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新たな戦い

 100年続いた乱世。

 女性たちが戦うこと、敵を殺すことが当たり前の世界にも終わりは訪れた。


 俗に言う女神の降臨。


 女神が3日で世界を平定。

 戦に怯えていた民はホッと胸をなでおろし、歩兵として扱われていた男たちも助かったと涙した。


 しかし、皆が喜んでいたわけではない。


 戦場を生き場としていたものたち、戦場で死ぬことを望んでいた人たち、人を殺すことに喜びを感じていた人たち。

 それらの人たちは、生きることも死ぬことも出来なくなった。


 私、トモエ・トミタもその一人。


 私は一度大きな敗北を味わった。

 それにより一度逃れ、今は小さな村に身を潜めていた。

 もう二度と、逃げるということはしたくない。


 そう決心した矢先だ。


「戦が……終わった……?」


 私に、届いた情報。それが私から全てを奪った。


 戦が終わったなら、私はどうすればいいのだろう。


 今まで数え切れないほどの人を殺し、戦に身を投じていた。

 それが当たり前だったし、日常だったのだけど。


「これから、どうやって生きていけば良いのだろう」


 そんな途方もない絶望にも似た燃え尽きが生まれるのは当然のことだった。


 しばらく、何もしない日々が続いた。

 戦がないのだから訓練する理由もない。


 ただ、生きている。


 そんな時、家の中に居るのに、眩しい光が突然天井から現れた。


「えっ! なに!?」


『あなたがトモエ・トミタですね?』


 美しい……。素直にそう感じる透き通った声が聞こえてきた。

 姿は見えないのに声だけが聞こえる。

 その状況に戸惑いながらも。


「あなたは…………。女神?」


 私は問う。


『その通りです。そして、戦で活躍した方々にこうして話しかけているのです』


「戦で活躍……ね。でも私の居た隊は壊滅。戦も負けてしまったわ」


『そうですね……。けれどあなたは最後の数騎になっても、数万の敵に立ち向かい、敵将を打ち落としていたじゃありませんか』


「……それは、私を逃がそうとした人への最後のお礼みたいなもの」


『一騎当千の兵と謳われたあなたらしいですね』


 一騎当千だろうとなんだろうと、敗戦してしまえば何も意味がない。

 結局私は生き延びて、勝利の味を噛みしめることなく、ただ生きているだけなのだから。


『あなたはもう戦わないのですか?』


 女神は酷なことを聞く。

 誰のせいで戦が、生きる場所が無くなったと思っているのだろうか。


「……戦う意味が無い」


 そう、意味もなく戦えばただの狂った人間だ。


『なるほど、やはりあなたもそうですか……』


『実は、そのように考えている人が大勢いるのです』


 それはそうだろう。と私は思った。

 なにせ100年続いた乱世。それしか知らない。それしか生きる道を見いだせない人は一体どうすれば良いのか。

 下手したら、女神を恨んでいる人すら居るかもしれない。


『そこで私は考えました』


『その人達に戦う場、戦う意味を与えようと』


「また乱世にするとでも言うの?」


『いえ、せっかく世界を平和にしたのにそんなことはしません。……ですが、個人での決闘という形ならば』


 個人の決闘……。

 それを公式に認めるということなのだろうか、しかしそれは決闘をする大義名分にはならない。

 あ、どうぞ決闘してくださいと言われて戦うものなどただの戦闘狂だ。


「だけど、大義名分もなしにただ戦えと言われても……命をかける何かがなければ意味がない」


『そうです、ですから。世界中のそういう方々を殺せば……。つまり世界最強になれば、私が願いをなんでも叶えます』


 なんでも願いを叶える。

 それは確かに戦う理由にはなる。


 願いがあればいいのだから、それが自分のためだろうが他人のためだろうが。


 でも、それは私にとっての大義名分にはならない。

 だったら、戦う必要もない。


……それに。


「残念ながら私にはもう武器はありません。折れてしまいましたから。そして新たな武器を買うお金がない。だからそれには参加しない」


『その点については安心してください。みんな同じような状態ですので、武器は私が用意いたします』


「……武器を用意だなんて、やはり世界を平定した女神様となると金がたらふく手に入ったのでしょうね」


『いえ、買い与えるわけではありません。私の力でそれぞれの武器を差し上げます』


 女神の力……。

 そういえば私は逃げ落ちたので女神と対峙したこともなければ共に戦ったこともない。

 なにやら異能を持ち合わせていると聞いたことはあるけれど。その力とやらなのだろうか。


『今、戦闘を欲している人たちは皆女性。ということで、女性の象徴とも言える胸によって武器の種類や性能の違うものを召喚いたします』


「ちょっと待って! えっ、なにそれどういうことなの!?」


『おや……? あなたは……。なるほど、色白で黒く長い美しい髪が特徴なのだと思っていましたが、これまた美しい――』


「ちょっと!! やめてやめて! 何勝手に人の胸を見ているの!? というか服の上からどうやって!?」


『私は女神ですから……。コホン。とりあえずそのような取り決まりですので、武器を召喚いたします』


 そう言うと、天井の光から長い大太刀がゆっくりと降りてきた。


「これは……大太刀?」


『いえ、大太刀ではありません。鞘から刀を抜いてみてください』


 私はゆっくりと刀を半分ほど抜いてみた。


 美しい刀身……素直にそう感じた。

 光り輝くような透き通った、それでいて強い印象がある。


「これは!」


 刀身の美しさに期待をして、最後まで抜いてみる。


「…………どういうことなの?」


 鞘から抜いた刀は、鞘の長さにはとても似つかわしくない。

 鞘の半分ぐらいしか刀身の無い、小太刀だった。


「ふざけているのかしら? なんで鞘の大きさと全く違うのよ」


 屈辱を受けたのかと思い、光り輝く天井を睨みつける。


『あわてないでください。それぞれの胸によって武器が異なると言いましたよ』


「私を馬鹿にしているのか!」


 確かに私の胸は特別大きいというわけではないが、小さくもない。

平均より少し大きいぐらいだ。


 なのに、この小太刀は実際の胸の大きさの比率的におかしい。


『よく確かめてください。確かにそれは小太刀ですが、鞘の長さは合っています』


 何を馬鹿なことを、と言いかけたが。


「まさかっ!?」


 私は、刀を抜いた方の逆、鞘の先端に手を伸ばした。

 すると、そこからも刀身が現れた。


「これは……! 小太刀二刀!?」


『刀身はあなたの胸の美しさの表れでしょう。そして、その刀の頑丈さもその胸からのものです』


「そんなに胸、胸言わないで! 恥ずかしさしかない!」


『胸の具現化なのですから致し方ありません』


 これは乱世が終わったにも関わらず、戦いを求める人への嫌がらせなのだろうか。


『それに、あなたは小太刀二刀流の心得があるでしょう。十分使えるはずです』


 確かに私は小太刀二刀流が使える。

 流派的にも小太刀は扱うし、私自身一刀流でも二刀流でも戦で勝つためにはどんな戦い方もした。


『その武器を使い、殺し合いの決闘をしていただきます。ルールは三つ

・私の力で与えた具現化された武器を持ってる者同士しか決闘は行えない。

・私が与えた武器の所持者以外の人を殺してはならない。

・上の2つを破ったものは願いを叶える権利を失い武器は没収

以上です』


『それでは、生き残り、最強の称号を手に入れ、願いを叶えてください』


 そう聞こえると、だんだん天上の光が薄れ、いつもの薄暗い天井の姿になった。


「…………一体なんだったの」


 呆然とする私、そしてその手には小太刀が二刀。

 刀を手にしていると、なんだか落ち着く自分が居た。


 願いは無いけれど、また刀を手にしたということに喜びを感じた。

 この小太刀二刀は常に持っていよう。


 そして、数日後。

 その女神の決めた、最強を決める個人の決闘の知らせが全世界に届けられた。


=====================================


「おい……みろよあの武器!」


「大太刀だ……。俺、初めて見た!」


 買い出しの為に外出したはいいものの、行く人行く人に注目を浴びてしまう。

 これだから外に出るのは億劫だ。

色んな人に見られているのがストレスで、本当に嫌になる。


 胸によって武器の種類、形状、強さが決まる。

 つまり、武器をまじまじ見られるというのは胸をガン見されているのと同じ。

 恥ずかしいことこの上ない……。


 私の武器は小太刀二刀。大太刀一刀だと思わせていたほうが戦いやすい。

よって、鞘に納めている状態の長さは私の身長よりはるかに長い。


 そのせいで、胸元に詰め物を入れておかないといけないのだけれど……。


「はあ……」


 私がため息をつき、帰って早く晩御飯のカレーを食べたいだなんて思っていたら――。


「あなた! 剣士ですわね!?」


 いきなり、金髪の少女から声をかけられた。

 きれいなブロンドで、ウェーブがかかった髪の毛が特徴的。


「そうだけど」


 私は事実を告げた。


「私は、リル・グライシス。見ての通り、剣士ですわ」


 そして、ちらっとリルと名乗る少女の武器を見た。

 一見ごく普通の剣のように見える。


 一連の流れでそのまま胸を見てみると、確かに普通そうな胸だった。


「そのようね。私は、トモエ・トミタ。けれど、私は別に女神に対して願いは無いの」


 剣士として名乗られたら、名乗り返す。それは剣士としての礼儀。

だが、その後の言葉は、自分は戦いに参加していないという意思表示だった。


 世界最強の称号を女神からもらうと、なんでも一つだけ願いを叶えてくれる。

 だから、一騎打ちの決闘があちこちで行われだしたのだが……。


 私は最強の称号はいらないし、願いもない。

 戦が無いのであれば、そんなものはただの飾りだ。


「あら、そう。でもそれは戦わないという理由にはならないわ。私は剣士。あなたも剣士。それだけで戦う理由にはなるもの」


 それこそ、全く戦う理由にならないのではないか。

 私はそう思うのだけれど、考え方の違いなのだろう。


 ふと、周りを見てみると、決闘が始まるのかと見物人が集まりつつあった。


「さて、これでもあなたは戦わないって言うのかしら? まあ、私に恐れをなして逃げたくなる気持ちはわかりますわ」


「……誰が逃げるですって?」


 私が一番イヤな言葉であり、行動。


「いいわ、戦いましょう」


 逃げるのかと言われたら、戦う以外の選択肢が私にはなかった。


 私の言葉を聞いて、リルは不敵に笑みを浮かべ、鞘から剣を抜き、構える。

「あなたの武器は大太刀のようだけれど、大きければいいってものではないですわ」


 柄の形状から予想していた通り、リルの剣は両刃の一般的なそれである。


「身長以上の長い大太刀を自由に扱えるのかしら?」


「そうね、確かに大きい刀というのは非常に使い勝手が悪い。その意見には同意するわ」


 私はと言うと、抜刀せず体の力を抜いてリルを見つめる。


「あら、鞘から出さないんですの?」


「別にかまわないわ。いつでもどうぞ」


「そんな長い刀で抜刀術でもしようと考えているんだったら甘いですわ!」


 まともに抜刀ができないと踏んだのか、リルはおおきく振りかぶって剣を振り下ろしてくる。

 真っ直ぐで、素直な剣筋。


 そんなものは刀で受けずとも、簡単に避けることができる。

 私は身を半歩横にずらすだけでリルの剣筋から外れた。


 目標に当たらなかった剣は地面にぶつかる。


「あら、避けるのは非常にお上手のようですわね」


「そうね、防御には自信があるわ」


 一度剣筋を見ればわかる。

 私より遥かに劣る。本気を出す必要なんて無い。


「その余裕ぶっている顔が気に入りませんわ!」


 リルは剣を構えた状態で思いっきり歯ぎしりをする。


「そんなに怒ると肌に悪いわよ」


「お構いなく、毎日きちんと寝る前に手入れをしています……わっ!」


 喋りながらも斬りかかってくるが、それもあっさりと避ける。

 しかし、もう避けられることを想定されていたのか、すかさず斬撃を繰り返す。


 それを全てかわしたのだが、私は未だに刀を抜かない。


「はあ……はあ……」


「もう終わりかしら? だったら私の勝ちでいい?」


「ふざけるんじゃありませんわ!」


 私の言葉についに激怒した。


「剣士の決闘をなんだと思っていますの!? どちらかが死ぬまでやるに決まっているのですわ!」


 リルは続ける。


「それを、一度も攻撃をせず、勝ちでいい? だなんて……侮辱にもほどがありますわ!」


 まったく……。剣士って本当に面倒……。

 これはこの子を殺さないと終わりそうにない。


「わかったわ、この決闘を終わらせるには、あなたを殺さないといけないというのなら――」


 私は、自分の中のスイッチを切り替える。


「死になさい」


「――っ!!」


 私は瞬時にリルの懐に飛び込むと、誰の目にも止まらない速さで抜刀し、刀身を見られないようすぐに半分ほど納刀した。


 そして、ゆっくりと刀を鞘に納めていき、キン。という鍔の音と共に、リルの首が地面に落ちた。

その後、断面からあふれる出している赤い鮮血とともに体も倒れた。


「安らかにおやすみなさい」


 そういうと、私は、何が起きたかわからずぼーっと突っ立っている見物人たちの間を通りすぎた。


「な、何をしたんだあの子……」

「ばかっ。刀で首を斬ったに決まってるだろ! 全く見えなかったけど……」

「一体何者なんだ……」


後ろから聞こえる驚きの声に興味を示すことなく、私はふと玉ねぎを買い忘れたことに気づき、八百屋へと向かった。


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