3話目
俺達が永門学園へ入学してから、早一ヶ月が過ぎた。
高校生活にも慣れ(元々死ぬ前も高校生だったけど)、新たな友人もでき────てはいない。
入学式の時から…いや、入学前から相変わらず俺の横には幼馴染みである凌河が居座っている。
暇さえあればくっついて周って、やれ昼飯だやれ一緒に帰ろうだと逐一一緒にいたがるのだ。
今は昼休みの時間。俺は中庭にある花壇の一角に腰掛け昼飯タイムとしゃれこんでいる。
隣にはやっぱり当然とばかりに凌河が鎮座していて、学生の昼には定番の購買激戦を勝ち抜いて手にしたらしいカレーパンを貪っている。
そんな光景を見て思わずため息をもらす。
俺は元々群れるのが嫌いで、複数よりも数人、何なら1人でいた方がよっぽどマシというタイプだ。
だから特に交友関係を広げようとは思わず、自分から他人へ関わろうとはしなかった。
プラス、矢ケ崎月燈は如何にもなクールキャラという風貌をしていて、外見からして他人を寄せ付けないオーラが凄まじい。
表情をあまり変えず、何を考えているのか分からないところがミステリアスなのだと故姉上(死んだのは俺の方だ)はよく熱弁していたものだ。
そんな小さい頃から「ぼっち最高!一人の時間大好き!!という心情とは裏腹に、それを周りにハブられてるのだと勘違いした凌河がくっついて来たのは未だに複雑な思い出だったりする。
おい今は亡き(だから亡くなったのは俺の方だ)妹よ、確かに俺は比較的犬や自分を慕ってくれる人間は嫌いじゃなかったがこれは鬱陶しいぞ。
何が「兄さんなら好きになるかも」だ。嫌いじゃないが好きでもねえよこんなひっつき虫男。
せめて女の子なら良かった…折角共学なんだからそれでもいいだろ別に…。
こいつが女ならここまで苦労しないのに。
好物のイチゴ牛乳をパックで堪能していた俺はそこまで考えて、思わず深いため息をついた。
「ん?どした月燈、まーたそんなでけえため息なんてついて。その分幸せぶっ飛ぶぞ?」
凌河が軽い調子で、いつもの快活な笑顔で顔を覗き込んできた。
それをジト目で一瞥し、「だれのせいだ誰の」と心の中で呟く。
「別に。相変わらずお前は何も考えないで能天気にしてんなあって思ってただけ」
「ひでえっ!人のことを馬鹿みたいに!!?」
「いや、事実そうなんだからしょうがないんじゃね」
「はっきり言わなくてもいいだろー!?」
慣れた調子で軽口を叩き合う。
こいつは頭が悪いわけじゃないんだが、根っこが真っ直ぐで人がいい。
ぎゃーぎゃーと反論してくる幼馴染みをぼんやり眺めながら、こんなやつだから意外と隣が居心地いいのかもな、なんて考えてみたり。
その目線をどう捉えたのか俺には分からないが、嬉しそうにニコッと笑いかけられた。楽しげなのは伝わったから尻尾振り回すな、毎度毎度背中にばしばし当たるんだよ鬱陶しい。
「ていうかいいのこんなとこで油売ってて。お前生徒会の集まりあるんじゃなかったの」
「!!!そうだった忘れてたやっべえ!!」
おいおい大事なことを忘れるな。
凌河は新入生ながらその人当たりの良さとフットワークの軽さを見込まれて、生徒会の役員をしている。
常に俺と行動してるくせにいつの間に交友関係を広げているのか本気で謎だ。
「おーい!凌河ー!!」
「あっ、加藤先輩!」
渡り廊下の方からこちらへ向かってくる人影があった。
加藤、と聞いて俺の前世の記憶が反応した。嫌な予感が背中を駆け巡り、思わず尻尾が逆立つ。
加藤、かとう……まさかこいつは。
「月燈は話したことなかったよな、紹介するわ!この人は加藤佳祐さん、俺らの一個上で生徒会の先輩!!」
…ああ、今ので確信した。
折角この一ヶ月間、意図して出会わないように注意していたんだけどな。
とうとう主人公キャラとのエンカウント、入りました。
もっと獣耳設定を活かしたい