思議な形の草や、色とりどりの花に、可笑しな実のなる木。

こぼれ日のなかで、まさしく植物が輝いているようにその生命力を主張している。


サヤが感嘆の溜息をこぼすと、来訪に気づいた“モノ”──庭の魔道具たちが声をかけてきた。



『新しい主さまだね! こんにちは』

『こんにちは~サヤ。庭にも来てくれて嬉しいわ~』

『ねぇねぇ、どんなお花が好き? どんなものでも育てるから、何でも言ってね』

『ちょっと~サヤ様はこれからグリム様と同じ錬金術師として大成なさるのよ。もっと実用的なものを育てないと!』

『サヤ様、マンドラゴラなんていかがです? 活きの良い悲鳴をあげるのを育ててみせますわ!』

『まずは案内でしょ! サヤ様、此処には愛らしい貴重な花からちょっぴりデンジャーな植物まで各種取り揃えておりますわ』


『さあさあ、もっとなかへどうぞ』


「ありがとう。案内してくれて助かるわ。

 ……特に悲鳴をあげるデンジャーなものは先に教えて、ね……?」


庭にいるモノ達もなかなかに愉快な……個性的だ。

なんだかきもち、室内のモノよりも忠誠心というか、家の主に対しての敬愛を持っているように感じる。


とりあえず、歓迎されているようでサヤはほっとする。


いきなり来たサヤのことを、この家のモノ達は本当に良くしてくれる。

不安になりそうでも、こうやってガヤガヤ明るく声をかけられると元気がわいてくるようだ。



魔道具たちに案内してもらった薬草園は、一日かけても全て把握しきれるとは思えない広さと豊かさだった。

今日は庭の魔道具への挨拶と、もう一つの目的を達成する為、庭の散策はそこそこにサヤは探し物をしていることを魔道具たちに伝えた。



「えっと、月空草とコレ草、あとは──」


数種類の薬草の名を告げると、すぐに魔道具たちは生えている場所まで案内してくれたうえに採取の方法まで教えてくれた。

あまり植物の栽培に詳しくないサヤは普通に摘めばよいと思っていたが、それぞれの薬草ごとに摘み方のコツがあるらしい。

それをしないと薬草の品質に関わるので注意が必要だと、摘み方を丁寧に説明してくれた魔道具たちに感謝しつつ、サヤは工房へと戻った。



※※※



グリムの家には生活スペースのほかに、錬金術を行使する工房のスペースが大きくとられていた。


中心にある錬金釜をはじめとした錬金術に必要な道具のすべてが揃っている。

サヤは先ほど摘み取った薬草を錬金台──錬金術の作業台のうえに並べる。


「よしっ、これで材料は全部そろっているのよね?」


『うん、バッチリだよ』

『品質も問題ないみたい』

『ボク達も準備万端だよ! 早く使ってよ、久しぶりで嬉しいな~』



サヤが錬金釜で作成を試みる初アイテムの名は


【アイテム名:栄養剤】

効能:生物が一日に必要とする栄養をすべて賄い、疲労回復や健康保持に役立つ。


──そう、栄養剤である。


この世界での栄養剤の効用をご覧いただいてわかるとおり、栄養剤という名の当面の食料である。


もうすでに現代から持ってきた菓子類も尽きたのだ。


……成功できなければ死活問題だ。


初めて錬金術で作成するのが栄養剤というのはいささか夢がないが、背に腹は代えられないのである。


モノ達に必要だと言われた薬草類をとりあえず錬金台に並べてみても、どうすればいいのかサヤ自身サッパリ分からない。

……と、思ったサヤだったが、錬金術式(レシピ)を継承した影響か、頭の中に作り方(レシピ)が浮かび上がる。


だが、それはいわば文字の羅列に等しい。

例えるなら写真の全くない料理本に似ている。はっきり言って初心者向けではない。

見たことも食べたこともない料理を、見知らぬ材料だけで作り上げるのと一緒だ。無謀である。


一般的に錬金術式(レシピ)を受け継いでも上手くいかないことがあるのは、このあたりにも原因がある。



「えっと、どれからどうすればいいのか分かる……?」


ひと通りレシピを確認したサヤだったが、諦めてモノたちに問いかけるとすぐに返答が返ってくる。



『まずは一番右にある月空草の根を……』

『待って! まずはグリムが作業していたところを見てもらえばいいんじゃない? すり潰し方にもコツがあるもの』


「えっ? 作業しているところってグリムさんはもう……あっ、もしかしてDVD的なものがあるとか?」


異世界にも映像を記録できるDVDレコーダーみたいな魔道具でもあるのだろうか。


庭の魔道具を見ても思ったが、魔道具はかなりハイテクそうだ。

自動で全ての植物の世話をできるなんて現代よりも進んでいるように思う。


といっても、こちらでの動力は電気ではなく魔力らしい。

庭の魔道具は、各所に配置されている魔石から自然発生する魔力で動力を補っている。現代でいうソーラー電気みたいな感じだ。

数百年も問題なく発動しているところを見ると永久機関のように思える。



『でーぶいでぇー……? なあにソレ? アイテムなの?』


「記録した映像をみる機械、……こちらで言う魔道具みたいなものかな」


『うう~ん、聞いたことないな~。ボクらが言っているのはサヤのオブジェクトリーディングのスキルの一種だよ』


「オブジェクトリーディングの?」



サヤが異世界に来た際に宿ったスキル──オブジェクトリーディング。

こうして本来意思疎通ができるはずのない“モノ”と対話ができる力。

どうやらその力以外にも、彼らに宿った記憶──正確にいうなら彼らが体験・見聞きした記録が見れるスキルでもあるようだ。



『サヤならボク達に対してオブジェクトリーディングを使えば、グリムが調合しているところを見れるよ』

『早速見てみてよ! グリムは栄養剤をそれこそ毎日作ってたからバッチリ記憶がこびりついてるよ』


モノ達に促されて、サヤは早速オブジェクトリーディングを発動した。


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