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奇跡の代償

作者: ダック

僕の住んでいる村はいわゆる限界集落だった。

周りを見渡せば老人ばかりで、同世代の人間はほとんどいない。

僕の家は母がおらず父は単身赴任で家を離れ、祖母と二人暮らしだった。

それでも僕、金森慶太はこの村は嫌いでなかった。

山に囲まれ自然は綺麗で、高齢の方が多いが農業が盛んで、活気もある。

この土地に生まれた事に誇りを持っていたが、嫌いなものもある。

それはある一つの伝承だ。

民俗学などでも取り上げられる事があるようで、夏休みなど、丁度今くらいの時期には大学生くらいの人もよくくる。


僕は奇跡が嫌いだ。


漫画や小説のようなフィクションの世界で起こる奇跡が嫌いだ。

この世界には願っただけで叶うようなものはない。

もっと嫌いなものは奇跡に代償を要求する話だ。

誰かを助ける為に自分を犠牲にする話は虫唾が走る。

あんなものは自己満足だ。その後の話がないから書ける。

その場で満足でも1年後、5年後、10年後、死ぬまでの話があったら誰も憧れないだろうし、共感がないはずだ。

それでもそういう話や伝承が残るのは奇跡が実際に起こしているからだろう。

昔はきっと神様と人が近い存在だった頃は、人が科学が発展しておらず、頼るものが無い頃は神様が力を貸してくれていたのかもしれない。

僕の住む村にも1つ伝承が残っている。

村の隅にある大きな池だが、神様が宿っている池と言われている。

この池に願いを叶える力があるという伝説が残っている。

願いの大きさによって代償は変わってくるが、何かと引き換えに奇跡を起こしてくれる。

それは現代の科学を持ってしても対応できない問題すらも、解決に導いてくれる。


村で代々受け継がれている昔話に世界を変える程の奇跡を3度は少なくとも起こしていると伝え聞いている。

1度目は遥か何百年も前の話だが、豪雨が続き作物が育たず、皆が飢えてなくなる危機に怯えていた頃に、一人の男がその身を投げて雨を止めたと言われている。

この男は村で生まれ育ち、村を愛していたと言われている。

皆の信頼を受けていたが故に、苦しんでいく中で何も出来ない事が歯がゆかったのだろう。

男は手を尽くしたが、どうにもならない人間の限界を知ってしまい、奇跡にすがる道を選んでしまった。

この行為は賞賛されているが、僕は嫌いだ。


2度目は1度目から100年程過ぎた頃の話だった。

大きな自然災害が起きた時の事だった。あまりの強風や雷、そして大雨で土砂崩れによって何人もの人間が亡くなっていった。

止まない風や雨に人々が絶望した時に、時の村長が身を投げて収めたと言われている。

村長は責任感の強い男だった。

代々村を守っている家系に生まれた事を誇りに思っていた。

家族を愛する男だった。

だからこそ、一人の人間として何も出来ない事を悔しがり、守る事が出来ない事に絶望を感じていた。

友達を亡くした事に悲しみ、次は自分の番かもしれなと日々怯える子どもを見て決心した。

池に身を投げ、奇跡に祈った。

結果、村は復興し、現在の繁栄の礎となったと言われ、賞賛されているが、僕は嫌いだ。


ここまでだったら自然災害のタイミングと身を投げたタイミングが重なっただけだと僕は思ってしまうが、近年に3度目が起きた。

これはたった40年前の話だ。

僕が生まれる24年前で、祖父母もよく本当の話だと口をそろえて言っている。

これが奇跡だとは今でも僕は信じていないが、周りは口をそろえて池が起こした奇跡だと言った。

ある少女がいた。

その少女は生まれた時から視力がほとんどなかった。

それを嘆き、諦め過ごしてきた。

非常に暗い娘だったという。

周りの親切に対しても素直に受け止める事が出来ないくらいに人生に絶望していた。

そんなある日、村に派遣されてきた医師がいた。

彼は都内から志願してきたという。

村に派遣される先生は普段は高齢の方が多いのだが、30代前半と若かった。

非常に勉強熱心で普段ならこんな辺境地にくるような人材ではなかった。

辺境医療に強い憧れを持ち、使命感に燃えた若者だった。

だからこそ、少女に対して何も出来なことが辛かった。

専門では無い、命に関わるものではない、生まれついてのもので自分がした処置が原因でも無い。

誰も彼を責めないし、少女も彼に期待すらしていない。

むしろ彼は派遣医としては非常に歓迎を受け、村の一員になっている。

少女も目の事は別として、信頼は非常に持っていた。

彼にはそれが辛かったのかもしれない。

その信頼して接してくれる少女が自分に何の期待もしていないのが辛かった。

少ない人脈を活かし、専門の先生に見せるも治せる見込みはないという。

少女はどんどん傷ついていった。

今までは期待もしていないから保っていた心を、彼がしている親切によって壊してしまった。

少女は誰とも関わらなくなってしまった。

そして彼は決心して池に身を投げた。

幸い彼は発見も早かった為、すぐに救出された事によって、命には別状は無かった。

だが彼の目から光が奪われてしまった。

彼は失意のまま、村を去ったという。そしてその後どうなっているのか、誰も知らない。

しかし彼の起こした行動は無駄にならなかった。

彼が以前紹介した先生の伝手で、ある医者が少女に興味を持ったという。

手術をする事になり、少女は光を手にした。

僕は人の努力が否定され、奇跡として片づけられてしまったこの話が嫌いだ。

そして安易に奇跡にすがった医師の事も嫌いだ。

逃げずにいれば、一緒に分かち合えたかもしれないのに、その機会を失ってしまったのだ。

人々は現代の奇跡と言うが、僕は認めない、認めたくない。



「また読んでるの?」

僕がこの村の奇跡をまとめた本を読んでいると、後ろから声がする。

目の前には奇跡を起こす池が広がっている。

僕は腰を掛けていたベンチから立ち上がり、後ろを振り向く。

「耕子」

目の前には黒い髪を長く伸ばし、前髪は目にかかる程伸びている背の高い女性が予想通り立っていた。

彼女は越田耕子、同じ年に同じ村で産まれた唯一の子立った為、兄弟同然に育てられた。

「またって言う程は読んでいないよ」

僕は見上げながら、答える。女の子なのに僕よりも5センチ以上高い。

「最近は毎日読んでるじゃない」

「夏で暑いから、この辺は涼しいから」

「それ、毎日同じ本を読んでいる理由にならないよ」

彼女は笑いながら、僕が腰を掛けていたベンチに座る。

「うるさいな」

「慶太は嫌いだと言いながら、最近その話ばかり読んでいるよね」

僕は何も言えず、ベンチに腰掛け本に目を落とした。

「何か奇跡にでもすがりたい事なんてあった?」

「それを・・・・」

それをお前が言うか?

と続けたかったが、言えなかった。

彼女は1年以内に亡くなるらしい。

らしいというのは詳し話は僕も聞かせてもらえていないからだ。

しかし避ける事は出来ないらしい。

1年くらい前から都心の病院に行っていて、帰ってきたと思ったら、第一声が「私、1年以内に死ぬらしいんだ、私の分まで村の若者代表で頑張てってくれ」だった時は冗談かと思ったが、どうやら違うようだ。

今の元気な様子を見ていると信じられないが、後半年しか残されていない。

本人は運命を受け入れているのか悲観する姿を一切見せない。

その姿が腹立たしい。

家族の前でも変らない様子なようで、母親からは相談を受けたくらいだ。

物事の大きさが分かっていないのか、それとも現実を直視出来ず、心が壊れてしまったのかと心配されていたが、僕には正気にしか思えない。

それが非常に腹立たしい。


僕が言葉を紡ぐ事が出来ず、黙っていると耕子は立ち上がる。

「ちなみに私はあるよ。奇跡にすがりたい事」

僕が期待の眼差しで彼女の顔を覗くと微笑んでいる。

「どんな?」

「村が良くなって欲しい」

「は?」

僕はこんな時にまでと呆れる。

そしてあまりにも予想外の答えだった為、何も言う事ができなかった。

もっと生きたいや病気を治したいというストレートな答えは期待していなかったが、流石に斜め上すぎて、どう答えたらいいか、咄嗟には出なかった。

「村は嫌い?」

「好きだよ。でも、良くしていかなければいけないものもあるでしょう?」

「どうかな?良くなるって事は悪くなる部分もあるんじゃない?」

「へえ、例えば?」

耕子は少しにやけて、首を傾げて聞いてくる。

言わせたい事も分かっている。

僕らの夢ではあるが、だけど、今はそれを伝える状況ではない。

「何かを変えたら、それを受け入れて歓迎する人と、逆に困ってしまう人がでるでしょ?」

「分かってるじゃない。なら止めてね」

「何が?」

「はっきり言った方が良い?」

「僕は飛び込むつもりはないよ」

「そう、それならいいけど」

耕子は言いたい事だけを言い切ると戻っていった。

僕は後ろ姿をずっと眺めていたが、一度も振り返る事がなかった。

耕子は何時も僕と意見が相違すると僕に考える時間を作らせてくれる為に今日のように自分から去っていく。

僕が悪いよというアピールなのか、必ず寂しげに振り向いてきた。

今日はその余裕すらないのかもしれない。

そして昔は力強い足取りであったが、今は歩くのも辛そうだ。

確かに少しずつだが弱っているのかもしれない。

最近は1日に30分程しか姿を出さなくなった、弱っている姿を人に見せるのが嫌なのか、見栄っ張りな性格だ。

最後まで意地を貫くつもりらしい。


時間は何もしなくても過ぎていく。

僕が何も行動に移せない間も耕子が弱っているのか、姿を見せない日々が続いた。

僕は夏休みということもあり家の手伝いくらいしかする事がなく、時間があれば一人で池に行き、伝承を纏めた本を読んでいた。


今日も夏らしく汗が滝のようにでるが、僕は途中で水を買って、日課になっている池に向かう。

僕が池に着くと、先客がいた。

見慣れない20歳前後の男性だった。

身長は非常に高く、身体全体に厚みもある。それでいてしまった印象を受ける。

テレビで見たラグビーの選手と言われたらしっくりくるような人だった。

顔が童顔であった為、20歳くらいかと思ったが、もしかしたらもう少し上かもしれない。

僕が少し戸惑いがちに近づいていくと、男は気がついたのか振り返る。

「こんにちは」

まだ随分距離があったが、見た目の通り少し高い声だったが大きな声で声をかけられてしまう。

僕は思わず足を速め、近づいていく。

「こんにちは」

「ごめんね。焦らせちゃったかな?この辺りの子だよね?」

「そうです」

「失礼になってしまうけど、若い子がほとんど居ないと聞いていたから会えて良かったよ」

「どうも」

恐らく他の人には余り相手にしてもらえなかったのだろう。

「この辺りの伝承を調べているのだけど、詳しい?」

「人並み程度には知っていますけど、体験している訳ではないので、祖父母から聞いている程度ですよ」

「少し聞かせてもらえない?他の方からは余り聞かせてもらえなくて・・・」

「多分、誰も話してくれないですよね。うちの村は外の人間に冷たいので」

男は少し苦笑いを浮かべる。

「どの話ですか?僕が話せる事は限られていますけど、話せる範囲だったら全然良いですよ」

「助かるよ。そういえば名前をまだ名乗っていなかったね。俺は本田泰之、大学生で今は21歳。呼び方は好きに呼んで」

「僕は金森慶太です。高校1年生で、この村で生まれたので、この本に載っていない事も多少は話せますよ」

僕は毎日読んでいる本を出す。

この村の奇跡の池を扱った書籍はこれくらいだから、恐らくこれを読んで来ていると思ったからだ。

「現地の人も読むんだ」

少し複雑そうな表情を浮かべる。

それもそうだろう。この本は奇跡の池を賞賛したり、研究している本ではない。

限界集落となりながらも、排他的な姿勢を崩さない村の在り方を批判する本だ。

3つ目の奇跡で身を投げた医師は、光を失った後も村に残ろうと考えたが、居場所が無く、追い出されるように村を出た。

少女の心情を考えての行動ではあったのだが、その嫌がらせは常識の範囲を超えたものだったと聞いている。

その他にも、外の人間が入ってくる機会があるたびに否定的な姿勢を村は崩さなかった。


だから僕と耕子は土地の自然は愛していても、村は愛せない。

僕らの代、と言っても数名しかいないが、新しい世代では受け入れるものは受け入れる。

この自然を愛してくれる人間を受け入れられる大きな村にしていきたいと夢を語りあっていた。

僕はいつかは出来ると思っていたが、先日の様子を見ると耕子は奇跡でも起きないと叶わないと考えているのかもしれない。

僕らもいつか染まっていき、内に籠ってしまい自分の知っている、大きな変化がなく、少しずつ衰退していく村と一緒に人生を終えるというのだろうか?


「多分、僕ぐらいしか読んではいないと思います」

「そうだよね。君は好きなの?」

「分かりません。ただ目が離せないんです」

「そう。ちなみに信じているの?」

「奇跡ですか?」

本田さんは頷き、池に目を向ける。

「正直、生で見ればもっと神秘的だと思っていたよ。写真で見るとただの池にしか見えなかった。でも実際に見れば違うと思っていた」

「見た感想はどうですか?」

「ただの池かな。この池に奇跡を起こせるのかと思ってしまうよ」

そう。ただの池だ。

奇跡なんて起こす力はない。

過去の奇跡も全て偶然だ。

「それで間違いないと思いますよ。僕が気になっているのは何でそんな話になってしまったかという部分です」

「君の見解は?」

「偶然が重なったからです」

「時間が空いてるからと言って3度起こるかな?」

そう、この池が奇跡の池と呼ばれるのは3度起きているからなのだ。

長い年月があろうが、3度同じシチュエーションになるのであれば、何かがあるのだろう。

「どうでしょうか?直近のものを除くと過去の話ですから、脚色されている部分もあるのかもしれないですね」

「そう、そこが聞きたかったんだ。この本に載っていない部分で伝わっている話とかないの?」

「小さい奇跡はいくつかあったみたいですよ。大切な物を投げ、その対価に奇跡が起こった話もいくつか聞いた事があります」

「なるほど、命だけじゃないんだね」

「そうです。ただ単に対価を要求するだけであって、起こす奇跡が命を懸ける程でなければ、命まではとらないと言われています。あ、でもあまりに足りな過ぎて投げ捨て損になった話も聞いた事があります」

「なるほど、命以外を対価に何かが起きた事もあったんだ」

「そうですね。まあ風習に近いですが、僕が産まれる前にも安産を願って池に野菜やお酒を祭っていますし、今も子どもが産まれる度に儀式的にですがありますよ」

本田さんは頷きながら、身を乗り出してくる。

「実益があった話は何かない?」

「そうですね。僕らよりも3つ上で今は村を出てるお兄さんのような人がいたのですが、告白前にここに大事にしていた時計を投げたら実ったくらいかな」

「それは分の悪い告白だったの?」

「どうだったのでしょう」

2人で笑い合う。

「そうか、でもやっぱり風習という形で実際に根付いてはいる事が分かっただけでも良かった」

「少しでもお役に立てたのなら嬉しいです」

「そうだ。俺は後3日はこの辺りにいるから、また話を聞かせてもらってもいいかな?」

本田さんが手を差し伸べてくる。

僕はそれを握り返す。

「話せる範囲であれば構わないですよ。むしろ僕も話を聞かせてもらいたいです。僕は明日、明後日ならこのくらいの時間はここにいますので、何かあったら来てください」

「うん、ありがとう。じゃあ俺は今日は一度戻るよ」


翌日も僕は池に向かう。

予想通り本田さんは池にいた。

予想外だったのは、その恰好だ。

全身黒のタイツで、しかも身体はびっしり濡れている。

池に潜ったとしか思えない格好だ。

僕は何て声をかけたらよいか分からず、立ち尽くしてしまった。


僕が暫く立ち尽くしていると、身体を乾かしているのか、汚れをとっていたのか分からないが、身体を拭いていた本田さんが僕の姿に気づいたのか手を振ってきた。

僕もそこで我に返り、会釈をして再度歩みを進める。

近づいていくと、本田さんの身体につく汚れに気づく。

改めて考えると池の中はゴミだらけなのかもしれない。


「やあ」

「こんにちは。池に潜ったのですか?」

「うん。どんなものが落ちているか、自分の眼で見てみたくてね」

「どんなものがありましたか?」

本田さんは池の方を向き、少し苦笑いを浮かべる。

話をしようか、少し悩んでいる様子だ。

「浅い所くらいしか見てないけど、ゴミだらけだよ」

「今の格好を見れば少しは分かります」

「やはり最近は廃れた伝承のようだね」

「どうしてですか?」

「落ちている高価そうな物が時代を感じるものが圧倒的に多かった。腐敗しているものが多くて、正確な所は分からないけどね」

本田さんは何か確信したものがあったのか、昨日よりかは興味がなさそうだ。

「君は潜った事なかったの?」

「ないですよ。というよりも潜ったのを見たのも初めてです」

少し悔しそうな、納得がいったような表情を浮かべる。

そして少し僕をにらむような目つきで見てくる。

僕は何かしてしまったのだろうかと、困惑していると、本田さんはばつが悪そうな表情を浮かべ、身体を拭き直す。

「君は純粋な子なんだね」

「どうしたのですか?」

「ごめん、悪い意味じゃないよ。良い意味でこの村が好きなんだろうなと思っただけさ。気分を害したのなら悪かった」

「いえ、特にそんな事はなかったですが」

身体を拭き終えると、荷物をかたずけ始める。

僕があっけに取られている間に、帰り支度を終えてしまう。

「もし、君がすがらないといけない心境だったら話しておくけど、池には飛び込んでは駄目だよ」

俺なんかが言っても無駄だろうけど、と小さく呟き帰っていった。


僕は不思議に思いながらも、本を読む。

何度も読み直した奇跡の物語。

僕が嫌いな物語だ。

何かを叶える為に、自分を犠牲にする物語。

この村で昔、本当にあった物語だ。

日本でも三俣淵など、世界的にも同様の伝承は形はその国の文化によって違うが、多々あるものの1つだ。

ただ、この伝承を形として残しているのは、この本1冊だった。

そしてほとんど売れておらず、世間にも全く浸透していない伝承。


月日は何もしないでも流れていく。

僕は高校に通い、休みの日に池を眺めながら本を読む。

耕子はとうとう外にも出れず、家で寝込む毎日を過ごす。

そして1世帯村から離れていく。

悪い方にばかりしか僕の周りは動いていかない。

それでも僕は何もできないし、何をしたら良いのかすら分からない。

昔は良くしていきたいと思っていた村も、どんどん人が居なくなっていく。

村は人によって成り立つ、そこに居る人達がいなくなってしまえば、何も出来なくなってしまう。

夢を語り合った相方は居なくなってしまう。

僕よりも頭が良く、何でも出来ていたのは彼女だった。

僕は彼女の壁になれたらそれで良かったのに、僕が残った所で何も出来ないかもしれない。

僕はどうしたら良いのだろうか、そう思うと何時もここに足を運んでしまう。

村の誰もが信じていない、奇跡の物語の舞台に。


そして僕は決意する。

ここが最後のターニングポイントだと確信している。

この村を良くできるのは、僕ではないし、僕は背負う事なんてできない。

それでも何も諦めたくはないんだ。

僕はいつものように池に向かう。

いつもと違うのは、深夜遅い時間で、本を持っていない事だろう。

村で嫌われた伝承の本。

現代の日本でも、生贄文化があるような記載をされた事で、村の人たちは作者を非難した。

だからこの村では誰もこの本を読まないし、話題を出されれば冷たくあたる。

馬鹿にされていると感じるからだ。

僕も同意する部分は多い。

だが、この作者が本当に伝えたかった事は、この村の伝承だけだったのか?

僕はそう思わない。

何度も読んでいるうちに、本当に伝えたいのは、犠牲になった人たちの想いを伝えたかったのではないかと思えてきた。

だから僕は嫌いだ。


僕にはあの3人と同じ舞台にはあがれない。

村を救う、人を救うなんて高潔な想いは抱けない。

ただ、耕子が居なくなるのが嫌なだけだ。

一緒にこの村を良くしていきたかった。

一緒に時間を過ごしたかっただけなんだ。

居なくなるくらいなら、僕が居なくなりたい。


だから僕は決心した。

池につくと、何も迷わず身を投げた。

初めて見るその光景は予想以上に現実的だった。

ただのゴミ溜まりだった。

これでは本田さんもガッカリするだろうなと思ってしまう。

村では誰も信じていないし、あんな本の話題を出したら冷たく当たられただろう。

僕だけでも期待される役割を演じようと思ったが、この中を見たら分かってしまう。

この池に奇跡を起こす力なんてない事。

だけど、本当に零なんだろうか?

自分でも否定だけはしたくなかったのも事実だ。

だから僕はここにいる。

段々と苦しくなってくる。

苦しい中でもそろそろ願いを意識しないと叶わないかな、何て思っていたが、そんな事も考えられなくなってくる。

目の前が真っ暗になっていく。

意識もなくなってくる。

今ある感情はただ苦しいだけだ。

僕のしている事はただの自殺だ。

けれど、こんな中でも強く願えば叶うような気がして、最後に残っていた意識では耕子が浮かんだ。



途中で何が書きたいのか分からなくなってきてしまいました。

この量でもこうなってしまうのだから、長編なんて暫く描ける気がしないです。


当初、人の出来ない事をする自分に酔っているけど、それって逃げたい気持ちを隠したい、否定したい主人公を描いてみたかったというのみのコンセプトで始めてみましたが、それすらも見失ってしまいました。

加筆修正してみましたが、修正出来ず。

面白いけど、モヤモヤしてしまいますね。

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