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見て観られて  作者: 柏木 アキラ
始まり
5/15

入学初日

 入学初日。


 桜が満開な入学式というのは道産子の俺からすれば新鮮な景色ではあったが、俺の場違い感は、それはもう半端なものじゃなかった。


 まずほかの生徒の真面目そうなツラ。流石私立椿学園、なかなか高い偏差値を誇っているだけはある、俺のようなガラの悪そうなやつなんざざっと見いない。


 いや、別に俺もオラついているわけではないが、どうもやはり目つきの悪さというものは周りにいい印象を与えるものではない。


(あの人目つき悪くない?)(怖い、あれって不良?何でここに居んの?)


 という会話がちらほら聞こえてくる。いやあ、聞こえたくなかったなあ。もうちょっと声のトーン落とそうよ。


 俺だって気にしているんだよ、この目。見た目だけで不良だなんて判断するのはよくないと思うなあ。まあ、中身も決して優等生ではないけどさあ……。


 名も知らぬ女生徒の陰口に軽くジャブを食らいへこむ俺は、他の生徒同様クラスへと向かう。


 1年6組。どうやら10クラスあるようで、1クラスあたり40人ぐらい。流石東京、人が多い。1学年約400人、3学年で約1200人、というところか。いやあ多いなあ。


 他の学校がどれぐらいかとか、知り合いいないから知らないんだけどね!


 そして初日ということでお決まりの、自己紹介タイムに突入するわけだ。


 なんだが、まあみんな無難にこなしていくわけで。中高一貫ということもあるのだろう、見知った人もいる安心感で、緊張している人の割合は半々、という感じだった。


 まあ数人悪ふざけした自己紹介や、ただの人間には興味ありませんこの中に宇宙人どうこうのたまう残念な女子がいたり(絶対に関わらないでおこう)する中で俺の番になった。


「札幌から来ました高師琢磨です。よろしくお願いします。」


 簡潔。ザ・シンプル。シンプルイズベストっていうじゃん?あ、ここでするべきことじゃないですね。


 まあね、出身校言ったって通じるわけないし、これといった趣味もないし、特技もないし、普段していることといえば…、なんだろう?マンガ読むゲームするテレビ見る。


 うわあ、ふっつー。ああ、まあ筋トレとかしてるか。


 やべえ、自己紹介で紹介できるほどのことなんざ何もねえ。


 とまたいつもの様に自己反省に自問自答。


 つうかよ、最初が肝心じゃん?何してんの俺は。自己紹介の内容考える時間なんざたっぷりあったじゃん?つうか考えてたじゃん。なんで言わなかったのアホなのアホだね!


 と俺は何食わぬ顔で平然として座っている。平然としているつもりです。


 なぜか右斜め前の席のひ弱そうな、いかにもいじめられていました的な男の子が、ビクビクしながら俺の方をチラッと見ては、慌てたように目を逸らす挙動不審ぷりを見せているが、別に俺の目つきのせいではないだろう。


 いや、多分目つきが悪いからだ、うん。もう不良に目をつけられたとかそういう勘違いをしているに違いない。


 ごめんね、えーっと……、自己紹介してたはずだが何にも聞いてなかった、仮に生徒A君としよう、生徒A君、君を驚かせるために生まれてきたわけじゃないし、君をいじめたりするつもりなんざさらさらないから。というか君と今のところ関わる気ないから。


 他のやつらの自己紹介も終わり、改めて学校の方針やらなにやら担任の先生、担当は物理の女教師の丸鐘(まるかね)、ちなみに結構美人だが言葉遣いが少し荒い、が話しているのを聞き流しながら他の生徒の頭越しに窓の外を見つめる。


 この席はどうも居心地が悪い。クラスの中心部分といってもいいぐらい、真ん中から少しずれた程度の場所。早く席替えでもしてもらって窓際の席に行きたい。


 案の定というかなんというか、休み時間になると早速、クラス中にうわついた雰囲気が流れ、ところどころで会話も生まれる。


 久しぶりー、とか、同じクラスだねー、とかの中学からのなじみのある人間のやり取り、さっきの趣味俺も結構好きなんだよー、とか、隣の席同士今後ともよろしくー、なんていう初々しい会話がそこかしこで行われている。


 そしてこの席だとどうも周りの声が全部耳に入ってきて、煩わしいったらありゃしない。


 そんな空気に耐えられない俺は、別に用もないトイレに避難することにした。


 この授業の合間の10分休みが一番嫌いだ。図書室という名の避難場所に行くほどの時間はないし、というか図書室空いてるわけないし、かといって教室にいると何もしてないのに勝手に俺の噂されるし、かといってトイレに行くという方法も、あまりいい方法ではない。タバコ休憩とか噂されるからな。


 いや吸ってねえしそもそも買えねえだろうが。


 とポケットに手を突っ込んでみると、そうかスマホで時間潰せばいいのかと思いつく。廊下に出たはいいものの、スマホという文明の利器を手にした俺は席に戻り暇を潰す事に、したかった。


「よろしく。」


 という声がどこからか聞こえてきた。


 どこからだ?そもそも俺に対してなのか?少しきょろきょろすると「後ろ」といわれ振り向く。


「よろしく。」


「お、おう。」


 そこには全く気づいてなかったが顔面偏差値の高い、黒髪ロングでキリッとした眼差し、だがなんというかなぜだか幸薄く目立たない感じの、女子がいた。えっと名前は……。


「もしかして自己紹介聞いてなかった?」


 はい、まったくもって。いや、君だけじゃないんだ、他のやつのも全然聞いてない。つーかさタクマ君、内面的高校デビューする話はどこにいったのかな?何にも進歩してないよね?まあ退化はしていない、しようがない。今が0地点なんだから。


「私は立花響子。響くに子供の子よ。キョーコでいいわ。」


 軽く微笑みを含んだ自己紹介、いや名乗った立花。目立たない感じという印象はなくなっていた。


 なんだ、俺とは違う世界の住人か。いわゆるあれだな、リア充だな。こう見えて友達とかいっぱいいるんでしょ?俺の事数多(あまた)ある連絡先の一つとして数えられるだけの存在にするんでしょ?


 などと卑屈なこと考えていると、彼女は不思議そうな顔をしていた。ああ、俺の返答待ちか。


「俺はたか……。」


「高師琢磨。さっきの自己紹介で聞いてるわ。」


「ああ、そりゃそうだよな、はは。」


 食い気味で返されて焦る俺。え、何、緊張してるの?いや確かにキョーコ、さん、とやらは、まあ美人だけどー?あれだろ、声かけてきたのだって、偶然前の席だったからってだけでしょ? だってそれぐらいでしか声をかけてくるようなんて思い浮かばないもん。


 いやつうか落ち着け俺、なんかキャラぶれてる、退化する余地あったわ!


 相手のキョーコさんはといえば、ただただじーっと俺を見ている、見つめている。そしてなんか合点がいったように小声で、本当にかすかだが「やっぱり……」と何か分からんが納得していた。


「何が、やっぱりって?」


 すぐさま聞いちゃう俺。つかさ、何を納得したんだ、この子は。


「えっ、嘘、もれてた?ああいえ、その、あー…、目つき悪いなあと思って、その……。」


 となぜか少し頬を赤く染めてもじもじしている。え、何、なんで照れてんのこの子、怖い。


「生まれつきなんだよ、遺伝だ遺伝。別に目が悪いから細めているってわけでもないからな。」


「そ、そう。気に障ったのなら、謝るわ。」


「いや、別に。いつもの事だし、気にして、はいるが、まあ直すには整形するしかないんだろうけど、そんなつもりもないしな。」


 俺はそういうと頬をポリポリかいていた。癖という奴だ。少し困ったことがあると、痒いわけでもないのに頬をポリポリかく。ちなみに大いに悩むと頭抱える。


 あ、普通ですね、はい。


「私は、その、嫌いじゃないわよ?」


 とキョーコ、さんは少し恥ずかしそうに、もじもじしながら、でも俺の目をしっかり見ながらそう言った。


 かたや俺はというと、なぜかどこか冷めていた。


 というのも、だ。なぜこいつはすでに俺に対する好感度アゲアゲ状態なわけ?今までに会ったことも聞いたことも、つうかそもそも生まれからしてこいつは多分東京だろうし、かたや俺は札幌。


 接点が今までに存在しない、しえない。この数回のやり取りで好感度爆上げする事はない。いたって普通、いや普通以下かもしれない。


 訳が分からない。なので俺は彼女にこう返した。


「あっそ。」


 と。前に向き、ポケットからスマホを出しブラウザを開く俺。


 中学までは読みもしない教科書を開いたり、トイレに行くふりとかして何とか過ごしてきたこの授業の合間の苦痛の時間が、スマホによってむしろいい時間に変わろうとしていた。新しくできた自分だけの時間。個人的に有意義な時間。


 そして次の授業が始まりを告げる授業のチャイムが鳴り、入学初日のいきなりの実力試験という名の小テストが始まった。


 って聞いてねえよ!いや筆箱は持ってきてるけどさ!ああんもう!春休みスマホに浮かれて弄って遊んで、そんでもって初日はなんて自己紹介しようかな?どういう態度で挑もうかな?とか悩んでばっかで勉強なんてしてねえよ!


 しかも配られてくるテストがものの見事にレベルが高い!さすが高偏差値高校お金持ちがそこそこいるエリート養成学校!ぜんっぜん分かんねえ!


 苦悶の1時間を過ごし何とか分かる範囲で回答を出して今日一日の学校は終わりを迎えた。


 正直、最後のテストだけで疲れた。帰ろう。


 俺はいつもの様に手際よく帰り支度を済ませ、今日の晩御飯は何を作ろうか考えながら帰ることにした。


 献立を考えながら歩いていてふとなぜか思い出す立花響子の事。


 やっちまった。なに変な邪推してんの俺。本当にアホだな、俺。あいつがいわゆるリア充という奴ならそこから自分を変えれただろうし、仮に俺と同じようなボッチみたいなやつでも、話していくうちにコミュ力がアップして内面を変えることだってできただろうに。


 俺は東京きて初日に何を思った?内面高校デビューだろ?入学初日でおおごけもいい所だよ!


 まあ頭の中ではそういうことを考えながら平然とした姿で歩く俺。頭抱えて悩むなんざ自分の部屋でしかやらないし。まあ今自分の頭に一発ゲンコツぶつけたい気分だが。



 出会い。やっぱり人が、俺が変わるには人との出会いを重ねないと変われない。俺みたいな偏屈な人間は内的要因では変われない。かといって軽い外的要因でも変われるとは思えない。


 例えば、だ。帰りすがら何故か人が降ってきた。しかも少女のようだ。それを難なくキャッチし、地面に立たせてそのまま何も言わず去っていく。


 映画の一本でもできそうな出会いは、俺には通用しない。街角でパンをくわえた少女となんて、ひらりとかわしちゃう感じ。


 今日は昨日の余りと麻婆豆腐にしようと決めて帰宅した俺は、ベランダに干していないはずの布団がかかっている様子に気づいた。


 寄ってみるとどうも白衣を着たシスター、と呼ぶにはどうも幼すぎる気もするが、そんなおなかをグーと鳴らす少女を、下の階に放り込み(下の方ではおやおやまあまあなんて言っている大家さんの声が聞こえた)料理の下ごしらえを始める。なんだか超長編ラノベ書けちゃうような出会いがあった気もしないが、多分気のせいだろう。


 下ごしらえを終えてふと時計を見ると、まだ5時にもなっていない。流石に夕飯にしては早すぎると思った俺は暇つぶしにゲームでもと思うものの、持ってきたソフトはどれもやり飽きたものばかり。


 仕方ないと財布の中身を確認し、1本ぐらいなら買っても大丈夫だろう、という見切りをつけて近くのゲーム屋に寄る事にした。


 歩いてゲーム屋に立ち寄りゲームを選ぶ俺。これといって好みのジャンルがあるわけではない俺は、とにかく長く遊べそうなゲームを探すことにする。


 様々なパッケージを取っては戻す作業。そんな光景を見ていたのかとある女子高生が声をかけてきた。


「好きなのかな?ゲーム。」


「いえ、別に。」


 はい、終了。ああ、もうね、これ駄目ですわ。変われる気なんかしない、一切しない。もうね出会いとか求めている人の態度してないもん。


 いや別に出会い厨というわけじゃないよ?外的要因じゃないと変われないと思っているのに、その外的要因との関わりを、きっかけをことごとく排除していくんだもの!


 結局俺はデカいため息とともに何も買わずにゲーム屋を後にした。いつの間にか日は暮れていて6時過ぎ。帰ったら飯にしよう。炒めたら完成する程度まで作っておいてあるしな。


 今の空模様はまるで俺の心のよう。雲がかかり夕焼けも終わり暗い。なんかもやっとして暗い気分。


 明日はきっと、うん、少し頑張ってみるさ、うん。


 心でそうつぶやき、そうして俺の入学初日は一人寂しく過ぎていった、いや別に寂しくなんかないんだからね!(ツンデレヒロイン風)とかアホな考えを振り払い、「今日はもう寝よう」と独り言をつぶやき眠りにつくのだった。

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