このパーティーで海行ったら最高だよね? 3
「感動しているところに水を差すようで悪いが、これはあくまで『調査』なのだぞ?」
と、海に見とれていたカノンたちの意識を現実に引き戻す声が響いた。
誰であろう、ウェロスである。
ウェロスが遅れて馬車から降り、カノンたちを見渡す。
「あっはい...。そうでした...。」
「.....。」
ウェロスは落ち込むカノンたちをもう一度見渡し、顔をほころばせた。
「...まぁ、今日は私が事前調査をするだけだから、何をしても良いが。」
「マジですかっ!?」
「あぁ。」
「ひゃっほーい!!!早く行くぞ!リア!」
「わ、分かっている!」
「待ってくださいカノン殿~!ほらファロンちゃんも行こ!」
「は~い!でも。」
ファロンの「でも」という声でみんなが振り向く。
「水着って持ってきたんですか?」
「「あっ。」」
反応したのはリアとレース。
「そうだった...。べ、別に遊びたかったわけでは無いのだがな...。」
「うっかりミス!やっちゃった...。」
あきらかにテンションダウン。
それを見てカノンは自分が企むことが無事成功したことをほくそ笑んだ。
「フッフッフ!」
「何で笑ってるんですか?」
一人だけ平常心のファロンがカノンに問う。
「リア!レース!」
未だ放心状態の二人に声をかける。
「落ち込むのはまだ早いぜ!」
「「?」」
カノンは馬車の中では誰にも見せなかった『アレ』を日の光にさらす!
「ジャジャーン!」
そう!水着である!馬車の中で荷物の中に入れておくと誰かに見られる可能性があったため、カノンが自分で持っていた。
「「そ、それはまさか!?」」
リアとレース、見事なシンクロ。
「今日は海で『水着パーティーじゃぁぁぁ!!!』」
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ジリジリと肌を焼く日の光。不規則に音を立てる波。
その全てが愛おしい。
今、カノンはリアたちに水着を渡し、着替えているのを待機中だ。
そわそわが止まらない。特にリアの水着はやばいんだろうな。
「カノンさ~ん!」
「その声は!」
バッと後ろを振り返ると、そこにはファロンとレースがいた。
お、おぉ~!
ファロンはもとから頭が良く、自分の『属性』というものを良く理解している。
カノンがあげた幼い水着を難なく着こなし、フリルをひるがえしながら幼女的な笑顔を浮かべる。
「どうですか~?」
「もうねっ!最高だねっ!うんっ!ファロンはよくねっ!自分のことをねっ!良く理解しているねっ!うんっ!もうっ最高だねっ!うんっ!」
「そんなに褒めないでくださいよ~。照れるじゃ無いですか~。」
「カノン殿~!私は~!」
レースは少々のバカ属性が入っているため、オレンジがよく似合う。
若者が着るようなビキニタイプの水着を元気よく着ている。
「うんうんっ!レースもねっ!良いねっ!似合ってるよそれっ!やっぱりレースにはオレンジがよく似合うねっ!うんっ!」
「そうだよね!私もオレンジ色素敵だなって思ってたんだ!」
カノンは水着をあげて本当に良かったなと思った。
だが心底ではない。なぜなら...。
「お~い!リア~!どこだ~い!」
リアの姿を探したが、いない。
と、ここで近くにあったヤシの木っぽいものに体を隠し、顔だけこちらに出したリアを見つけた。
「あっ!いたいたっ!リア~!出ておいで~!」
「し、しかしだな...!こ、この水着は...!」
「私よりも良い物持ってるくせに何を恥ずかしがってるんですか!」
「そうですよリア様!」
「う、うぅ~!もうどうなっても知らないからな!」
と言ってリアはヤシの木から全てをさらけ出した。
「.....っ!」
カノンは驚いた。ここまでとは思わなかった。
カノンがあげた水着は端っこが紐で今にもほどけそうなスリルを味わえる。
しかし。そんなことは胸部の前には霞と同じだ。
溢れんばかりの、抑えるものがただの薄っぺらい布一枚の、リアの胸。
歩く度にむにゅんむにゅんと音を立てそうなほど揺れる揺れる。
その動きをついつい目で追っていってしまう。
やばいやばいやばいっ!これはやばいっ!治まれ俺の『俺』!
下腹部に血が集まっていくのを必死に抑え、コメントを言おうとするが、言葉が出てこない。
「ど、どうだ...?カ、カノン?」
真っ赤になった顔でリアが聞いてくる。
「あ、いや、うん。凄く良いよ。うん...。うん。最高。最高だよ...。」
俺自身、もの凄い衝撃を受けて、立ち直れなかった。
すると、リアの顔が曇り、
「わ、私の水着姿はそれだけしかコメントされないのか...?その程度なのか...?」
「い、いやいや!そんなことないよ!逆にね!逆に凄すぎて見とれちゃったというか!コメント出来ないほどにきれいだったというか!リアの美しさを表す言葉が見つからなかっただけだって!本当に!これマジ本当!」
「ほ、本当か...?」
「うんうん!本当本当!」
「そ、そうか。それなら良かった...!」
とリアの顔に喜びの色が広がった。
.....可愛い。やっぱり可愛い。これでエルフだったら...。
金髪碧眼なんだが、どうも耳が長くないんだよな。
でもいいか。金髪碧眼なんだし。可愛いし。でかいし。
でもやっぱり『エルフ』というところがミソなんだよな。
『エルフ』以外の女性なんて...。
いかんいかん。気持ちを切り替えて。
「よしっ!みんな揃ったところだしっ!海を満喫するぞっ!」
「「「おー!!!」」」
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夕焼けが海に沈んでいき、何とも言えない前幻想的な空気を作り出す。
他の観光客はもういない。波の音だけが響く。
それにしても。リアのでかさは本当に凄かった。他の観光客も驚いてたもんな。
「疲れたのか?カノン?」
砂浜に体操座りしていた俺の隣に水着姿のリアが座り込んだ。
「んいや。ちょっとボーッとしてただけだよ。」
「そうか。」
ここで、リアが姿勢を整え、俺の方に向き直した。
「ん?どうかしたか?」
「あぁいや。別に大したことは無いんだが...。カノンに感謝したくてな。」
「感謝?」
「あぁ。今日は本当に夢のように楽しくてな。団長なんてやってる身だ。自分自身に多くの枷を付けてしまってな。海で遊ぶなどしたことが無かった。だがそれでも良いと思っていた。幸い、レースがいたしな。でも...。」
「でも?」
「カノンと出会ってしまったせいでな。止まらなくなってしまったのだ。欲が。『カノンと何かがしたい。』、『カノンと一緒にいたい。』とな...。」
「...。」
それって...?
「それに誰かと海で遊ぶなんてことも出来た。本当にカノンには感謝している。ありがとう。」
「.....。」
「な、何か言え!恥ずかしいではないか...!」
「お、俺も。」
「ん?」
「俺もリアには感謝しているんだ。俺は昔にあったある『物語』によって、普通の女性が信じられなくなってさ。女性とうまく話せなくなったんだ。」
「『物語』とは.....?」
「.....。」
「いや言いたくなかったら良いのだが。」
「いや言うよ。」
俺は深呼吸する。
さぁ話そう。俺の全てを。今の俺を形創っている『物語』を。