言えない
他の部署への転属を命じられた時、心の中で
「やっぱりな」そう思った。
あれだけのミスを重ねて、この話をされるのも時間の問題だと思っていた。
不思議と未練はなかった。きっと、自分でも気づいたんだろう。
ここは俺みたいな生半可な気持ちの奴が居ていい場所じゃないって事に。
「にしても、交番勤務になるかと思ってたら、二課に移動かあ~」
ぬるいビールを一口飲んで、携帯を手に取った。
桃子さんに連絡するチャンスだよな、、、隼人はアドレス帳から桃子さんの連絡先を探し出し、通話ボタンを押そうとして止まった。
「、、、もう、1時か。桃子さん、寝てるよな、、」
起こしちゃ可哀想だよ、また明日にしよう。また自分に言い訳をして携帯を置いた。今日も逃げてしまった。
「シャワー浴びるか、、、いや、明日の朝にしよう、、」
ふと、あの日桃子さんが書いた置手紙を思い出した。
―少し田舎に帰ります。子供達の事は気にしないでください。
隼人さんの仕事が落ち着いたら電話ください。待ってます。 桃子 ―
桃子さんは待っているのに、俺の心の準備がまだできない。
「帰ってきてくれ。」
その一言を言う勇気がまだ俺にはない。
自分を責めながら、隼人は眠りについた。