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6話目


「つーきーひくん!!」



初めて顔を合わせ、顎クイの洗礼を受けたあの日から、昼休みになると必ずと言っていいほど加藤が絡みにくるようになった。


毎度毎度楽しそうな顔して一方的に喋っては帰っていくので、煩いことを除けば別に実害はない。



始めは凌河のことを狙ってんじゃないかと思ってたけど、どっちかというと俺目当てで来てるみたいだ。うん、いい迷惑だな。


だけど最近はそう身構える必要もないんじゃないか?と思うようになってきた。

主人公に絡まれるとか不安要素しかないって考えは確かにある。今は平気でもそのうち実害が出るかもしれないと考えなかったわけじゃない。



けどさあ、やっぱあれだよ。



相手がどんだけこっちを好いていようが、こっちがそれになびかなきゃいいだけの話なのだ。




確かにここはBLゲームの世界だろう。それはもう疑いようのない事実だって分かりきってる。


だけど「ゲームの世界」であって「現実」なんだよな。

もっと言うと「ゲームの世界を元にしただけの現実」なんじゃないかと俺は踏んでる。


転生ものとかでありがちな「抑止力」みたいなものを警戒したこともあったんだけど、意外と平気なんだよなあ。




「なあ聞いてるー?月燈くん」


現にこうして凌河がいない時を見計らって会いに来た加藤が、屋上で俺に壁ドンするという謎イベントに遭遇している真っ只中だというのに、当事者の俺自身は現在進行形で冷静にスマホゲーを堪能していたりする。


「なあ、俺のこと…ちゃんと見て?」


5cm近く背の高い加藤が、俺の猫耳に甘ったるく囁きかける。

耳こそばゆいし息が熱くて鬱陶しい。


ピクピクと動く俺の耳に気を良くしたのか、今度は甘噛みしてきやがった。

おい舐めるな、口ん中毛まみれになったところで知らんからな。



ピロン、とスマホに連絡が来た。凌河からだ。


「(今は屋上、加藤がくっついてる…っと)」


現状をテキトーに報告して、再度ゲームを始める。

……これガチャ渋いな、ほんとにSSR当たるのか?無課金至上主義の俺にはキツい気がするぞ。



「……月燈…も、待てないかも」


より一層熱っぽさの増した声で加藤が囁く。

うわあ…すげえ声出てんぞお前……って硬いものを押し付けるな。発情期かよ。


因みに余談だけど、この世界の人間は獣としての本能が強いから実際に発情期ってのはある。性欲が強いほど多いらしい。


俺は半年にいっぺん。あまりにも無欲過ぎて心配されそうなので誰にも言ったことがない。




と、そこまでぼんやり考えてると加藤がとうとうブレザーにしがみついてきたので、上着を脱いで回避を試みてみる。

………駄目だ、今度はカッターシャツに縋られた。


「……あー、取り敢えずちょっと落ち着いてくれます?」


そう言って加藤の背中に手を回し、ぽんぽんと背中を叩いてあやしてみることにした。

凌河はこれが大のお気に入りで、小さい頃から定期的にやってやってる。


あいつはホモじゃないとは思うが、男のハグで癒されるってだいぶだと思うんだよな。

まあ別にいいけど。



「月燈……月燈」


俺の名前を呼びながら、加藤は首元に顔を埋めだす。

それからそのままずるずると俺ごと座り込む形になった。


んー、流石にそろそろ真面目に止めないとまずいだろうか?

興味が無さすぎて殆ど口を出さないだけであって、別に襲われたいわけじゃないし……ていうか掘られるのが嫌。


あ、首筋舐められた。




「なあ、せんぱ「月燈!!!」」


ガタンと扉から音がして、凌河が飛び出してきた。

それから俺達を視認して硬直する。

あー、また石像モードですか?


「……凌河、固まってないでこいつ剥がしてくんね?」

「っっおお、任せろ月燈!!!」


俺の声で再起動した凌河は、先輩を引っぺがして吹っ飛ばした。

吹っ飛ばされた。



「あああああんたは何やってんすか!!月燈もちょっとは抵抗しろ!!!!」

「その分の体力やら労力やらが無駄の極み」

「俺の労力も省みて!!!!つか今回は本っ気で心配したんだぞこの馬鹿野郎が……っっ!!」


相変わらずぎゃんぎゃんと、いや何でかいつも以上によく吼えるので、優しい俺は重い腰を上げて幼馴染みを抱きしめてやった。背中のぽんぽんも忘れない。


「さんきゅ、凌河」

「!!!っっ、おおう…」


一瞬で大人しくなった凌河の足に、軽く尻尾を絡ませてやる。ちょっとしたサービスだ。俺なりの労いアピールのつもり。



「つ、つき」

「ほい終わり」


そう言ってパッと手を離すと顔を真っ赤にした凌河がぽかんとした顔でこっちを見ていた。

イケメンのアホ面の間抜けさ加減ってやばいと思う。


ふと凌河の斜め後ろを見ると、俺の上着を握りしめてうずくまる加藤の姿が。皺になるんで勘弁してください。




キーンコーンカーンコーン。



予鈴が鳴った。


「んじゃ俺行くわ、お前も遅れんなよ」


ブレザーは後で返してもらいに行くことにして、凌河に一言声をかけてから真面目な俺は授業に遅れないようさっさと教室に戻った。

次の授業は確か自習だったけど。




さあて、ガチャ石でも集め直すか。


月燈くんは全て無自覚でやってます。一切何も考えておりません٩( ᐛ )و

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