練習試合 対所沢農大戦 前田雅則初登板
ブルペンで前田は投球練習をしていた。
原田拓海
「前田ぁ。次の回からだな」
前田雅則
「はい」
前田の球を受けていた3年の原田は前田の肩を叩き
原田拓海
「楽していけ。緊張したって始まんないし所詮は練習試合だ。自分がやりたいようにやれ」
前田雅則
「はい」
前田はマウンドに駆け出していった。
安藤敬介
「あれが前田かぁ」
熊谷雅之
「そうですね」
マウンドで前田は投球練習を行う。
バシィ
バシィ
松田信夫
(130前後だな。キレの良いスライダー持ってるし。中学生にしたらかなり良いな…)
バシィ
バシィ
投球練習が終わり松田が声を張り上げる。
松田信夫
「ラスト2回しまって行こうぜ!」
打席には本町が立つ。
松田信夫
(よぉし。それじゃここだ)
松田はインコースに構える。
前田はゆったりと振りかぶり。
ピシュ
投げた。
本町真
「んんっ?」
カキィン
主審
「ファール!」
本町真
(意外とノビてるな)
前田雅則
(硬球って縫い目に引っかけやすいし石みたいに思いから良いな…)
前田は松田のサインに頷いて2球目を投げる。
本町真
「おぉ!」
バシィ
主審
「ストラィッ!」
松田信夫
(高め空振ってくれた)
本町真
「タイム!」
本町はタイムをかけた。
主審
「ターイム!」
本町は手袋を脱いで息を整える。
本町真
「OKです」
主審
「プレイ!」
松田信夫
(内、内と来たら…)
松田はサインを出す。
前田雅則
(はい)
本町は手袋を脱いで息を整える。
本町真
「OKです」
主審
「プレイ!」
松田信夫
(内、内と来たら…)
松田はサインを出す。
前田雅則
(はい)
前田は振りかぶる。
本町真
(外だな)
本町は踏み込む。
しかしボールは本町の視界から消えた。
本町真
「え?」
バシィ
主審
「ストラィッ!バッターアウト!」
本町は空振りした後松田の方を向いた。
松田信夫
(ったく。こんなのかよ…)
松田のグローブは外ではなく内にあった。
本町真
「………」
本町は前田の方を見ながらベンチに戻る。
坂原拓海
「凄いスライダーだな」
坂原はそう呟きながら打席にたった。
坂原拓海
「まぁそのスライダーしか無いのかな?」
ピシュ
バシィ
主審
「ストラィッ!」
坂原拓海
(このスライダー打席でみると結構曲がるなぁ)
松田信夫
(一筋縄ではいかないな…)
松田は一球外すようにサインする。
バシィ
主審
「ボール!」
前田雅則
「ふぅ」
松田信夫
(次は)
ピシュ
カキィ
当てただけの打球は3塁線を切る。
3塁審
「ファール」
坂原拓海
(今のはスライダーじゃないな…)
前田雅則
(次は、わかりました)
ピシュ
カキィ
今度は1塁線を切る。
1塁審
「ファール!」
松田信夫
(粘るな…)
坂原はバットを持ち直していた。
前田雅則
(スライダーをファールされ、カットもファールされた。あとは…)
前田は松田のミットにめがけて投げる。
ピシュ
坂原拓海
「むっ…」
カキィン
平田祥二
「オーライ!」
平田がしっかり掴み1塁送球
1塁審
「アウト!」
前田雅則
「あとは力込めた速球!」
前田は小さくガッツポーズをした。
前園裕也
「かなり良いな。あいつ」
山田信司
「1年の時のおまえぐらいじゃない?」
3年のバッテリーがそう批評するが
前園裕也
「まぁでも次だな」
山田信司
「あぁ」
主砲の田中慎也が打席に立った。
前園裕也
「中学時代は全日本経験者だけに、2人とは違うからな…」
田中慎也
「あの1年かなりやるな」
田中はバットを回しながらそうつぶやく。
松田信夫
「田中さん手加減してくださいよ」
田中慎也
「考えてやる」
田中慎也。中学時代は全日本選手として出場したことある選手。いくつかの強豪校から推薦を受けていたが、実家の家業を受け継ぐのを理由に所沢農大高校に入学した。卒業後大学行き実家の家業受け継いだが30歳の時母校の監督に就任して甲子園に出場するがそれは遠い未来の話しである。
バシィ
主審
「ボールツゥ!」
松田信夫
(2ボール…)
前田雅則
(打たれる気がする…)
前田は弱気になっていた。
自分よりはるかに格上の相手だ。
こっちはまだ中学気分が抜けない高校一年に対して相手は来年から社会人になるかもしれない高校3年生。しかも高校通算30本ときた。
前田雅則
「うわぁ…」
前田はしきりにプレートを外している。
それを見た松田はタイムをかけてマウンドに行った。
松田信夫
「緊張してるのか?」
前田雅則
「は…ハア…」
前田の表情は硬くなっていた。
松田信夫
(こりゃほぐさないと一発打たれるなあ)
そう考えた松田は前田の肩を叩き
松田信夫
「いいか、これは練習試合だ。相手は本気じゃないし、それにあっちだって最初は1年だったんだ。おまえと同じだったんだ。だから思い切りいけ、経験がちがうだけなんだから」
松田はそう囁いて戻った。
前田はマウンドで大きく深呼吸をした。
前田雅則
(そうだよな。別に打たれたって構わない。だって1年と3年だもん。打たれたって敗退じゃないんだから)
松田信夫
(よし、硬さがとれた。いけるな)
前田は振りかぶった。思い切り
ピシュ
腕を振った。
田中慎也
(おっ)
カキィン
竹岡が捕球し難なく1塁に投げる。
1塁審
「アウト!」
田中慎也
「なかなか良い球だったぜ。勢いのある」
松田信夫
「OK!ナイスピッチ!」
熊谷雅昭
「あいつ3人で抑えやがった!」
山田信司
「松田のアドバイスが効いたな」
前園裕也
「見た感じクソ真面目ですからね。正直に受けとめたんでしょ」
山田信司
「白学では珍しいタイプだな。おまえも奥山も藤沢とかも『どんな打者でも空振り三振させてやる』って闘志剥き出しだもん」
前園裕也
「熊谷(満)は?」
山田信司
「あいつはまず打者を見てないから…。ある意味楽だけど…」




