5話目
凌河視点です。
俺の名前は平澤凌河、狼属。
好物はカレー、嫌いなものはピーマン。
大切なものは─────幼馴染み。
俺と月燈が出会ったのは小2の頃、月燈が俺の通っていた小学校に転校してきた時だった。
出会った最初は必要以上に喋ろうとしない、静かなやつってイメージだった。
周りの奴らが声をかけても興味無さそうだったし、「心の壁」みたいなものを作ってるようにも感じた。
クラスの女子たちはクールだなんだってキャーキャー言ってたけど、当の本人は全然気にしてなかったな。
俺もいつもすまし顔で冷静な月燈を見てると、何となく大人っぽい奴だなと感じたのを覚えてる。
転校生ってこともあって初めはいろんな奴らが月燈の周りに集まってたけど、あんまりにも相手にされないからって次第に近づく奴らもいなくなった。
そんな中、転校早々クラスで孤立しかけた月燈のことを心配した先生に、当時から友達の多かった俺はお世話係に選ばれた。
転校生のお世話係という大仕事を任された俺は、テンション上がって気合十二分以上で挑んだ。クラスメイト同様に月燈と仲良くなりたくて物凄く張り切った。
お陰様ではじめは物凄く嫌がられました。
「いちいちかまうな」とか「ひとりにしてくれ」とか他にもなんか沢山言われた。それでも俺は必死に月燈に構い続けた。
ある日いつも以上に不機嫌そうな顔で、
「なんでそんなに かまってくるの」って聞かれた。
だから俺は胸を張って、
「おまえがひとりだからだ!」
と言ってやった。
その頃の俺には、お世話係としての責任とか友達になりたいとか、そういう考えも確かにあった。だけどそれ以上に「矢ヶ崎月燈」という人間が知りたいと思うようになってた。
「仲良くなること」と「相手を知ること」は似てるようで全然違う。
兎に角俺は、月燈のことが沢山知りたかったんだ。
何より、月燈が1人でいる時に少しだけ寂しそうな顔をするのが、なんでか嫌で嫌でたまらなかった。
自信満々で答えた俺に、月燈はいつもは眠そうな黄金の猫目を見開いて、面白いくらいの間抜け顔になった。初めて見る表情だった。
それからじとっとした変な目でじっとこっちを見つめてきたから、負けじと俺もじっと見てやった。
その顔も初めて見たから、心の中ではちょっと、いやかなりドキドキしてた。「俺の知らない月燈」に目が離せなかった。
「…ふふっ」
「!?…つきひ、わらった!!」
しばらく見つめあった後、少しだけど確かに笑った月燈を見て、最初はびっくりしたけど俺は物凄く嬉しくなった。自分でも驚く程に嬉しかったんだ。
それから俺達は一緒にいることが多くなった。
月燈が嫌がるから一緒にいる時はいつも1人で、あいつのやることにはあんまり口出ししないように気をつける。
今なら分かるけど、月燈は群れるのが苦手なだけで、人見知りとかは全くない。必要以上に話したがらないし話が弾まないだけで、別に他人が嫌いなわけでもないらしい。
ていうか必要以上に構われるのを好まない、猫科の豹属に構い続けるとか俺は割とアホだったんじゃないかと思う。
まあそのお陰で仲良くなれたんだけどな。昔の俺、グッジョブ。
「……俺が作ってんじゃなくて、あいつらの方がこっちに壁作ってんだよ」
友達になって暫くしてから月燈が俺に言った言葉だ。
月燈からしたらいちいち話しかけてくる奴らが煩わしくて、だけど別に話すことは嫌じゃなくて。
ただ別に友達を率先して作ろうとは思わなかったし、寧ろ「友達になろうよ!」オーラがしんどかっただけで。それが月燈にとっての「心の壁」だったらしい。
俺にはよくわからないけど、マイペースな月燈らしい言い分だと思う。
「……お前みたいなの見てたら変に身構えるのも馬鹿らしくなったわ」
「ちょ!「みたいな」って何だ「みたいな」って!!」
「……そういうとこかなあ。ていうか壁作るのはやめたのに…相変わらず話せる相手、お前しかいないんだよなあ俺……。どうも未だに話しかけづらい系のクールキャラ、みたいなので通ってるっぽいし…何でなんだ……」
それはな月燈、俺が裏で手回ししてるからだぞ。
月燈の毒舌なとことか、面白いくらいにマイペースなとことか、実は大の甘党なとことか。
こいつの魅力を知ってるのは、最初にこいつの魅力に気付いた俺だけの特権。俺だけ知ってさえいれ問題は無い。
たまにこうして相談されるけど、こればっかりは譲れないので許して欲しいんだ。
……ちょっと寂しそうな顔で言ってても駄目だから。
お前は俺だけを見てればいい。
……だからさ先輩、頼むから俺の月燈に興味持つのだけは勘弁してくれよ……!!?
無自覚ヤンデレ(?)
幼馴染みくんは独占欲の強い子です。