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銃と魔法と臆病な賞金首3  作者: 雪方麻耶
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街行く人々

 ディビドに到着したのは、ラルゴを出発して四日経過してからだった。ろくに交通網が発達していないにも関わらず、ほぼ予定通りに到着できたのは、光来にとっては驚きだった。

 ディビドは、これまで通過してきた街とは明らかに印象が違った。陰鬱というか、寂れているというか、あるべき活気がまるで見られなかった。

 道行く人々は示し合わせたように俯いているし、営業している商店も、とりあえず開けているといった感じだ。

 しかし、この枯れた空気は元からではなく、かつては賑わっていたであろう名残がある。地方で見られるシャッター通りを思わせる雰囲気だ。

 なんか、この場にいるだけで落ち込みそうだな……。

 光来の印象は、こっちの世界にも、景気のいい街、悪い街があるんだなという程度だったが、リムとシオンはそうではなかったらしい。しきりに周囲を見渡し、警戒までしている。


「どうしたの?」


 訊いてから、俺は間抜けなのかと焦った。二人の強張った顔で察しなければならないのだ。

 なにか良くない事の前触れ、いや、既に只中に身を置いているのか?


「変だわ? ディビドはこんなにうら寂しい街じゃないはず」

「そうね。いくらなんでも、人が少な過ぎる……」


 リムの疑いにシオンが追従する。


「ん?」


 老人が一人近づいてきた。

 リムが御者台から飛び降りた。光来も立ち上がった。愛銃であるルシフェルに手を掛けようとしたが、その手をシオンに止められた。


「シオン?」

「まだ早い」


 そう言いながらも、シオンの目は厳しかった。リムを見ると、デュシスに手を掛けていない。まだ状況がはっきりしないうちは、迂闊に敵対行動は取らないという事か。光来は納得しながらも、リムとシオンが、いつでも抜けるよう構えに入っているのを見逃さなかった。


「こんにちわ」


 老人は、こちらの気が削がれそうなくらい暢気な挨拶をした。しかし、そこはかとなく固さを感じる。ただの好々爺ではなさそうだ。

 リムはわずかに頭を下げた。老人には気付かれないくらいの、さり気ない構えはまだ解かない。


「旅人かね? なにもない街だが……」

「数日前、ダーダー一家が来たでしょ?」


 リムのカウンターアタックだ。いきなりの質問に、老人は穏やかな笑みのまま固まった。


「この街にいる間、どこに滞在していたか知りたいの」

「いや……? ダーダー一家? そん物騒な連中、来ていないがな」


 老人は狂言面で答えるが、額にはじっとりと汗が滲んでいた。

 いつの間にかリムと老人は注目を集めており、通行人が足を止めて遠目に見ている。人数は少なかったが、光来は居心地が悪くなった。


「そう。ワタシの勘違いだったかしら」

「そうだろう」


 あっさり引き下がったリムに、明らかに安堵している。表面にこそ出していないが、老人の周りの空気から、硬さが四散するのが伝わってきた。


「それじゃな」


 老人は去り際まで笑顔を崩さなかった。立ち止まっていた人々は、老人が歩き出したのが合図であったかのように、散り散りになる。

 関心はあるのに、当事者になる一定の範囲内には決して近づかない。事故や事件を目撃しながら、救済の手を差し伸べる事もせず、スマホを掲げて写真を撮る民衆を思い出させた。

 リムが御者台に戻った。すかさず、光来は感じた事を口にした。


「今の爺さん、なんか怪しかったな」

「そうね。でも……」


 リムは思案顔だ。振り向きもせず、街なかを、道行く人たちを観察している。


「食事……」


 シオンの声が、厚ぼったくなった空気の層をすり抜けた。


「なにをするにしろ、お腹が空いてたら上手くいかない」


 たしかにそうだ。リムも考えるのを止めて、シオンに同意した。


「それじゃ、酒場を探そうか」


 光来は、ラルゴでの聞き込みを思い出した。リムは主に酒場や市場を周った。色々な人種が集まる場所なので、情報交換が盛んなのがその理由だ。

 しかし、シオンは光来の提案を却下した。


「いいえ。酒場じゃなくて、レストランの方がいい。地元の人たちが利用しそうな。如何にも、昔から経営してる感じの」

「そうね。その方がいい」


 リムは手綱を打ち、馬を歩かせた。

 二人の会話で、光来も合点がいった。今回はダーダー一家からグニーエ・ハルトの痕跡を辿るのだ。旅人ではなくこの街で生活を営んでいる人から話を聞くのが道理だ。自分の考えの浅さが急に恥ずかしくなったが、リムとシオンは気にしている様子もない。


「それにしても……」


 リムは改めて街なかを一瞥した。


「不気味なほど静まり返ってるわね」


 寂れた通りに、リムが駆る馬車の蹄と車輪の音だけが響いた。

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