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階級喧騒記~蛇足~

 夕方が近づいて、そうでなくとも冷たい空気が、さらに冷えて感じられる。ギルドの建物があった庭では、片付けもあらかた終わって職員以外はほぼ散っていった。

 崩れ落ち、瓦礫となった職場(ギルド)の山を見ながら、メイは大きくため息をつく。


 お気楽に出来るみんなの目の保養要員。と(あなど)っていた受付嬢仕事でまさかこんな目にあうとは思いもよらなかった。下敷きになった書類やデータ。他のギルドと共有していなかった自分だけの記憶媒体。デスクの上のお気に入りの小物たち。

 明日からの仕事を思うと頭が痛い。しかも、しばらくは吹きさらしの屋外の簡易事務所だ。


「いやいや。生きていだけでもありがたいよね」

 大きな石に腰を下ろして、あの練兵場での出来事を思い出す。

 見た目可愛いのにめちゃくちゃ性格悪かった魔道士。

 終始めんどくさそうな空気を振りまいているのに何気に情に厚かった剣士。


「何をニヤいつている」

 完全に引いた口調に目を向けると、この地域担当のバイルド隊長が立っていた。

「推しが増えちゃいまして」

「推し?」

 元々ルフセンドルフ推しを公言してきたメイだが、同時に2種類の呪文を操る離れ業をやってのけ、この広い練兵場を駆け巡った剣士の戦い。何より崩れ始めた建物をものともせず、ギルド職員(一般人)の救助を優先出来る精神。そして、いがみ合っているように見えてソリスの名前を呼んだ時の、あのアリシアの心配で張り裂けそうな美しい顔。

「ぐはぁっ。尊い」

「と、尊?」


「……隊長、ちゃんとお二人の名前を覚えました?」

 完全に話についてこれていないおじさんに、メイの瞳は冷ややかだ。

「あー。アリ……ス?」

「めっちゃ混じってるじゃないですか。アリシア-ノベルズ様とソリス-レアード様ですよ」

 視線を逸らして答えるバイルドと違い、メイの推しを愛でる瞳はキラキラと輝いている。


「レアード?」

 だが、その名前に引っかかったバイルドの声が明らかに変化した。

「剣士の方だな。レアードを名乗ったのか? 出身地、出身地はどこだ。冒険者登録カードに記載があるだろう」

 食ってかかる勢いで、詰め寄られる。

「えと。登録カードは……」

 メイがゆっくりと指さしたのは先は、もちろん崩れ落ちた元ギルド。

「ぬおぉぉぉっ! 他のギルドでも閲覧可能だな? 悪いが立つぞ」

「え! 瓦礫の運び出し手伝ってくれるんじゃなかったんですか」


 メイの叫びも虚しく、足早に去っていくバイルドは振り返りもしない。


「あのオヤジぃー」

 怒りがつい口をついたが、すぐにレアードの名前の意味に思考が持っていかれた。

「犯罪者関係にこの名前はなかったはず。英雄関係? んー。どっちにしろ幅が広すぎるな。検索かけられればすぐなのに」


 崩れたギルドが悔やまれる。とは言え、常に移動しているタイプの冒険者がまた同じギルドに顔を出すことはそうそうない。


「よし。バイドル隊長の初恋の人の娘ってことにしておこう」

 今後、ギルドに仕事で顔を出すバイルドを見る度にメイが内心ニヤニヤしてしまうのは、また別のお話。

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