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見て観られて  作者: 柏木 アキラ
始まり
1/15

プロローグ

 物語というものは誰かの出会い、何かの出会いとともに始まるものである。運命的な出会いやその逆にただふと声をかけられて、とか。様々なパターンがあるだろうが、俺には、高師琢磨たかしたくまにはそんな出会いはないのだろう。


 幼い頃から人と関わるのが苦手、というよりも、目つきが、悪く背が高いことで威圧感が勝手に出ているという理由で避けられていた俺は、どうにも人との接し方というもの、つまりコミュニケーション能力というものがからっきしないのだ。


 クラスメイトや先公、父親とだって上手くいった試しがない。いつもどこか喧嘩腰で、食ってかかって、結果相手は俺から距離を取るか叱るか喧嘩するか、とにかくマイナスな方へ。


 それに拍車をかけるのが、クソオヤジが変にあいつの趣味である格闘技を、小さい道場のようなものを家のローンを増やしてまで建ててやっている格闘技を、俺に稽古という名の一方的な暴力で叩き込まれたせいで変に腕っ節が立つものだから、中学の時は喧嘩では負け知らず。俺より体格のいい上級生にすら勝ってしまうものだから、そんな俺にいい噂なんてたつはずがなく。


 結果として、俺はいわゆる〝ボッチ”として小学中学と過ごしてきたわけである。そんな俺を題材に物語を書こうとするやつがいたら、そいつはバカだ。はっきり言ってセンスがない。


 だって、俺には今まで語るような思い出もないし、ならば高校入学を機にそんな自分を変えようとする気概もないし、こんな自分と関わろうとする奇特なやつもいないだろう。


 そう、出会いはない、と断言できる。少なくとも自分からのアプローチではありえないし、する気なんてさらさらない。


 長く一人でいる時間を過ごしたせいか、どうも自分の空間を作ってしまい、そこに誰かを踏み入らせようとする気もないし、踏み込んできたら全力をもって排除する。自分の空間にこもっているこの感覚にどうも、居心地の良さを感じてしまっているのだ。


 ……将来結婚どころか彼女もできず誰にも看取られることなく一人さみしく孤独死。あー、流石にそう考えると惨めだ。だが少なくとも今の俺にこの感覚、性格を変える気は、まあ変えないとまずい気もするんだが、でもやっぱりない。


 人間一人では生きていけないという。俺もそう思う。俺以外の人間がいろいろしているおかげで食う物にありつけるし、住む所もできるし、様々な娯楽で遊ぶこともできる。


 そう、一人では生きていけない。人と人の繋がりがあるからこそ様々なものが生まれ、そして消費されていく。


 だが、だからと言って俺がそこに積極的に入る必要なんてないじゃないか。


 確かに衣食住という、生命維持において重要な部分は俺一人ではなにもできない。俺は裁縫どころかまず裁縫するための布を作れないし、調理はできても食材となるようなものは作れないし、人がちゃんと住める家なんて俺一人で作れるわけがないし、現にくそったれだが父親があくせく働いてローンを支払っている家に住んでいる。


 だがそれと、周りのクラスメイト等と仲良くしなきゃいけないというのは、違う。


 なんで他の奴のために話題を振ったり会話したり、リアクションを取らなきゃいけないんだ。無駄だ無駄。自分の時間を割いてまで他人のために時間を使う。自分のしたいことやりたいことを犠牲になぜ、他人のために努力しなきゃいけないんだ。


 まあだからといって自分の時間というものを周りから見て有意義に使っているのかというと、多分使っていない。


 そりゃ勉強もするし半ば強制だが運動もする。だがマンガや雑誌を読んだりゲームで遊んで時間を潰し、たまにネットを見たり、ただただ何もせずボーっとしていることもある。


 何をもって有意義とするか知らないが、自分自身でも(何やってんだ俺)と思う時もある。


 なら他人と時間を共有しようとするかというと、それもやっぱり面倒なわけで。


 端的にいえば、面倒くさがりなのだ、俺は。何かと理由をつけてそれっぽく繕っているだけで。


 今のこの環境をどこか楽しげに、だが客観的にそれでいいのかと自問自答してみたり、そういう上がり下がりを楽しんでいるのだ。


 つまり周りからして見たらただの寂しいやつなわけで。友達もいない惨めなやつなわけで。だが俺がそんなことを考えているということを知るやつもいない、だって誰とも話さないし、表情や態度にも表さないんだから。


 いつも無表情、カッコよくいえばポーカーフェイス。ただ鏡を見ると、どうも何か睨みつけているようにしか見えない。かといってニコッと笑ってみると、喧嘩売っているようにしか見えない。鏡を見るのが嫌いになる。


 こんな顔にしやがった神よ、ふざけんな。

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