幕間:継承の副作用?
釜の継承を無事終えたあと、サヤがふと鏡を覗くと異変はすでに起こっていた。
「………んっんんっ?」
鏡に映るのはたしかに自分の顔だ。
自分の顔のはずなのに、大きな違和感を覚える。
鏡に近づいて、観察するとすぐにその違和感の正体がわかった。
「か、髪の色が変わってる!? それになんだか顔が……濃い?」
髪と目の色がハチミツ色に変化していた。
それに顔立ちも自分の面影はたしかにあるのに、少し彫が深くなったような、まるで自分の顔が外国人にシフトチェンジしたような不思議な感じがする。
『あ、それ? グリムの魔力を継承したから多少なりとも影響してるだけだよ』
『普通ならちょっと髪色が違うかな、程度だけどサヤは魔無しだから影響強いみたいだね~』
「いや、それ聞いてないんですけど! え、待って。それって私、グリムさんに似たってこと?」
『………………』
『………………』
『………………』
『………………』
一瞬にして、騒がしかった室内が静まり返る。
この家に来て、こんなに静かなのは初めてかもしれない。
「……ねえ、なんで急に黙るの?」
『いや、だって、ねえ?』
『グリムは、さ』
『なんていうか……』
『……知らない方が、いいと思う』
様々な……何かをのみ込むように絞り出した声だった。
ものすごく気になる。一体全体なんなんだ。
何か微妙な空気が流れはじめ、サヤはそれ以上聞けなかった。
追及をやめ、溜息をついて再度鏡を見つめる。
本当に、不思議な感じだ。
まじまじと鏡を見つめ続けるサヤに、フォローなのかモノたちが沈黙を破り、余計な口を開いてしまった。
『大丈夫だよ、サヤ元気出して!』
『大丈夫、大丈夫。その顔なら「渡り人」だってこともバレないからちょうどいいじゃない~』
『サヤの顔って、ちょっと独特だったもんね!』
『そうそう、なんか平たい感じ!』
『うん、全体的に顔が平たい!』
「か、顔が、平たい……」
明け透けに言いたい放題なモノたちに、サヤの頬がちょっぴり引き攣った。
元の平均的な日本人顔に対してひどい物言いである。
まるでどこぞの漫画に出てくる、お風呂大好きタイムトリッパーが言ったようなセリフだ。
まあ、街中で「なんだ、あの顔が平たい女は!?」と叫ばれる心配がなくなったとサヤは自分を納得させた。
……納得させたのである。