おくのみく
先程の電話が来てから、あの騒がしかった真が黙りこくっていた。
「なあ、さっきの電話一体何だったんだよ。」
「本当にごめんな、隼人。俺馬鹿だけど、やばい事しちゃったって分かる、、」
「だから、どんな事件だったんだよ。」
さっきからずっとこの調子で話そうとしない。
電話が来てから、あたりの人たちがせわしなく動き回っている。まだ新しい職場で、どうしたらいいのか分からない隼人が頼れるのは真だけだ。でも、その頼みの真とは全く話が出来ない。何も出来ない隼人は次第に苛立ち始めた。
「おい、真!」
ヅカヅカと真に近付き、一発殴ってやろうと思った瞬間―
パチーーンと乾いた音が響いた。
静まり返った部屋で、床に倒れ込み頬を抑えた真が視線を集めた。
真の目の前で仁王立ちしている女性が口を開いた。
「落ち着け!」
「はっ、はい!」
真はハッと我に帰ると、すぐさま立ち上がり女性に頭を下げた。
「すいません、先輩、取り乱してしまって、、、」
「分かったから、事情を説明してくれ。あの新人にもな。」
そう言いながらその女性は隼人の方をふりむいた。黒く腰まで伸ばした黒髪をなびかせながらヒールをカツカツ鳴らして近付いてきた。目の前まで来ると、隼人を上から下まで観察して、口を開いた。
「一課から来たにしては、刑事っぽさがないな?」
「あっ、はい。一課から配属された中山隼人です。俺、交番勤務が長かったもので、最近刑事になったばかりであります!」
先程の彼女の暴挙を思い出し、語尾が委縮してしまった。隼人が一生懸命答えるのを見て、彼女は笑った。
「そんなに固くなるな。取って食おうってわけじゃないんだ。私は、奥野実玖だ。よろしく。」