prologue
−それでも夜が優しいのは見て見ぬふりしてくれるから−
その時私は、自分の部屋の机の前でこんなフレーズを思い出していた。
2005年の6月になる少し前の事。
第一志望の高校に受かり、教室に入れば仲良く喋れる友達もいた。
高校でも吹奏楽部に入り、毎日の練習にも参加していた。
一見、明るくて前向きに生きているようだ。
だけど、私にはあの日々にあった物がない。
はっきり言って、どうしようもない場所だ。
取るに足らない事で騒ぎ、真剣な話し合いが
先生も交えたお喋り大会になってしまう事もしばしばあった。
だけど、そんなどうしようもない場所で毎日笑っていた。
私は何回目になるか分からない回想をした。
実は、引越しするのはこれが始めてではない。
小学校2年生の時は、東京から山形に行った。
そう、元々住んでいた所に戻る為の引越しだったのである。
そうは言っても、いじめられっ子だった私にとっては
いい話ではなかった。
勿論、山形でイジメがなかった訳ではない。
ただ、小学校5年生位からは友達も出来て、
それなりに楽しい日々を送っていた。
それがまた…前の引越しだって半分は、
イジメから逃げる為の引越しだったのに…
私は、絶望的な表情だっただろう。
だが、そんな私に思いもかけない幸せが訪れた。
亜矢ちゃんが声をかけてくれたのだ。
彼女は私と同じクラスで勉強も運動も出来て、性格も完璧。
勿論、みんなから愛されている可愛い子だった。
彼女は受験をするので、同じ中学校には行けない。
それでも、まるで亜矢ちゃんの真逆のような
私と友達でいてくれるだけで幸せだった。
だが、その幸せは長くは続かなかった。