7話目
お久し振りです、気が向いたので書きました。半年間やる気が出なかったんだ、申し訳ない。
加藤襲撃事件から数時間後、つまりその日の放課後。
帰り前のHRが終わり次第さっさと退室していくクラスメイト達。
いつもなら一定数の生徒は残って駄弁るなり自習をするなりいるものだが、今日に限って皆出払っていた。
因みに俺はさっさと帰る派だ、やりたいことも無いし。
部活にも入らずに呑気に帰宅部ライフを満喫している。
まあそんなことはどうでもいい。
それよりもこのスマホの画面だ。
昼休みの爆死から気持ちを切り替えるべく追い10連を回してみたが、まあ物の見事に爆死。
さっきよりは少しはいいのが出るのでは?と根拠の無い期待を抱いていた俺だったが、ガチャの女神はそんなに簡単に微笑んでくれたりはしなかった。
転生してからソシャゲに嵌ったんだけどほんと沼だなこれ。やばい。
「月燈~帰ろうぜー」
そんな俺の心中を知らない凌牙はいつもの調子でいそいそと近付いてきた。
取り敢えず腕に唐突なチョップをかましてやるか。痛くないように軽めに。ぺしっと。
「な、何すんだよ」
「必殺唐突八つ当たりアタック」
「ひっでえ!!?」
「爆死の女神に愛された俺のがひでえ」
「横暴だあ⋯!」
「すまんすまん」
「はあ⋯まあびっくりしただけだしいいけどさ」
「ん、あんがと」
凌牙との軽いじゃれ合いを堪能して多少なりとも気分が紛れたのでそのまま帰ろうとしたのだが。
「あ、上着」
加藤に奪われていたブレザーのことを思い出した。そういや回収してなかったわ。
「⋯⋯くそだる」
またあのひっつき虫に会わなきゃならんのかとうんざりした顔で不満を漏らす。
「俺が代わりに取ってこよっか??」
「あーうん、めんどいし頼むわ。てか俺あいつのクラスも知らんし」
「りょーかい!ちょっと待ってろよ~」
スチャッと子気味よく敬礼を決めて、凌牙は素早く教室を出た。なんかまるであれだな。
ボールやらフリスビーやらを投げられたワンコだな。
さて、忠犬の帰還を待つ間に石でも溜めて⋯いやもっかい10連を⋯いやいや次のイベを待つべきか、ううむ⋯⋯。
「まだ残ってるの?」
「うおっ!?」
サッと後ろを振り返ると、ふわふわとした栗色の髪の少年が立っていた。
彼の名前は水瀬瑠璃。
うさ耳を生やした可愛い系獣人にしてファンビー攻略キャラの一人だ。
俺や凌牙と同じ一年生で、クラスメイトでもある。
その可愛らしい外見と人当たりの良さで、クラスメイトからは「瑠璃ちゃん」の相性で親しまれているマスコット的な存在だ。
前世の姉も妹もこういうきゅるんとしたキャラに興味はなかったらしく、俺も取り敢えず「マスコット的なアレ」としか情報を知らない。
というか近づきがたいオーラ纏った俺によく声掛けたなこいつ。
※月燈の周りに人がいないのは半分ちょっとが凌牙の裏工作のせいです。
「えっと、ごめんね?驚かせるつもりはなくて⋯忘れ物取りに来たら珍しく一人でいたからちょっと気になっちゃって」
「あー⋯確かにそうだな」
いっつもひっつき虫筆頭こと幼馴染みが横にいるもんn⋯⋯
「あああア"ア"ア"ア"!!???」
「!?」
突然の背後からの奇襲にうっかり10連ボタンを押してしまったアアアア⋯ッッ!!
「え、えと⋯??」
「おっすまん、ちょっと動揺して。悪かっ⋯」
スマホの画面が虹色に輝く。
この演出は⋯!!?
「URキタ━(゜∀゜)━!!!」
「!!???」
ハッ、突然俺が大声を上げたもんだから瑠璃ちゃんが怯えてしまっている。
本人には悪いが涙目になってプルプルする様はとても可愛らしい。
こういう女の子っていいよな、瑠璃ちゃん男だけど。
俺は怯える瑠璃ちゃんの手を取る。
びくぶると震える様は正に肉食獣に睨まれた草食動物。そんな彼に真剣な眼差しで、気持ちを込めてこう言った。
「どうも有難う、ガチャの女神」
「ふぇ⋯??」
それから凌牙が戻ってくるまでの十数分間、俺は困惑する瑠璃ちゃんを女神として静かに崇め讃え続けていたのだった。
凌牙には後でしこたま怒られた。ごめん。
順調にガチャ中毒者の道を歩む月燈、わあいこれじゃまるで筆者だあ⋯(遠い目)