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見て観られて  作者: 柏木 アキラ
始まり
6/15

一週間棒に振った結果

 入学して一週間ちょっと経った月曜日。俺の周りに、特にこれといって変化はなかった。


 先週木曜のロングホームルームで席替えをして窓際の最前方になり、そしてなぜか俺をつけているかのように、立花響子は俺の後ろの席になった事ぐらいだろうか。


 ちなみに右隣は生徒A君だ。名前はいまだに知らん。名前を知ることはないかもしれない。


 変化はない。いつも通り。少し頑張ると思ったあの時の俺に、今の俺は謝りたい。何もできなかった、すまん、と。


 そもそも会話の切り出し方がわからないし、クラス内ではもうすでにある程度グループというものができていた。そのどれもが俺が入るにはどう考えても場違い。というか絶対シラける、シラけさせる自信がある。


 偏差値高いはずなのにどこかチャラついてバカっぽそうな雰囲気の男女数人、アニメやゲームが大好きそうなオタクっぽい男ども、数組の男同士女同士の普通そうな集団などなど。


 どうも友達作りに失敗したのは俺とA君、それと立花もどうやらボッチだ。


 教室を俯瞰して左上はどうやらボッチの集まりだ。悲しいが、事実だ。なにこれ、ここはボッチエリアって誰かが決めたの?席替えって確かくじ引きで決めたんですけど?


 これが神の悪戯(いたずら)ってやつか、いい度胸してるぜ、くじ引きの神様!


 ならそのA君に話しかければいいだろう、と思うだろうが、非常に残念なことに、A君は俺のことが大層苦手のようで、最初の自己紹介の時に目が合って以来目が合った試しがない。


 多分彼なりのスキル、目を合わせないことでガンつけてんじゃねえよ回避術だ。もうね、達人レベル。


 べ、別にこんな奴と話したいとか思ってないからな?いやまあ、俺の中に変な仲間意識はあるが。


 それと立花についてだが、どうもボッチというのは納得いかない。


 というのも、だ。立花はどうも俺に似て人との関わりを持とうとしない、初日の俺に話しかけてきたこと以外は。


 顔面偏差値という点では割と高いと思うし、男女ともに最初のうちは話しかけられている姿も、まあ後ろだから直接見ていたわけではないが、会話は当然この距離だ、聞こえてくるわけで。


 だが取り付く島もないようで、「今忙しいの」とか「話しかけないで」とか、「あなたに興味がない」だとか、ついにはもうシカトする始末。もうね、何がしたいのか分からない。


 ああ、ちなみに俺はというと、話しかけるどころか話しかけられることなんざ一度もなかったね。つうかね、何にもしてないのになんか後ろの方で陰口叩かれているし。


 内容はまあお決まりですよ、不良とかなんとか。毎日遅刻もせず(というか地理的にできそうにない)授業も、決して聞いてるわけではないものの、出ているのにも関わらずだ。


 なに、俺からそんなに負のオーラというか、不良のオーラ出てる?いやまあ初日の実力テストの結果が張り出されて最下位だったけどさ。


 つうか張り出すなよ、教師から生徒へのイジメだって教育委員会に訴えるぞ。


 結局のところ努力しようにもその方法が分からず、何もしないで一週間以上という時間だけが流れていた。


 昼休みの終盤、教室にいるっていうのについ頭を抱える俺。俺の灰色の人生が決定した瞬間のように思えた。



 だがその日のホームルーム終わり際。担任の丸鐘先生が俺の方を見てこう言った。


「最後に、高師琢磨と立花響子はこの後職員室に来るように。」


 と告げられた。


 はて、何か悪いことでもしただろうか?というか何もしてなさ過ぎてヤバい。あー、成績とか授業態度、かなあ。いやあでも一週間程度で呼び出されるほどですかい?


 思い当たる節に心当たりもなく、荷物をまとめカバンはそのまま置いておいて、職員室に向かう俺、とその後ろをついてくる立花。まあ呼び出された同士、話しかけることにしてみた。


「なあ、なんで呼び出されたんだろうな?」


「さあ。」


 はい、会話終了。まあこうなることは分かっていたんだけどね、はい。


 それにしてもますます分からない。立花は実力テストで確か好位を取っていたし、実際「勉強教えてー」なんて言って声をかけた女子もいたわけで。すぐに「あなたに教えて私に何のメリットが?」と言って断っていたが。


 ということは少なくとも成績面ではない。では素行?


 いや、それもないだろう。立花は見た目はちゃんとしているし成績もいい。という事は流石に素行面で呼び出されるようなことはしていないと思う、多分。いや立花のプライベートなんて知らないけどさ。


 待て待て。そもそも、だ。同じ理由で呼び出されたというわけでもないかもしれない。俺は素行面で、立花は立花なりの理由がある可能性だってあるわけだし。


 なに勝手に同族意識持ってるんだか。自意識過剰だなあ俺は。


 ということで職員室。丸鐘先生の前に俺たち二人は立っていた。どうも呼び出されたのは同じ理由らしい。


「あんた達二人、早く部活動何にするか決めてもらえない?」


 ということだった。


 そういえば部活動強制でしたね、この学校。すっかり忘れてましたごめんなさい、と心の中で謝っておく。


 それにしても参った。部活か。この間勧誘とかもしてたね、スルーしてすぐ帰ったけど。


 マズいな、適当に言おうにもなにも情報がない。というか自分が部活に行くところを想像すらしたことがない。


 まあ普段から運動しているわけだから、運動系の部活に入ればいいんだろうが、上下関係がうるさそうだし、理不尽なことがあれば先輩殴っちゃうかも(ハート)。それにこれといってやりたいスポーツも思い浮かばない。体を動かすこと自体はいい気分転換になるし、体にもいいことなんだろうが、どれか特定のスポーツに興じる気はない。


 なら文化系の部活動はどうだ?これもない。本はマンガしか読まないけど漫研のようなところに入るほどマンガ好きというわけでもないし、絵なんざ描けない。


 他は?得意なこと、例えば運動以外で、そうだな、普段やっていることといえば。


「あ、料理研究部みたいのないですか?」


 普段からしていること、さらに実用的なこと、そう料理だ。あるじゃん俺、得意なこと。


 小さい頃から料理してたから何とも思ってなかったけど、普通の中高生は、特に男子は普段から料理なんてしないって。


 若干女々しい特技ではあるが、俺の唯一の得意なことだ。それにきっと女子しかいない。他に男子がいようとも俺の料理スキルでもう女はメロメロ。まさにフィーバー状態!俺の人生の転換点!


 これだ、これしかない!これで俺のリア充生活確定!やったね、俺!


「あるけど、もう募集してないみたいね。定員みたいよ。」


「あっ、そうっすか。」


 ああん、唯一まともにできそうなことだったのに!入って早々料理ができるということで、周りに注目されてそこでコミュ力を身につけ、あわよくば彼女を!という俺の一瞬で思いついた壮大な俺リア充計画が!


 つうか本当に確認した!?今割と適当に流してたでしょ!?なに、遠回しに男子が料理研究部なんて、女子とキャッキャウフフしたいだけだろ、って思っているってことですか!?いやね、少しも思わなかったわけではないんですむしろ思いまくりました、友達いやあわよくば彼女をゲット、なんて考え、健全な男子高校生にもなれば誰でも思いますって。


 思うよね?ね??


 はあ……、ダメだもう何も思いつかない。思えば、俺の人生って色も花も何にもないな、一人ぼっちで。


 学校では友達の一人もいない、実家でも家族関係は上手くいかず、部活動なんてしたことないし、塾とか習い事もしてないから校外の繋がりもなく。


「もう、何でもいいです……。」


 俺は肩を落としそう告げた。適当に決めてもらって、そんでもって幽霊部員になる。周りからすれば、惨めな高校生活決定。うん、もうそれでいいや。今まで通りでいいです。


「じゃあ、今年から新設要望が出ている心理学研究部というものに入ってもらうわ、高師君。」


 ……は?心理学研究部?なんじゃそりゃ。


「じゃあわたしもそこで。」


 立花は立花で即決していた。じゃあってなんだよじゃあって。部活動の内容も聞いてないのに即決めちゃったよこの子。なに、うじうじ悩んだ末、料理がしたい、といってダメで、またうじうじ悩んだ末に先生任せにした俺って、惨めじゃん。いやまあ惨めなやつだけどさあ!


 つうかタンマタンマ。


「あの、別に入るのはまあ百歩譲っていいとして、いったい何するんすか?心理学とかよく分かんないんですけど。」


 心理学といえばたまにテレビとかでやる、バスの座る位置によってとか、話しているときの目の動きで感情を読み取るとか、そういうのだろ?


 ん?あれ?少し興味あるかも。感情とか読めるようになったら、少なくとも友達とかできそうじゃね?あれ、この提案俺にとってはもしかして、好機(チヤンス)


「ああ、別にあなたたちが心理学の研究をしてほしい、というわけじゃないの。」

『は?』


 俺と立花の声が被る。なんじゃそりゃ。ますます何するのか分からない。


「ある生徒がね、心理学を研究したいんだけど、モルモ、んん!じゃなくて観察し実践する対象がほしくて立ち上げたの。一応生徒会も、人数さえそろえば良いといっているし、規定の人数が集まれば、晴れて部活として承認されるんだけど、勧誘会に間に合わなくて人の集まりが悪くてね、一応私顧問頼まれているしちょっと責任感じててね、ちょうどあと二人だったし、だからあなたたちが入ってくれて嬉しいわ。」


「はあ。」


 少しツッコミたい。最初の方で何言いかけた?モルモ、まで言われたらもうモルモットしか思い浮かばねえし、入ってくれて嬉しいといったがこれ、半ば強制じゃん。


 俺の料理研究部に入ってハーレム計画どうしてくれるんだよ。心理学研究部とやらで埋め合わせできるんだろうな?ん?


 と心の中で思いつつも、俺は問題など起こしたくない生徒。ただでさえ何もしてなくても変な噂がたつのに、先生に歯向かった日には、もう噂に尾ひれつきまくりで高校生活が終わる。


 いや終わりかけてるけど。なんかよく分からない部で実験動物として使い捨てにされそうだけど。


「じゃあさっそく案内するわね。」


 といって丸鐘先生は立ち上がり出口へと歩き出す。俺と立花はそれを追って職員室を後にした。

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