二回目の部活前編
今までの人生で何度繰り返したか分からない自問自答。
それは、俺という人間は今のままでいいのか、それとも変わりたいのか。
今のままでいい、自分だけの時間を持てる、というのは有意義な人生じゃないか、という考え。一人を楽しみ自分のみを愛す。孤高の存在。
……なにカッコつけているんだか。ただ人付き合いができないことを無理に自画自賛しているだけじゃねえか。孤高の存在?はっ、孤独なだけじゃん。孤高と孤独は全然違うんだよ。
ならば他人に合わせて会話とかできるのか?んー、分からない。いや、別に合わせなくてもいいのか?自分の意見を押し通す、そういう付き合い方だってきっとあるんじゃないか?
「で、少年。おぬしは変わりたいと叫んだそうじゃが、まずこれは事実かの?」
俺が何のリアクションを示さず考え事に耽っていると、桜田から噂についての真意を聞かれた。
「叫んだのは事実だな。考え事してたら急に呼ばれてそのまま考えてたこと言っちまった、ていう。」
俺は後頭部をポリポリかきながらそう答えた。視線が自然と俺に集まっていて、といっても今日ここにいるのは桜田、針谷、立花の三人だけど、どうでもいいクラスメイトの視線より、人生で初めてといっていいほど、ほんの小さなものだが、関わりを持った人に見られるのがどうも照れくさい。
「寝ぼけてたよりひどい重症じゃの!はっはっは!まだ寝ぼけながら「ママぁ」とか言ってる方が可愛げあるわい!」
そのままあっはっはと声をあげて笑う桜田。ムカつく。桜田ばっかり見ているとイライラで手が出そうだから他の二人の反応を見よう。
針谷は、どこかシンパシーでも感じたのかふんふんと何かを納得して俺に向かってサムズアップ。こいつもボッチだしなあ、きっと変わりたいんだろうな。
では立花は、というと、右手を顎に当てて考え込んでいるようだった。こいつの考えていることはよう分からん。というか唐突に変な感じになったりするから、戸惑ってしまう。
「で、桜田さんよー、何かいい案でもあんのかよ。」
まだどこか笑いの収まらない桜田にちょっとキレ気味に声をかける。
「す、すまんかったのう少年。でも喜べ少年、わしに考えがある!」
最初は謝り、最後の方は何ともまあ起伏のない胸にドンと右こぶしを当てて答える桜田。
考え、ねえ。まともなのだけどいいけど。
「少年、おぬしはわしの分析からするに、人付き合いが苦手、というよりは知らんのじゃろう。そして、じゃ。ここにいるほかの面々も得意とはいいがたい面々じゃ。」
ああ、そうね、その通りだね。多分他の一般人も同じ第一印象を俺たちに抱くよ、それ。
桜田はそんな俺を知ってか知らずか無視して話を続ける。
「それで、じゃ。ここのみんなで、友達になってしまえばよいのじゃ!」
「どうじゃワシって天才じゃろ!」とでも言いたげな桜田。俺はというと、まあそうなるよね、としか思わない。
「あ、あの、私も、その、皆さんとお友達になりたいです!」
針谷が恥ずかしながらも、でも勇気を振り絞ったんだろう、最後の方ははっきり聞こえるように声を出していた。
ああ、コイツも変わりたいんだ、俺と同じで。でも、俺とコイツでは一つ決定的に違うことがある。針谷は勇気を出してその一歩を今踏み出した。俺はまだ、こんな滅多にないチャンスだろうに、立ち止まっている。針谷、お前すげえな。
でもね、ちょっと惜しいのがね、その発言の後の笑い方、「えへぐふっ」てなに。ちょっと、いやかなり、ないわー。
「私も、その、あなたたち二人には興味ないけど、でも、一人も友達いないのもなんだし、別にいいわよ?」
とテンプレートなツンデレヒロインみたいに声を出す立花。まあこいつもこいつで何か考えていて、その結論がこの発言なんだろう。俺の勝手な思い込みだが、立花も変わりたいんだろう、うん。
てかね、あなた変わらないとそのうちイジメられるかもしれないからね?そんな面倒なことに俺を絶対に巻き込んだりしないでね?
「で、どうじゃ、少年。あとはおぬし次第じゃぞ?」
みんな俺の返答を聞き逃さないようにじっと見つめている。
あれ?よく考えてみて?今あのボンボンがいないから、これってちょっとしたハーレム状態じゃね?あ、でも、こいつら全員残念な女子だったわ。
俺一人また勝手に舞い上がりそして冷静になる。でも、残念でもいいじゃんか、友達になるぐらいならさ。損はしない、はずだ、うん、きっと。そうであってほしい!
俺は決意を固めて息を吸い込み、
「ああ、これからよろしく、友達として、な。」
とそう告げた、最後の方は多分ぎこちなく変な、でも俺のできる精いっぱいの笑顔で。