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銃と魔法と臆病な賞金首3  作者: 雪方麻耶
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旅の神

 街外れまで来た。これから先は、延々と野原と踏み固められた道が続いている。街の出入り口とも言えるこの場所には、、旅人が金を落としていく事を期待した店舗が並んでいる。観光目当ての客相手ではなく、宿や食事を求めて通り過ぎる旅人用の店だ。


「へえ、街が終わる境目なんて初めて見た」


 城戸光来(きどあきら )は物珍しそうに周囲を見回した。


「初めてって……キーラが自分の街を出る時はどうだったの?」


 シオン・レイアーが不思議そうに首を傾げた。

 光来は思わず動きを止めてしまった。余計な事を口にした事を後悔した。隣ではリム・フォスターが軽く睨んでいる。


「お、俺の街、と言うより村は、中心部から徐々に民家や店舗が疎らになっていくんだ。こんなにはっきりと境界線を引いたような街の端っこなんてないよ」

「ふうん。変わった村ね。ニホンだっけ? お祖父ちゃんにも訊いたけど、そんな村知らないって言ってた」

「遠いところにあるからね。もう、辺境っていうくらい遠いところに」

「そう……」


 光来は、シオンが深く追及してこない事に密かに胸を撫で下ろした。

 城戸光来は、ある日突然、この世界に迷い込んでしまった少年だ。こっちではキーラ・キッドと名乗っている。

 いきなり異世界に放り込まれた光来は、運命と呼ぶべき力に流され、リムと行動を共にする事になった。リムは、光来の異質さに、『暁に沈んだ街』やグニーエ・ハルト失踪と通じるなにかを感じ取り、一緒に真実に迫る旅をする事を持ち掛けたのだ。光来の相棒であり、この世界で、光来の秘密を知っている、ただ一人の人物である。

 リムはかつて『暁に沈んだ街』に巻き込まれ、母親を失った。そして、その事件のカギを握るであろう人物、グニーエ・ハルトに父親まで殺害されている。真実はまだはっきりとはしていないが、リムはそう思い込んでいる。


 しばらく立ち止まっていたリムが、光来とシオンに顔を向けた。


「ここで、馬車を調達するから」


 リムの言葉に、光来は改めて周囲を見た。なるほど、馬車の貸出しをする店が何軒も連なっている。店舗だけではない。バス停のように、簡素な屋根を設けた待合所も見掛けられた。


「でん……汽車は使わないのか?」


 この世界には、まだ電車は存在せず、蒸気を原動力とする汽車が走っている。最初に乗った汽車が危険に満ちたものだったので、光来はのんびりと汽車旅ができる事を期待して訊いた。


「残念だけど、これから向かうディビドには鉄道が通ってないの。馬車が最速の移動手段だわ」


 そう言って、リムは歩き出した。光来とシオンも後に続く。


「それにしても、貸馬車業者が多いな。それに、やたら厳つい連中が多い気がする」

「旅は命がけだから」


 光来の疑問にシオンが答える。しかし、その意味が今ひとつ分からなかった。光来が飲み込めていないと察したシオンは、説明を続けた。


「数日掛かる長旅になれば、野営をするケースが出てくる。目的地まで運良く街があれば宿屋に泊まれるけど、ひたすら未開拓の地を進む場合もあるから」

「今回の俺達がそうじゃないか?」

「そう。だから、野営しても安心して休めるように、用心棒を買って出る連中がいるの。そこいらに立っているのはそういった人達よ」

「へえ……」

「キーラの村って、本当に遠いところにあるみたいね」


 この世界の住人なら当たり前の事に、いちいち珍しがる。光来の態度に不自然なものを感じたのか、シオンがじっと見つめてくる。


「い、言っただろ? 辺境の村だって」


 言いながらも、いつまでごまかし切れるか不安になるのだった。


「辻馬車を乗り継いで行くよりも、貸し馬車の方がいいわね」


 二人の間に割って入るように、リムが提案した。

 光来には辻馬車と貸し馬車の違いが分からなかったが、また疑問を口にするとシオンに勘繰られると思い、黙っていた。


「どの店にする?」


 シオンは二人に問い掛けたが、光来は判断基準など持ち合わせていなかったので、リムに任せる事にした。


「そうね……」


 リムは何軒か物色してから「あそこにしましょう」と、店先に木で彫られた人形がぶら下がっている店を指差した。看板には『アウザ』と刻まれている。


「根拠は?」


 シオンの問いに、リムはにっこりと微笑んだ。


「ほら、軒下に人形がぶら下がってるでしょ。あれは旅の神『アウザ』を模したものよ。旅人のために験を担ぐなんて、配慮が行き届いてるじゃない」

「でも、アウザは……」


 シオンがなにか言い掛けたが、リムには聞こえなかったようだ。

「交渉するから、シオンも一緒に来て。キーラはそこら辺にいなさい」

 いきなり省かれてしまい、光来は焦った。


「なんで? 俺だけ?」

「あなたは賞金首に手配されてるでしょ」

「それはリムだって同じだろ?」

「ワタシは男装してないから大丈夫。それに」

「それに?」

「チャーミングな女の子が二人で行けば、値引き交渉しやすいでしょ」


 リムはウインクして目当ての店に向かったが、片目を瞑る仕草が不器用で、やり慣れていないのは一目瞭然だった。

 付いていくシオンも無愛想だし、あれでチャーミングな女の子の値引きなんかできるのか、不安に思う光来だった。

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